先生?」

 2100年、、昼休み、中庭、晴れ。

「こんにちは。自転車の君」
「狡噛です」

 ベンチに座り、微糖のフルーツサンドを頬張っている私の隣に、彼が近づき腰かけた。

「何年生?」
「一年です」

 向こうには女子生徒が隠れて、こちらをうかがっていた。

「自転車、漕げましたよ。ありがとう」
「良かったです」

 あと一つ、包まれているそれを彼に差し出す。

「いりません」
「あら。直ぐに連絡は付きませんよ」
「声をかけさせてもらったのはそっちでじゃありません」

 彼がリュックを漁り、律義にもアイロンまでかけられている、私のハンカチが帰宅された。

「ありがとう。お礼を言ってばかりね」
「…少し、相談したいんですが」
「女の子のこと?」
「…別に」
「自転車君は、そこまで鈍感そうには見えないけど」
「狡噛です。そのくらいは、まあ、何となく分かります。ただ、何で俺を好いてくれるのか、分からない」
「私も、何で君が自転車を直してくれたのか、分からないわ」
「…目の前で困ってる人が居たら助けるでしょう」
「ハンカチは返さなくても良かったでしょう」

 狡噛君は難しい顔で黙りこくってしまった。お昼を食べていないのなら食べた方がいい。ブドウ糖無しの考え事は致命的な鬱を生む。

「お昼食べに行ってきなさい」
「…なんで追い払うんですか」
「食べていないから」
「食べました」
「嘘つかない」

 フルーツサンドの包みをベンチに置き去りに、立ち上がる。「――先生、」「えーと…」「また名前覚えてくれてないんですか」突進してきた誰だか分からない男子生徒を避け、ちらりと後ろに見えた狡噛君は、口を尖らせていた。