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 アクセサリーショップ。野薔薇ちゃんさんや西桃ちゃんさんやミミナナちゃんさんが来ないだろうかと思っていたら。なんとそこには、上の方で髪をくくった真っ黒い大男がやってきた。目立つ。目立ちすぎる。それでいいのか祓ったれ本舗?

 とりあえず、カシャ。ピアスコーナーに忍ぶ夏油様。これは。自分へのピアスか、囲ってると噂のミミナナちゃんさんへのプレゼントか。

 息を顰めながら夏油さんを観察する。すると夏油さんは自分の耳からピアスを外した。カシャ。
 やっっっぱり拡張じゃなくて福耳だったんだ!!決定的一枚が欲しい!もう少し近づきたい、近くで撮りたいよ~~っ!!
 夏油さんは試着の鑑を覗きこみながら、次に女もののそれを耳に当ててみせた。カシャ。小さく夏油さんが吹き出したところを激写した。いや、何してるんですか夏油さん!?お茶目心最高すぎます!? うう、いい、凄くいい。
 悶えていたら、ふと振り返られて、バレた!?とドキっとしたのも束の間、彼は何事も無かった風にそのピアスをレジへと持って行きお買い上げして、真っ直ぐこちらへ歩いて来た。次はどこのお店へ入るんだろう。私は通行人Aのフリをして息をひそめる。

ちゃん。これ、似合うんじゃないかな」

 そう言っている目の前の夏油さんの顔がいい。まだ夏油さんの耳には、いつもの黒いピアスが戻っていない。その生耳を、無防備な耳を撮りたい。
 ふと手を差し出されて、目がそちらを追った。その掌の中には、さっきのピアスが。

「つけてもいい?君、ピアス開けてるよね」
「ひゃっ、え、っ!?」

 すっと耳に大きな手が伸びて来ていて、髪を余すことなく耳にかけられる。ま、ま、えっ、え? 夏油さんが薄く微笑み、私の耳元に顔を近づけて来た。いい匂いする、やっ胸板が近、えっ死ぬ、死、

「好きにさせてくれたら、あとで私の耳、撮影しても構わないけど。どうする?」
「っどうにでもしてください…!」

 ひぃ、死ぬ、囁かれた、声が、声がいい。絶対的に、声が。ひ、っひぃ、過呼吸になって死ぬ、昨日から食べてない胃が痛い。しぬ。
 耳に触れている夏油さんの手が、指が。穴だけあけて、塞がないようにつけているだけの透明な私のピアスを、優しくねっとりと外していく。無駄にゆっくりな動作でされるのを受け入れていれるのは、自分から食べて下さいと言っているみたいで死ぬほど恥ずかしい。

「震えちゃって、可愛いね」

 教祖、今日は甘やかしモード、飴モードですねこれは。猿めは夏油様のお望みの通りに。身動き一つできません。耳の裏に夏油さんの硬い指先が触れて、いたずらに爪で甘く引っかかれるとダメだった。キャパオーバーで浮かんできた涙のおかげで瞬きせずに済んでいる。
 夏油さんは、ふふっと笑って、ようやく私の耳にピアスをつけていった。

「やっぱり似合うよ。それ、贈らせて。私だと思って、いつもつけてて欲しいな」

 愛しいものでも見るように、夏油さんが目を細めてみせる。死ぬ。死んだ。すき。推しが眩しい。ドSな夏油さんの微笑みもいいけど、やっぱり優しく微笑んでくれる顔が好きすぎて死ぬ。死ぬ。死んだ。全部いい。



 は、と思ったら、個室になっているレストランらしきところに来ていた。しまった、記憶をなくしてた。向かいに座っている夏油さん!?えっ!?が髪を整えて、私に耳を晒してくれている。存在してた記憶!?

「ほら、約束の私の耳。撮らないの?」

 って夏油さんの声が聞こえた。と、と、撮るます。撮ります! いつもの黒いピアスを取ってくれている、貴重な、耳。み、みみ。おみみ。なまみみ。みみみ。…一番いい角度。一番映えて、萌える、悶える角度。かつ、真実が伝わるように。もうだめ、尊い、死ぬ、し、う、っひゃあ~~!!カシャ。

「…おっきい耳たぶ、です」
「うん。悟には負けるけど、お金は持ってる方かな。だから遠慮せず、好きなのものを頼んでね」

 夏油さんがメニューを渡してきてくれて、私にカメラを片付けるように促す。存在しない、する、しない、す、……分かんないよぉ~~!!!



 はぁ、やっと今日撮った写真に目を通し終えた。死ぬかと思った。悶えすぎてつらかった。けどやっぱり最後にあった料理の写真は毎度の如くブレッブレだったなぁ。センス無、どこに置いてきたんだろ。凄くおいしかったのに。…お腹もいっぱいだし、今日のことは、やっぱり存在する記憶だったのかな。
 うーん、と耳を触ると、いつもと違う感触。ピアス。ッピアス!鏡を見た。~~っ存在する記憶!?

 祓本夏油、 
  拡張ではなく福耳だった――!