お菓子食べる五条

 冷蔵庫から“”って書いてあるケーキの箱を勝手にもらい、ついでに棚に置いてあったボックスを持ってきて中身を机にひっくり返した。とりあえずケーキ、と箱を開けたらプリンだった。サイコーじゃん。中に入ってたプラスチックスプーンで食う。

 うーん。いつだか傑に食われて、殺すぞ同じの買って来いってありついたリベンジプリンとどっこいだな。まあまあ。
 後ろにと硝子の呪力を感じたが振り向かず、プリンを食べるのを続行する。硝子は医務室に戻ってしまうらしい。まあプリン2個しか無いしな。あれ、硝子って甘いモン食ったっけ?

「五条」
「なに。あげないよ?」
「は?私のだよ?今食べたの口から出してくれてもいいんだよ」
「オッエ゛ーて?」
「……」

 が向こうでカチャカチャやってんのを聞きながら、続いて俺は机に広がってる菓子のうち、興味のあるものに手を伸ばす。ピリと包装を破いて口にぽいっと放り込んだ。うん、まあまあ。
 ひとつ小さく頷いているとがこちらへ戻って来て、湯飲みに入れられたお茶がドンと僕の前に置かれた。睨まれている。

「こないだの私のケーキも食べたの五条でしょ」
「傑じゃね?」
「ちょっとだけでもいいから残しといて欲しかった…」

 確かにケーキは食べたけど一人でじゃない、傑と食べた。だから傑が食べたんじゃねっつーのは嘘じゃない。正しくは傑も食べたんだぜ!だけど。「傑と食べるなら一個の半分でもいいからお願い今度から」バレてんな。

 あー懐かし。昔もこんなんあった。五条くん、私のケーキ食べたでしょ。五条くん、私のゼリー食べたでしょ。五条、私のクッキー食べたでしょ。五条、私のサブレ食べたでしょ。五条、私のビスケット食べたでしょ。五条、私のケーキ食べたでしょ。五条、私のプリン食べたでしょ。五条、私の大福食べたでしょ。
 昔は一つだけのケーキだったのが、今は二つ入ってるようになって、ゼリーもプリンも和菓子も、みんな二つ以上になったのはいつからだっけ。
 五条くんって思い出すんだから、一年だろ。……俺そんな前からコイツのこと…。なんかの悪い夢だと思いたいレベル。

「五条。一個ちょうだい」

 悪戯に、俺はもう一つめのプリンに手を伸ばしてやる。きー!って怒るが見たい。

「名前書いとけよ。俺何も悪くねーから」
「手を止めてよ!名前書いてるもん!」
「箱にな。今度中身にチョコペンで♥って書いてみたら?食べんの止したげるよ」
「……今度から五条のに、さとる♥って書いてあげよっか」
「いーの?そしたら全部食べるわ」

 言わばひとつは俺のために買ってきてくれてるって認めたようなもん。はわなわなしながら、もうきらい、って拗ねたように言うから股間に響いた。可愛くて腹が立ってくる。俺は好きだけど、とか言える素直さがあればこんな微妙な関係に落ち着いてない。うまく言葉が出てこないので、俺はもうひとつのプリンをの前に滑らした。
 彼女は俺の脇に立って俯いたままプリンのフタをあけて、目線だけでスプーンを探している。そのうち俺の手元にある箱に気が付いたけど、直ぐに諦めて取りに行こうと歩き出そうとするから、腕を掴んで制して、半笑いで俺が使ってたスプーンを差し出してやった。ら、素直に受け取られた。……マジで使うわけ?
 嘘だろ、とスプーンを奪い返すために伸ばしかけた手が、どうしようかと微妙なあたりを彷徨う。いや、スプーン差し出した手前、奪い取るのおかしくね?プリンごと奪い取るのが正解か?それだと多分泣かれるし、どうするべきか考えろ。けど彼女がプリンにスプーンを刺す方が先だった。
 そのまま中身を掬い、スプーンと唇の中に吸い込まれていく。抜き取られたスプーンにはプリンの残骸一つ見えない。ぺろりと食べられてる。待って。待って、恥ずかしすぎて死にそう。ウソじゃん、ありえねぇだろコイツ。他の男にもそういうことしてっから抵抗がないってことになる、いや、つーか多分何も考えてねえ。コイツは絶対何も考えてない。

「……おいしい」
「お前さ。もうちょっと考えたほうがいーよ」
「なにを?」
「…なんでも」

 こてんと首を傾げて、ぱくぱくプリンを食べ進んでるのが堪らなくムカついて、俺はの口からスプーンを抜き取った。分かれよ!!!!!
 俺は半ギレでが持ってるプリンにスプーンをぶっ刺して己の口に運んでやる。さっきよりうまい。チクショウが。

「こーーーいうことされたら嫌だろ!」
「え、うん。私の分……」
「ちっげーよ!!!間接キスだっつってんだよ!!」
「ああ。あ、え、あ、……」

 ごめん硝子とよくするから気が付かなくて、とか、五条も傑とよくしてないっけ?とか、ていうか今更じゃない!?とか顔を赤くして目の奥をぐるぐる回してるが必死に何か言ってるけどマジで無理。俺まで釣られて顔が赤くなってきた最悪なんだけどマジで。
 ムカつくから個包装の菓子の袋を何個も開けてやっての口に詰め込んでやる。くらえマドレーヌパウンドフロランタンクッキー攻撃!

「んん゛ん!!!」

 ブッサイクな顔。口パンパンすぎてウケる。リスみてえ。おもむろにケータイを取り出し連写した。は口に手を当ててもごもごしながら向かいの席に座ると、眉を寄せてジト目で俺を睨んでいる。顔が赤いから怖くない。うんうん、どんな顔してても認めたくないけどお前はカワイーよ。ホント腹立つな。意識してんの?してないの!?俺はどうしたらいいの!助けて傑!
 テメエじゃねえ!
 補助監督からの着信を告げる携帯の通話終了ボタンを鬼連打して、ポケットに菓子を詰め込んでパンパンにして席を立つ。んぐ、が喉を上下させる音を聞いた。ぜーはー言ってる。

「五条、も。何か、買って来てよ。今度から」
「そだね。お前ばっか僕に買ってきてくれてるもんな~???」
「五条が勝手に食べるからいっぱい買うようにしただけ。だからひとつは残しといて」

 釣れないこと言うくせに、は席を立って僕の隣をついてくるから、愛しさで世界が爆発しそうになる。小麦粉アタックに口内の水分持ってかれたろうに、茶に口もつけず見送ってくれんの? …今ならちょっと素直になれる気がする。素直になるなら今しかない。

「…まあ気持ちは分かるよ。僕もに土産買って来て喜ばせたいって思うことあるし」
「えっその割には私の手に届いて無くない…!?」
「…気付くと帰路でなくなってんだよな」
「……昔はそんなに甘いもの食べなくなかった?」
「食ってたらクセになってきた」

 折角素直になれたのに盛大に空振った。でも、無意識に頭に伸びてた手を振り払われなくなったのはいつからだろう。名残惜しくも手を離せば、気を付けて帰って来てねってが送り出してくれる。あともうちょっとなんだけどなぁ。