五条に連れ帰られる

。なんでうち帰ってこないの」
「えっ、や、あの、名義も返すよ。いらない…」
「やだ。今日一緒に帰ってくんないとお前んち突撃するから」
「えっやだ、一緒に帰るからやめて」
「ん」

 五条がへの字にしていた口を気恥ずかしそうに緩めて、差し出してきた手をスルーする。アイマスクが無かったら顔の威力に負けていたかもしれない。

「手、繋がない」
「今更でしょ」

 無理矢理繋がれた。



 一瞬でマンションかと思いきや、近くの路上に飛んだ五条と帰り道をだらだら歩いて帰るはめになってしまった。こっちのがそれっぽくない?って言ってたけどそれっぽくない。どれっぽいっていうんだ。
 扉を開けて、五条は先に私を家にあげると後ろ手で扉を閉めてから目隠しを取っている。なんか機嫌が良さそうなのは気のせいだと思いたい。なんかドッキリでも仕掛けられてないといいけど……。

「おかえり」
「……おかえり」
「そこはただいまでしょ~」

 なにいってんだこいつ……と警戒している私を五条は引き摺って行き、キッチンで冷蔵庫を開け放つ。一体なんのために私を連れ帰って来たというのか。今日もマイペースなごじょ、う……!?

「ほらほら見て、じゃーん」

 こ、これは……!! ケーキの箱。……モノに釣られないもん!

、最近任務立て続けだったでしょ。ご褒美あげようと思ったんだけど、いらない?」
「五条へのご褒美だったら食べたい!」即答なんかしてないもん!
「じゃ、僕へのご褒美でいーよ。一緒に食べよ」

 チョロすぎない?と聞こえた声には聞こえないふりをする!!チョロくない。
 手を洗って、お皿とかフォークとかを取り出して、うっきうきでソファに待機する。断じてチョロくない。五条が箱を持ってきてくれてふっふっふ~♪と開封の儀式を始めてくれた。ソファの隣がずしりと沈み必然的にくっついたけど今はそれどころではない。あとくっついて五条の手元に近い方が見やすい。ちらりと見えた箱の中!これはホール!絶対にホール!ホールの予感がする! 中には。

「……」
「これ食べたいって言ってたでしょ」

 言ってない。だって期間限定だったし数量限定で時間的にも買えないと思ったし任務終わってページ開いてたら売り切れてたもん。高かったし取りにも行けないし送ってもらうにしても受け取れないし、って…。

「虚しくなるだけだから誰にも言った覚えないよ…?」
「スマホで調べてたじゃん」
「えっ………」

 えっ……。

 今度スマホ垣間見防止のフィルム貼ろう。明日買いに行こう。ケーキを切り分けようとしていた五条がにやっとして、切る前のケーキに直接フォークを突き刺した。ええ。

「ほら、食べよ。つまみ食い。あーん」

 あーん、しそうになる口を必死に耐える。私は学生時代とは違う。大人になったのだ。――本当に五条へのご褒美をもらっていいのか。食べても、何も要求してこない?
 食べたい、食べ、う、うう。でも五条がこんなに優しいわけがない! あーんしそうになるのを必死にこらえる。

「素直にもらえば?」
「ほ、ほ、ほしい、けど…」
「その代わり泊まってってね」
「やっぱり交換条件あるんじゃん!ちょっと見直しかけた私が馬鹿だった!でもそんなことでいいならもらう!」
「へえ」

 ぱく、と差し出されていたフォークにかぶりついた。……おいしい、おいしい、おいしい…………!! 思わず頬を押さえてしまう。
 明日は必ず洗面所で鏡見てから帰ろう。泊まっていけということは、絶対夜中に何かされるということだ。せめて水性マジックでやって欲しいなあ。油性ペン隠してから寝なくちゃ。

「寿命縮むようなのはやめてね?いきなり吃驚させるとか、なんか…」
「それなら追加条件ね。普段から僕たちの家、ここに帰ってくること」
「エッ……」
「もうあんなこともこんなこともした仲じゃん。遠慮なんかいらないでしょ」
「や、遠慮してない……」

 僕たちの家って、遠慮って、なんかおかしい。五条は頬をぷくっと膨らませてケーキにナイフを入れる。童顔。

「つかお前恥じらいとかないわけ?一回ヤったからもういいやって?ホイホイ連れて来られてんの警戒心無さ過ぎでしょ」

 なんか怒られてる。ぷんすこ五条がケーキを綺麗に切り分けていってお皿に乗せてくれている。さすが五条。その顔が許される28歳こわすぎるし、ケーキはとても美しくカットできている。断面がたまらない。はいって五条が投げやりにお皿をくれた。五条はホールにフォークを突き刺してつまみながら自分の分を切っている。じゃあ私も食べよう。

「~~っおいしい…!」
「よかったねぇ」

 飛び跳ねてしまいそうになりながら大きなふかふかソファに沈む。彼は隣で薄く微笑みながら、長い脚をローテーブルの下に滑り込ませている。私が調子よくそんな五条の肩にぐりぐり頭を擦り付けてしまっているのは、ケーキのおいしさに頭をやられてしまったせいである。まあ遠慮はいらないというのか、五条は意外と逞しい体をしてるのをもう知ってしまった。いや学生時代から割と知ってたけどあの時より増したっていうのか、……。まあ、うん。どうしようもなく感情が振り切れた時って叫びだしたくなるでしょ。しょうがないでしょ耐えてるの許して。

 とりあえず私は今最高に幸せ。ありがと五条。あとで何が待っているかは分からないけど。分からないからこそ、今この瞬間の幸せを味わう特技が増えました。

「五条、ありがと」
「どういたしまして」

 なんか嬉しそうな五条に頭を撫でられてから、二人で食べるのを再開する。1ピース食べて、2ピース食べて、…五条どのくらいいくの?ホール空けるつもり?鬼か?カロリー……。