五条にチョコ取られる
「硝子のチョコ、苦い」
「苦いやつならそれが一番なんだけどね」
「私は、甘いチョコが、いい……」
「砂糖と溶かせば?」
「それはそう……」
硝子が何故かチョコをくれた。あんた忘れてんのって言われた。バレンタインだった。チョコをもらった。でもすごく苦いの。高級板チョコみたいな感じのをぱきぱきちょっとずつ割ってつまみ、苦しい顔をしながら歩く廊下、我々は教室へ向かっている。
「さん。家入さん」
「逆チョコです!」
「…特別お世話になっているので」
「ふーん。やるじゃん。もらっとく」
ぽけーっとしている間に、後輩二人が逆チョコを差し出して来ていた。えっ。えっ。硝子にチョコを渡した灰原が、今度は私の塞がってない片手にチョコを乗せてくれた。そのままぎゅって両手で手を包まれている。真剣でこちらを見ている灰原が撫でてオーラを放っているのは多分気のせいじゃない。ワンコ系。わんわん灰原。
「二人で選びました!お口に合うと良いんですが!」
「あ、ありがとう。嬉しい……!」
じーん。なんていい子。なんてやさしい。なんてえらい。なんて気の遣える。ありがとう。嬉しい。でも、絶対これ、全部硝子にだよ。私なにもしてないもん。みんな硝子に怪我治してもらってるもん。なんか申し訳ない。
ぎゅ、と包まれていた手を離されやっとチョコの中身を見ると、なんかすごい大きくデカデカと感謝って書いてある。主に灰原が選んだ気がする。絶対に間違えようにないチョコ、七海はやる気なく賛同した気がする。でっかい一個のチョコ。一人一個。おいしそうなチョコ。
そうだ、灰原を撫でてあげよう。灰原はまだこちらを見ている。わんわん。手を伸ばすと、対照的にクールな七海が灰原を引っ掴んで会釈して去って行ってしまった。え、退散早くない? 硝子は隣でいつの間に箱を開けたのか、バキィっとチョコを割って食べている。
「硝子、ホワイトデーのお返し一緒に選びに行こうね。私忘れちゃう」
「お、コレちゃんと苦いやつじゃん。やるぅ」
「そういえば、家入さんって甘いもの食べるんですか?って聞かれた気がする…」
「は五条とよく食べてるからね」
「え?むり、いい子じゃん…灰原も七海もめっちゃいい子……」
「それはそう」
「知ってた……」
礼儀正しいよね、って硝子がまたチョコを齧った。頷いてる。やっぱり苦いのかな。苦いのかな。苦いのかな。私のは甘かったらいいな。
とりあえずチョコをポケットに入れて、苦いチョコから先に食べよう…と硝子がくれたチョコを私もぱきぱき齧っていく。
初めてできた後輩からのチョコ。二人からのチョコ。硝子のチョコも嬉しいし二人からのチョコも嬉しいし。チョコ。チョコ。バレンタイン最高!
スキップしちゃいそうな気分でぱき、ぱき、とちょっとずつ癖になってきた気のする苦すぎるチョコを食べていたら、しかし向こうから大男二人がやってきた。会いたくなかった。
「や」傑が片手を出した。
「よ」五条が片手を出した。
「ゆ」私も片手を出したら硝子に下げられた。
「チョコ」
「くれるの?」
「お前がな?」
「……」
「チョコ。あるだろ、チョコ」
無いです。
スンと固まるが、視界の端には傑が硝子に乞食しているのが見えた。私も苦いのでいいよ。あると思ってんの?同級生から一つももらえないなんて悲しいだろ?他の奴らからいっぱいもらってんだろ。分かってないな。二人のチョコが欲しいんだよ。「ねえ。チョコ」はっ。
「見て」
じゃじゃーん。私は逆チョコを見せつけるようにポケットから出した。いいでしょ。羨ましいでしょ。二人も逆チョコしてくれてもいいんだよ。だから私からのチョコは無い。
「五条こそ逆チョコは?」
「は?…誰からもらったの」
「秘密。いいでしょ。羨ましいでしょ――あっ!ちょ!返して!」
五条に二人からもらったチョコをふんだくられ高らかに手をあげられマジで届かない。ばきぃっと無理矢理チョコを折った五条がごりごり食べている。私の、私のチョコが……!!!「甘い」一口大きくない?やだやめて。全部食べないで。
「五条。お願い。一口でもいいから残して!」
「甘くて悪くないよ。まあ感謝って書いてあるし義理だろうけど?誰からもらったワケ?」
「灰原と七海にもらったの!お願い一口でいいから……」
必死に五条を見上げてお願いするが、五条は無表情でバリバリ食べてく。……悲しくなってきた。
「…甘すぎてこれ以上いらない。今食ってんのは」
ずい、と目の前に差し出された残り一口の二人のチョコ。かぶり付いた時には、片手に持ってたチョコがするっと取られていくのを感じていた。
このチョコ甘くておいしい。一口だけ残してくれたの、不幸中の幸い、や、でも、そもそもなんで人のチョコ食べたの?やっぱり私が用意してなかったから?でも一口食べたから灰原と七海に感想は言える、し、…まあ五条が私のことをいじめて遊んでいるのは周知の事実なので説明すれば分かってもらえるな。このチョコおいしい。そういえば頭上でぱきって聞こえてから何もないな、と五条を見上げた。顔を顰めている。
「……これ苦くね…?」
「…硝子、やっぱり苦いみたい」
「子供だな」
隣で傑が深く頷いている。みんなひどい。
→
←