五条と傘はいる

 任務が終わった。暇なら悟の任務でも見学してこいって先生に蹴り出された任務が終わった。私は何もしていない。
 生憎の空模様、普通に雨が本格的に降っている。灰色の空、見上げる私の手には補助監督に手渡されたビニール傘が一本ある。雑魚過ぎて瞬殺だったけどなんか勉強になった?と嫌味を言ってくる五条をスルーして、私は傘をぱっと開く。それから一歩大きく踏み出し補助監督が待っているだろう場所へ急ごうとするも、後ろからぐっと肩を掴まれた。

「は? 入れろよ」
「え、なんで?」
「常時術式発動してるわけじゃない」
「そうなんだ。知らなかった。でも今は雨という非常事態だから発動したら?」
「傘寄越せ」

 ぴえん。五条がグラサンの上のまるいおでこの眉毛の間、眉間にイラッと深いしわを寄せたのが怖すぎて傘は自然と五条の手に渡っていった。分捕られたともいう。さよなら私の傘。私の傘じゃないけど。ついでに私は戦力外だしね。こうなることを見越して傘を二本くれなかった補助監督のせいにしてびしょ濡れのまま車に乗って座席濡らしてやる!
 悲しく傘からログアウトして歩き出そうとしたら、今度は何で出んのと五条に腕を掴まれた。

「えっ……もしかしてこの傘爆発したりする?」
「は?」
「私も入ってていいの?」
「置いてかれたいならお望み通りにするけど?」
「ごめんなさい」
「行くぞ」

 でも五条デカいから、どう足掻いても無理だと思うんだよね。五条は学習したのか、きっと彼にしては死ぬほどゆっくり隣を歩いてくれている。ツーンと前を見たままこっちを伺う素振りは全くといって見られないけど、なんとなく気遣われてるのは分かる。だって五条の歩幅の5倍くらいはスローだもん。でもちなみにあと1.5倍速くらいは速くて大丈夫だよ! とりあえずこういう時の五条にはこうだ、傑を見習うんだ。傑ならなんていうか考えればいい。

「気遣ってくれてありがと」
「別に。後で傑と硝子にネチネチ言われるからだし」

 ほら!やっぱり!地雷は踏まずに済んだ!ちょっと五条の扱いがうまくなったのでは!? グラサンの隙間からちらりとこっちを向いた彼の目と目があって、あって、あ、あった瞬間目を顰められた。エッひどくない?ていうか怖。

「濡れてんじゃん」
「だ、だいじょぶ。多分五条に比べれば」
「俺は無限張ってるから濡れてない」
「え?」

 え、それ傘いらなくない???
 言う間もなく、ぐいっと乱暴に背中を掴まれて、五条の脇腹に沿う形にくっつけられた。おかげで濡れ始めていた肩が濡れなくなったことは認める。でもいつかみたいに足が地面から浮く感じはないし、私の体も五条にぴったりくっついている。つまりどういうことなのか? 足が浮いていないので無限に入っていない? 五条にくっつけているので無限に入っている?

「……これ無限の中、入ってるの?どっち?」
「入ってないから傘さしてんだろ」
「……そうなの???」

 その後は無言で、よくわからないまま少し歩き、補助監督の車に無事乗り込んだ。私の足元はびちょびちょなのに五条は微塵も濡れていなかった。私は理解を諦めた。