「茶葉の君、こんにちは」
2100年、春、校内、廊下、晴れ。
「こんにちは、狡噛です、一年です。先生、後ろ姿も覚えてくれたんですね」
後ろから声を掛けられ、振り返った。純粋に驚いた。とても嬉しい。
「失礼ね、一部の人の認識は出来るようになっています」
「AIかなんかと会話してる気分です」
「紅茶、美味しくいただいています、ありがとうね」
それだけです、と先生が先を歩いて行ってしまう。
「次の講義、先生です。何か手伝います」
「不要です」
何とか会話を続けたくて、何かないかと思考を巡らせる。
「あー、えーと、先生は、色、何色が好きなんですか」
「ラッピングですか?よかったですよ。ただの先生が大層困惑していました、とも、よろしくお伝えくださいね」
見透かされた返答をされてしまった。
「なんでわかったんですか」
なおも話を切り上げようとする先生にひたすらに食いつく。周りの視線が少し痛い。
「包装の形ですよ。お母様、中をラッピングして下さったんでしょう。店員の仕業ではありませんし、君がああも気を遣えるとは思えません」
「先生の好みを知らないからです。知ってれば自分でしました」
「先生の好みは面倒くさくないのです」
「他の先生だっているじゃないですか」
「面倒くさいですよ」
「俺は面倒くさくありません」
「そうですか」
「肯定と取りますよ」
「強引な人は苦手ですね」
個室の前に着き、先生が扉を開け、後ろ手で閉めようとされているだろうが、腕を滑り込ませる。強引に入室するわけにはいかない。やはり、ばきっと挟まった。
「っいて、」
「?あら。自業自得です」
先生はそれ以上閉めようとせずに、ドアノブから手を離した。
「入っていいですか」
「不要です」
「じゃあこのまま見てます」
「…もう。勝手になさい」
そういうところを許すから。先生が扉を睨んでらしたので、失礼して、後ろ手で閉めた。
常勤でも、非常勤ですらないだろうに、個室が与えられているらしい。
先生が、今どき珍しいアナログ媒体の本や、ファイルをピックアップして、机の上に置いていく。
「先生、大事にされてるんですね」
返事はない。向こうの壁には大きな本棚が置かれていて、中は隙間なく詰められている。興味の赴くままに近付いて、気になった背表紙を一冊、引っ張り出す。
「これ面白いんですか?よく評判を聞きます」
「今日授業でやります」
「予習で」
「面倒くさい子は好みじゃありません」
室内をぐるっと回れば、冷蔵庫、電子レンジ、オートサーバー、…学校は先生の好みを分かってないな。紅茶アソートの自販機と、多分、パンに特化したオートサーバーでも置けば、常勤になってもらえる確率が上がるだろうに。どうにか進言できないだろうか。
「行きますよ」
「また来ていいですか」
「入室をブロックしておくわね」
ひどいことを言った先生から、教材を根こそぎ奪い取って、こら、と怒られ、奪い返されてしまった。
「……そんなにですか。無理には来たくない」
俯けば、先生の靴のつま先が見えるのに。ため息をつかれた。
「君、メンタルの強さが足りませんね。変なところで拗ねる、面倒くさい子です」
「…強引な人と思われるよりマシです」
先生が、俺の腕の中に、どっさりと教材を戻した。
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