恵くんと夏油が初対面
そのへん出てるから、と五条は津美紀ちゃんを連れ出して、どうにかしてよろしくって私に現場をぶん投げた。
恵の術式が成長してきたから、五条が傑を伏黒の家へ連れて来たのだ。じゃよろしく傑~!分かったよじゃないんだよ。
お邪魔するね、と傑が上がって、私も仕方ないから上がって、なん……なんっ……何!?状態の唖然とした恵を残し、扉はバタンと閉められた。
かたや小学生、かたやタッパのありすぎる大男。
警戒している恵に、傑は困ったフリをして何もしないよと軽く両手を上げて笑っている。
恵、ちょっと前に私に見せに来てくれた時は、あんなに可愛かったのに。さん見て下さい!って式神わんわんを召喚して見せてくれて、玉犬も私に飛び掛かって来て尻尾を振りまくってて、みんなできゃーきゃーわふわふしたのに。
今の恵は圧がありすぎて小学生のはずなのに普通に怖いよ。恵、人見知りなところあるしなあ……。
「五条さんと仲が良さそうな人にロクな奴がいるわけない」
「それじゃあは?」
「さんは別です。アンタ、五条さんと仲良いでしょ」
「だって悟と仲が良いよ? 子供にはまだ難しいかな」
まずい。二人の仲が悪い。
何か、二人の仲を近付けるような、何か、何か……!!
「恵。このお兄さんはね、ネコチャンを飼ってる」
「……!」
「動物が好きなの?」分かり切ったこと聞きやがって! 恵は依然として警戒を解かず、傑を睨みつけている。
「傑、ネコチャン出せる?」
「ああ」
「……出す?」
「今見せてあげるね。おいで、ネコチャン」
「やめろ、いらない。猫が可哀相だ。猫は、」
環境ストレスに弱いんだぞ!と恵が必死に傑を説得しようとしている。よく勉強してるんだね……! さすが、たまに本屋さんで立ち止まっているのが図鑑コーナーなだけある。思わず私が自分のお小遣いはたいて買い与えてしまうだけある。
「にゃーん!」
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。元気よく顕現されたネコチャンが傑の顔面にくっついている。みょーーんって傑が引き剥がして、すぽんって抜けた。
「……っうわ!!呪霊!!!」
驚いた恵が咄嗟に印を結び玉犬を出す。
「グルルルルル……」
「フシャーーーッ!」
「!!? キュイーン!!」
犬って、普通に怖いんだな。玉犬はまだ小さいのに、牙を剥いて唸られると後ずさってしまうような恐ろしさがある。ネコチャンはフシャーしててもそんなに怖くないけど、呪い的な格の違いを悟ったのか、玉犬は甲高い声で鳴き尻尾をしまうと、ビクビク震えて恵の背に回り込んでしまった。とりあえず各位を落ち着かせなければ。
「恵、あのネコチャンは大丈夫だよ。傑の術式だから」
「……傀儡ですか? それとも俺の玉犬みたいに、気持ちがあるのか」
「さっきのを見て分かっているだろう? この子は自分から好き好んで私の呪霊になった口でね。感情豊かなんだ。おしゃべりできるよ」
「にゃ~ん!」
傑に撫でられて、ネコチャンは気持ち良さげな顔をしている。じっと見つめているとネコチャンと目が合って、久しぶりに会ったね、ってクンクンされて私にも喉を擦り付けてくれた。可愛い。可愛い。ネコ。撫でると横たわってもっと撫でろとゴロゴロ言い始めた。かわいい。ネコ。かわいい。
「…………メインクーン」
「んにゃん!??!」
ガバッと起き上がって目を見開いているネコチャン、お前、分かるのか。みたいな顔をしている。
じゃがいも? と聞きたかった私の突っ込みは置き去りにされた。
「え? この子、ノルウェージャンフォレストキャットって言うのじゃないかな」
「は? 全然違いますよ。いいですか、まず一番顕著なのは鼻筋。メインクーンはカーブがくるんとしてるけど、ノルウェージャンはすっと通ってて鼻筋が太いんです。次に耳。飾り毛っていう耳の先端の毛がぴょこんって出てるかどうかと、それから……――」
「へえ~……」
多分ネコチャンの種類っぽい。ネコチャンはドヤァ!と胸を張り、恵に解説されるままに、解説されている部位を傑に見せびらかしている。
良かった、仲良くなれて。すっかり慣れている。恵のウンチクと傑の相槌、ネコチャンのフンスという鼻息を感じながら私は五条にメールを送信する。
「……ハッ! 俺はアンタと仲良くする気なんかこれっぽっちも無いですから! 猫の見分けもつかない人と「にゃあ゛!」ぎゃあ!」
「あーこらこら」
恵に猫パンチを放ったネコチャンを傑が捕まえた。パンチされたところを玉犬がだいじょうぶだいじょうぶ??と心配そうに舐めている。
「ヤッホーお披露目終わった?」
「ただいま~」
「おかえり津美紀ちゃん」
「僕は???」
五条が大股でこっちへやって来て、傑に抱えられてるネコチャンに勢いよく手を伸ばしフシャッ!イテッ。玉犬に手のひらを出しゥーワンッ!!うわっ吠えんなよ。
「恵、ちゃんと躾けな」
「今のは五条さんが悪い」
「同意。悟、動物に手のひら向けたらダメだよ。怖がるだろう」
「え、そーなの? なんで?」
「掴まれると思うんですよ。でもアンタみたいな人はハナから動物に好かれないんで諦めたほうがいいです」
「あ゛?」
言うだけ言った恵は、困っている津美紀ちゃんの手を引いて台所に避難していった。そんなに喧嘩腰じゃ失礼だよ、恵。津美紀今日の晩飯なに?聞いてないでしょ。とガサゴソしている音が聞こえる。お手伝いするのかもしれない。えらい。
「まあまあ悟、落ち着きなよ。大人気ないな」
「テメエに言われたくねえよ。猫の躾もできねークソ野郎」
これはダメなやつだ。私も避難しよう。その前にとりあえず外と言わず近くの公園くらいまでは二人を追い出さなくちゃ……。重労働だ。
「自由にしてくれているのが一番だろう? それでも私がいいって寄り添ってくるんだ。こんなに愛おしい存在が他にあるか?」
「あるだろここに。俺は違うっていうの?」
「違うよ。悟はお世話しなくても死なない」
「呪霊も世話しなくたって死なねーわ。ついにボケたの傑く~ん?」
「私の愛するネコチャンを呪霊という一括りにしないでもらおうか」
「マジでボケ老人か? やってやろーじゃん」
「望むところだが?」
頬がぶつかるという程に至近距離でギラギラ睨み合い言い争っている二人を思いっきりグイグイ玄関まで押していき、乱雑に靴に足を突っ込んだ傑からネコチャンを預かって、五条からグラサンを預かった。
ばいばい。いってらっしゃい。今日もう帰ってこなくてもいいよ。
五条も高そうな革靴にめちゃくちゃに足をグリグリ突っ込んでいる。はやく出て行ってよ。あとドア開けてあげればいい? 手が足りないんだけど。
私は腕の中で私を見上げているネコチャンに五条のグラサンをかけて、
「っま゛、そっくり……」
「……っぶ、」
「なんだよ、……なに俺のグラサンで遊んでんの」
「ごじょ、まんま、じゃん……、ふ、ふふふ、ふ、」
「フ、フフフ、似合う、ね、」
「笑ってんじゃねーよ! 似合ってねーし!」
この、と五条がネコチャンをつつく。ギニャって噛まれてる。今日からお前の名前はサトルネコだよ。分かった?サトルネコ。
クスクスゲラゲラ笑っていると、後ろからあの、大丈夫ですかー?って津美紀ちゃんに声をかけられた。さっきからこっちが喧嘩しかしてないから心配そうだったもんね。ごめんね。大丈夫だよと声を出して振り向くと恵と目が合った。
「……っふ、」
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