みんなでクロスワードする
「う~~ん……」
「クロスワード? でかいな」
うん、と返事をし、悩んでいるところをペンで指した。新聞の片面一面に回答、もう片面に問題が乗っているクロスワード。凄いスケール。
「分かる? 硝子」
「んー……」
硝子は視線をくるくる移しながら「これはアポトーシス、これはアミロイドーシス、これはサルコイド――」「まままま待って!!」追いつかないしカタカナの羅列もう忘れた! もう一本ペン、ペン、ペンがない。あっ硝子に書いてもらえばいいんだ。
硝子にペンを渡すと、すらすらと早口言葉みたいな単語の羅列が埋まっていった。すごい。
「あっちょっと進めそう……」
医療系のよく分からない問題をホイホイ解いてくれた硝子のおかげで進めそう!! わっと思わずガッツポーズをしてしまった。硝子は私にペンを戻して席を立つと、向こうで冷蔵庫を開けてなにか物色している。多分ここに居てくれるつもりだろう。一人でやるより楽しいうれしい。“全部解いて埋めて個人情報を記入して送ると呪具がもらえる!”ってキャンペーンに応募するんだ。さあ進むぞ!
あっこれは呪力、これは呪具、これは呪詛、……ジが多い、ここ。でもサクサク進める!
埋めていくと、しかし更にわからない問題が我々に襲い掛かった。
「……これなんて読むの?」
「さあ」
隣に戻って来てくれた硝子はストローで紙パックのリブトンをちゅーちゅー吸いながらクロスワードを眺めている。困った。分かんない。“障泥烏賊”。しょうどろとりぞく。察するに、多分、なんたらイカ?
「何してるの?」
「傑。えっとね、呪具もらえるっていうクロスワードしてるんだけど、難しくて」
「へえ」
助けれくれないかな。助けてくれないかな。
テレパシーを送っていると、傑は呪具なんて本当にもらえるのかなあ、ふふっと笑って、机に手をついてクロスワードを覗き込む。もらえるって書いてあるもん。
「あ。これはアオリイカだね」
障泥烏賊????? アオリイカ??? アオリ?? 目がパチパチなるんだけど。
「これは?」
「これは、アカアシクワガタ」
似たような難読問題をペンで指すと、直ぐに回答が返って来た。“赤足鍬形”。読めるか!
傑はどんどん、なんだかよく分からない日本語の問題をするする教えてくれる。すごい……。しかも私が回答を書き入れるペースに合わせてくれるところが最高に優しくてちょっとむずがゆい。さすが傑。
「傑、文系強かったの?」
「そこそこね。あ、悟」
「よ。みんなして何してんの」
「クロスワードやってるんだよ。悟もどう?」
ふーん、と今度は反対側、私と硝子の間から五条がクロスワードを覗き込んだ。手元が暗い。大男、二人とも大きすぎる。
五条は無言で見ているので、私は今まで通りクロスワードを続けていく。考えて、書き入れて。私が躓くとどこからか答えが振って来る。やさしいせかい。
して。傑と硝子に教えてもらいながら埋めていくと、最終的に多分呪術関係だろうという難しい問題が残った。ジ連発のさっきはあんなに簡単だったのに。えーと。“特級仮想怨霊は何体いるか”。えーーーと。えーーー?
「十六体だね」
“ゴキブリの特級呪霊は何か”。
「ゴキブリいるの!? きもちわる……」
答えが振って来ない。
顔を上げると、傑は笑顔のまま眉根を困らせて首を傾げ、硝子はお手上げポーズを取っていた。五条が頭上で溜息を吐いた。
「お前等こんなんも分かんねーで呪術師やってんの?」
「ごめんなさい」
「黒沐死。こっちは両面宿儺」
「へええ~……」
とりあえずクロウルシにだけは人生で遭遇したくないことが分かった。ゴキブリの呪霊。嫌すぎ。特級なのも頷ける。次。
“前回の五条家の六眼は何百年前に生まれているか”。
「知らない」
「誰だこの問題作ったヤツ」
「五条家かな?」
「400年前だ400年前。覚えとけ」
次。“どういう特徴を持つ特級呪具の名称を答えなさい”。ユウウンだとかアマノサカホコだとかちょっと大分何言ってるか分かんない。すらすら言えちゃう五条がちょっとカッコよく思えて来た。凄い五条。五条。
「つか何コレ、漢字の問題まであんのかよ。センス古臭……これ誰解いたの」
「傑」
「医療系は硝子? お前は何解いたワケ?」
「うるさいな。いっぱんじょうしき解いたもん」
「プッ」
うるさいな。戦力外だもん。さっすが~ダッセーって顔で語るな。うるさい! 次! あっ最後の問題だ!
“一から十までの読み方を書き入れなさい”。簡単じゃん!
「……えっ。……なんで二を答えるところが2マスもあるの?」
ミスかな。一は2マス、二も2マス、三は1マス。
「いち、に、さん。ひ、ふ、み。わん、つー、すりー。……わん、つー、み、って書いていい?」
「気持ちはわかるけど、違うと思うよ」
「なんだかんだこれ、医学用語はカタカナ、あとは日本語って統一されてるしな。外国語はないんじゃない」
うん。私もそう思う。助けて。
「ごじょお……」
見上げると、五条は口をへの字にしてやってられるかと言わんばかりの顔になりため息をついた。おねがい。おねがい!!! あとこれだけなの!! おねがい!!!
「……ペン貸せ」
両手で五条様にペンを託すと、五条が右半身を乗り出して書き込み始めた。えっ、ちょ、めちゃくちゃ近いんだけど。なんなら私の右肩が五条の左肩超えて胸に当たってる気がする! どうしようちょっとバックハグされてるみたいで落ち着かないんだけど。固まるしかない。五条は真面目に書いているのか、私の挙動不審をミリも気にする素振りもなくペンをすらすら進めていく。…………いつも思うけど、五条、口も性格も悪いのに字が綺麗すぎる。
ひと、ふた、み、よ、いつ、むゆ、なな、や、ここの、たり。
「たりって何」
「じゅうだけど。こういう数え方があんだよ」
「へ~~」
「凄いね五条。どうしよう。五条カッコよく見えてきた……」
「遅くね? 俺元々カッコイイし」
「さすが五条」
「すごいね悟」
「五条凄い」
「何急に。別に。これくらい普通だし」
その普通が出来なかったんですけど。五条は口々に褒められたのが恥ずかしかったのか、口をへの字にぽりぽり頬を掻いている。
「六眼ってクロスワードの答えも浮かび上がったりする?」
「するかボケ」
「ごめんなさい」
五条が机にペンを置いた。ついに、ついに。みっちり答えで埋まっているクロスワードが出来上がった! 凄い! 感動。送る前に記念にコピー取っとこうかな。
私はペンを取って氏名住所電話を書き入れていく。あ~~! これで呪具もらえる! うれしい!! 呪具、高くて買えないんだよね!!
「……ってお前、何名前書いてんの」
「え? 全部埋めて送ると、呪具もらえるんだって! あっ」
ビリビリィ!って音がした。名前を書いていた下の方が私の手元に取り残された。五条が新聞を無理矢理取り上げたのだ。
えっえっえっ。立ち上がって手を伸ばしても五条の背が高すぎて全然取り返せない。そんな天に掲げるみたいに!
「ちょ、返して。あと送るだけなんだから!」
「呪具もらえるとかアホかこんなんスカウト用に決まってんだろバーーーカ」
ビリビリビリィ。
「あああああ!!!」
地に落とされた片側を拾ったら問題文の方だった。そんな。こっちなら破っていいから! 努力の結晶破かないで!!
「分かった出さないから!! 取っとくだけにするから! 破かないで!」
まっぷたつじゃ飽き足らず、五条は割とかなりびりびりと新聞を破いている。小気味よい音でびりびりびりびり。えっひどくない? 最低なんだけど。私記憶力良くないからもう埋められる自信ないのに。っていうかなんか楽しそうじゃない!?
「破くの結構楽しいな」
「やり方が最低だよ、悟」傑の言葉に私は強く頷く。
「折角みんなで埋めたのに! 五条嫌い!!!」
「は? 誰が手伝ってやったんだっけ?」
「手伝ってくれても破いちゃ意味ないもん」
「ホントにな」
泣きそう。びりびりの残骸になった新聞紙が私の足元に散らかっていく。ひどい。最低。五条のバカ! って右ストレートパンチしたけど当たらないし。もうやだ。しばらく話したくない。顔見たくない。五条のバカ!
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