「先生!」
2100年、春、昼休み、中庭、晴れ。
「会えてよかった。先生も一緒に食わないか。いや、食ってもらえませんか」
彼が抱えている見知った紙袋からは、フランスパンの先がのぞいている。いい香りだわ。
「…こんにちは。君、小食だったのね」
「俺は先生とも食いたかったんです」
「おい、狡噛――」
後ろから追いついてきた、眼鏡のお友達も、同じ袋を持っている。とりあえず、見たことの無い顔だ、ということだけは記憶されている。
「ギノも座れ。先生と食おうぜ、先生もパン好きなんだ」
「…法学部の宜野座伸元です。狡噛、お前フランクすぎないか」
何て良識のある子だろうか。対照的に、今日の面倒くさい子はえらくご機嫌で、隣に腰を下ろされた。
「で、どれがお薦めなんだ?」
「……どれもうまい」
「店まるごとというわけか。――センセ」
むぐ、と彼が私の口にパンを押し付けた。…この子はあまり行儀が良くないようね。受け取りながら、一口齧って咀嚼し、飲み込み、息をつく。
「もう。人の口にいきなり何か入れるものじゃありません」
「昼、今からなんじゃないんですか。交換です」
私の膝の上に乗っていたフルーツサンドを、機嫌良さそうに彼が取り上げて、お友達に一つ差し出している。この子はかなり強引な子だったようだ。
「…貢物が趣味なの?」
「先生にだけね」
彼がすかしたように言い放ち、勝手に一口それをかじった。少なくとも、まずくは無かったらしい。
「強引な子は苦手です」
「…勝手に研究室には入りません。こないだ教材だって持って行きました」
「拗ねていますね。第一、お友達はそれで良かったの?」
「いえ、自分は。バイト先の廃棄で頂いているんですが、食べきれませんし、好きな方に食べて頂けるならパンも嬉しいはずです」
パンの気持ちを代弁されてしまった。真ん中に座っている一名が笑い転げている。
「ギノ、パン好きすぎだろ、っふ、」
「こ、狡噛、だってお前、これは、これはな…」
パンの気持ちを代弁するほどにパンが好きなお友達は、先から私のフルーツサンドを手に持ったまま、煩悩と戦っているようだった。
「このフルーツサンドは、そこの商店街で売ってるんだが、ツテでもないと朝から並ばなければ手に入らないんだぞ…!?もっと敬意を以って食せ!」
よく知っているじゃないか。このサンドは私のお気に入りであり、お店は学校の近くにあれど、一日限定数が決まっており、長蛇の列が途絶えない恐ろしいものだ。どこかの誰かはいつか、要らないなどとのたまった。
「お友達、食べたいのなら差し上げます。交換です。二つとも君が食べなさい」
強引な子の口からフルーツサンドを取り返し、お友達に差し出す。目が輝いている。
「よ、よろしいんですか」
「どうぞ」
「ありがとうございます…!いただきます…!」
敬意を以って食したお友達が、嬉しそうに悶えている。それは良かった。隣の子は拗ねている。
「先生、俺には」
やはり、二乗は好かないけれど、認めたところで揚げ足を取られかねない。そちらの危険性を取るのならば、妥協するべきでしょう。
「面倒くさい子さん、退去を促しても良いのよ」
「…いやです」
紙袋から一つパンをもらって、彼の口に押し付ける報復を行う。私も好きなパンを頂き、舌鼓を打つことにした。
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