五条にお菓子食べられる

 今日も今日とて悲劇が起きた。任務は普通に終わって良かったーって帰ってきてさあお楽しみの…!と共有スペースの冷蔵庫を開けた私を待っていたのは絶望だった。絶賛発狂している。

「ない。ない。なくなってる……!!!」

 今回ばかりは許せない。朝から!並んで!買ったのに!なんでいつも入手困難なものばっかり無くなるの!!? …いやそんなことなくない?クッキーも箱ごとアメも根こそぎ無くなってたことない?私のいちごミルク返して!クッキー返して!プリン返して!ケーキ返して!ケーキ! 大きいペットボトルもそのまま消えてるし、どうせ二人でゲームでもやってるんでしょ!? 突撃してやる! ワンチャンまだ一口くらい残ってない!?
 慌てて共有スペースを後にして廊下を走りながら、私は自分の無力さに打ちひしがれる。食べないでって言っても食ってねーよとかおーとかしか、絶対食べてるのに言ってくるし!一口くらい残しといてよって言ってもあーとかおーとか言われるし五条はホント何がしたいの!?いじめ!?甘いもの好きなの!?自分で買ってこいよ! いっつもいっつも私が買ってくるお菓子ばっかり食べやがって。硝子が買うお菓子は……無くなってるな……。傑がポテチとかトッボとか買ってるのは……一緒に食べてるな……。…何でみんな怒らないの?心が広いの?

 ドンドンドンドン部屋をノックしようとしたら空ぶった。空間がなくなった。「っわ、っわぶ」「うわ」かたい。いたい。びっくりした。部屋の中からは、追加でお菓子も持ってきてとかいう犯人の声が聞こえた。

「大丈夫?」

 見上げたら心配そうに顔を覗き込んでくれたせいでケーキの恨みをチャラにせざるを得なくなった。丁度部屋を出ようと扉を開けたらしい傑の腹筋にダイブして、肩を支えられて転ばずに済んでいる。かたい。

「……ありがとう。口の端にクリームついてるけど許してあげる」
「…それはどうも」

 ちゃんと拭いたんだけどな、と傑が私を引き剥がして室内に入れて出て行った。エッ。五条と目が合う。

「……五条」

 返事はない。机の上にはぺろりと食べられている私のケーキだっただろうものがある。一つのフォークで半分こ♥したに違いない。いや五条が9,5割食べてるかは分からない。なんとか言ったらどうなのか。

「…五条」

 フィルムのクリームまでフォークの端で根こそぎ食べられている、私のケーキが乗っていただろうお皿を指さすと、五条は私から目を逸らしてゲームを続行し始めた。ねえ!

「五条。なんで私のお菓子食べるの。もう五回目だよ」
「いやこれお前のって知んねーし」
「私名前書いてた」
「そーなの?」
「うん。ここ。見て、ここ」
「へえ~」

 近付いてしゃがみ、箱に書いた名前を指さしたのに見やがらない。ずっとなんか怖いゲームを一人で進めている。私は机の上の空になったケーキの箱を見て心が悲しくなっている。

「ねえ五条。なんで?ねえなんで?並んで買ったのに。楽しみに取っといたのに……」

 時折聞こえてくるズガガガンって銃を撃つ音やギャーって声が怒りを通り越して悲しみを倍増させてくる。私はあぐらをかいている五条の膝を思いっ切りつねってやった。

「ッテお前なにすんだよ」

 乱暴に足でぺいって器用にはらいのけられムカつきが募る。いいから目を見て謝れ!

「バーカバーカ五条のバーカジャイアソどうせ五条なんか音痴なんでしょ土管の上でカラオケ大会でもしてれば?謝ってよ。謝って!謝れないごじょち園児ならケーキ買い直して来て!同じの!」
「罵倒がバカ丸出しなんだけど。お前このゾンビに襲われても同じこと言えんの」
「ゲームやめて!謝って!さんごめんなさいって誠心誠意謝って!五回分!」
「謝ったってケーキは返って来ない」

 そんなこと分かってるよこんなことをしてもケーキは戻りはしない。どうにもならない。何も変わらない。私のおやつ返して~~~って完全に駄々をこねる園児になっているのは私の方だけど怒りを込めて五条の肩をぶんぶん振る。

「五条のバカ。意地悪。最低。横暴。だいっきらい」

 園児の語彙力で五条を糾弾すると、舌打ちしてうるせえって無限を張られた。このやろう。肩を叩いても触れない。ちょっと面白い。触れないけどどうしようもない怒りをぶつけたいのでぶつからない怒りをぶつけていると、五条はやっとゲームをポーズしたのか私と向き直って私を見下ろしてきた。メンチ切られてもサングラス越しじゃ怖くないし。ていうかなんで私が見下ろされてるの。単に身長の問題だけどムカつくから腰を上げようとした、ら軸にしていた手の軸をひゅってされた。私は重力に従ってべしゃりと上半身を床に落とすしかなかった。ひどい。かなしい。なんでこんなことするの。
 抗議の目で五条を見上げると、ア、ゴメンって、私の体勢を崩した本人が私の上体を起こしてくれた。どうしたの五条、何がしたいの、は?

「こかすつもりじゃなかった」

 ……え、それって思ったより私の筋力が無さ過ぎたって…コト? しょっく。

「なあ。……大嫌いっつーの。なんで」
「………普通に自分のおやつ全部横取りされたら生まれる正常の感情が大嫌いだもん…」

 そりゃそうだよな……って顔してる五条、いや、理解不能なんだけど…。多少人の気持ちが分からないところはあるし、共感機能死んでる?ってくらいの五条だけど、五条自身に感情はあるし、何がどうしてそうなるみたいな理論には強い人だと思う。

「…五条だって毎回こんな風にゲーム邪魔されたら私のこと嫌いにならない?」
「それはならないけど」

 そうだよな……って顔してる五条、理解不能。五条はグラサンを机の上に置いて、私が床に置いている手を見ているみたいに俯いている。私はさっきから首を傾げすぎて落としてしまいそうなくらい五条が何を考えているのか全く分からなくなっている。うん、傑戻ってくるまで待ってよう。

 シーンとなって何分経っただろうか、「なあ」とか「オイ」とか言ってくる五条を無視していたら、「……悪かったって」目の前にポテチが現れた。机の上に置かれてるポテチの袋にお箸を突っ込んで私の顔元に持ってきたらしい。

「あ」

 どうせそれ買ったのだって傑だと思うな。五条が開けたの口を真似して開けたらポテチもらえた。ばり。あっ硬あげポテトだ。
 ざく。
 ばり。
 ざく。
 ばりばりばり……。
 なんで餌付けされてるんだろう…。うす塩…。傑の自分用のだと思うな…。傑、五条にはポテチのコンソメパーンチ買ってくれてるの知らないのかな。……知らないだろうなあ、五条。

 ばりばり、ばりばり。最後に五条が袋を逆さにして自分の口に流し込んで、私達が袋を空っぽにしてしまった頃。静かに扉が開く音が聞こえた。

「ごめんね、。せめてもと思って、コンビニでケーキとプーチンプリン買ってきたよ」
「……傑だいすき!!!」