聞き間違える五条
「…うん、傑」
の声だ。静かに廊下の角を曲がると、彼女の後姿が見えた。彼女の向かいには多分傑がいる。傑はの顔を覗き込んでるのか、普段アイツの頭の上によく見える顔が見えなかった。
「ね、チュウしよ?」
は?
が上を向いて背伸びしたのが分かった。傑はさっきっからを覗き込んでいる。直ぐに二人が重なった。…何だって?
しばらくすると、傑がゆっくりと顔を上げた。
……何した?
「少し熱いね」
傑は顔を上げたから俺に気付いたようで、頷いて向こうへ歩き始めていたの手を持って止めている。……今何が起きてた?
「悟。終わったのかい?任務。お疲れさま」
「え、うん。終わった、けど……」
傑は不思議そうな顔で俺を見てる。『ねえ何してたの』って言葉は、喉につっかえたまま出てこない。それに、何、手、繋いでんの。
何ではされっぱなしで大人しくしてんの。しかも顔赤くね?…マジで。は?
「…」
「…何?」
「何で顔赤らめてんの」
「…ねっチュウしよう」
「は!?」
「?」
何、誰でもいいわけ?さっき傑としたその口で直ぐ様、俺にそんなこと言うわけ?これ絶対他のやつともしてるやつだろ。ありえねえふざっけんなクソビッチ。
確かに、確かになセックスは気持ちいいよ。扱かれんのも舐められんのも悪くないけど、やっぱ突っ込ませてくれんのが最高だから俺だって色んな女と遊んでる。けど何が言いたいかって言うと、俺はそんな奴らにキスしたいなんて一度も思ったことがないって事だ。別に求められたらしてもいいけど、自分からしたいとは多分これからも思わない。
何でお前は軽々しく傑と唇合わせたわけ。まあ、傑ならまだ分かる。傑だけならまだ分かる。分かりたくねーけど他より全然マシ。けどあのノリの軽さに超自然的な背伸び、あれは百戦錬磨のそれだった。まるで駅前で逆ナンに答える俺や傑みたいな慣れがあった。背、高い男とキスし慣れてる動作だった。
要約するとふざけんな。他に何人の男とちゅーしてきたわけ?セックスしてきたわけ?俺とは一回もそんなことしてねーじゃん。
…何で俺こんなクソ女のせいでイライラしてんの。マジでムカつく。俺はついに口火を切ることにした。
「お前ブスなだけでなく阿婆擦れだったの?クソビッチ信じらんねえ」
「は?」
「この俺がお前みたいなブスにキスするわけねーだろ。ふざけてんの?三つ指つかれても嫌だね」
「キス?」
「チュウしよって言ったじゃん。さっき傑にも言ってたよね。このクソビッチ。マジでクソビッチ以外に評価不能だろ」
はぽかんと口を開けて、目を瞬いて俺を見てる。グラサンの隙間からを覗いてみても、やっぱ今日も腹立つくらい綺麗な呪力が流れてる。凄まじい煌めきを放っているそれに、目を奪われずにはいられない。ここまで見えなくたって、きっと分かる。皆このキラキラしてて柔らかくて落ち着いちゃう呪力に惑わされてるだけだろ。趣味悪すぎ。
グラサンに特殊技術とか放り込めねーかな。の存在見えなくするとかの呪力だけ見えないようにするとか。ふいにコイツの姿が見えた時にどきっとするのが嫌でストーキングするようにしてんのに全然慣れられなくてヤになってくる。目が合うと心臓がうるさくなんのも口が暴走して制御できねーのもの前でだけだ。この俺が誰かに振り回されるなんてあって堪るか。
そんな風に俺は結構アップアップしてんのに当の本人は誰とでもチューしてるようなクソビッチだった俺の気持ち。
「おっと。大丈夫?」
「ごめん、ありがと…」
「どういたしまして。…なあ、悟」
突然がふらついたのを傑が支えてる。いつの間にか二人が繋いでた手は離されてるけど、マジで。マジで全然気付かなかった。こんなに男慣れしてるクソビッチだったなんて。俺の純情無垢な心を踏み躙りやがって。ブチ犯すぞ。
つか傑も笑ってないで断ってよ。俺がに興味あるの知ってたじゃん、お前。チューしやがって。つか何で笑ってんの。
「何笑ってんだよ傑。お前も頼まれたからってよくこんなヤツとちゅーできるよな。俺ぜってー無理」
「悟、いいかい。もう一度私が言うよ。はねっチュウしょうだ」
「あぁ?」
「私たちはおでこを合わせただけだよ。ほら、凄く熱い」傑が俺の手をのデコにくっつけた。
「あ?っつ」
「いいかい、悟。熱中症とは。暑熱環境下においての人間の身体適応の障害によって起こる状態の総称だ」
「………」
ふざけんなバカ女。
「…私、医務室行ってくる」
「悟に送ってもらうといい」
「いらない。一人で平気」
「だめだよ。ふらふらしてる。つらいんだろ?一人じゃ心配だよ。ほら、悟」
傑に促されての横に立ったけど、俺も熱中症になったんじゃねーかってぐらい顔が熱くて死ねる。顔に出さないように全力を尽くしてるけど隠せてっかな。最悪なんだけど。
は顔を精一杯挙げて滅茶苦茶に俺を睨みつけてきてる。何で怒ってんの。怒りたいの俺なんだけど。
「五条やだ。クソビッチの私は傑に媚びて抱っこしていってもらうから大丈夫」
ビキ、と自分のこめかみの神経にダメージがイったのが分かった。「ひえっ」そんなに抱っこして欲しいならお姫様抱っこでも何でもしてやるけど?俺に頼めば?そのまま空だって飛んでやるけど?五条やだ?この俺をやだって?ふざけてんの?つかクソビッチ肯定してんじゃねえだろうな。
「悟呪力仕舞え。気分が悪い。ただでさえ弱ってるのにトドめさしてどうするんだい」
「~~っ知らねえよ!コイツが悪いんだろ!!!傑コイツ持ってけよ!!!」
ふらっと気を失ってしまったを腕にぶら下げて二つ折り状態で支えて傑に向って指指してたにも関らず、傑は後ろ手降ってどっか行っちゃって、仕方ねーからを横抱きにして医務室連れてってやった。タイミングよく居た硝子に腹抱えて爆笑された。ぜってー傑が言った。もうやだ。
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