夏油がしりとりしてる
「リンゴ」
「ごりらぁ…」
「ラッパ」
「ぱんだぁ…」
「アイス」
「すぐるぅ…」
「よくできました」
高専内を歩いていると、凄まじい現場に出くわしてしまった。え、あ、あれは、呪霊だよね?夏油君が、呪霊の頭を、撫でている?本物の、呪霊の頭を?
えっ、これ、先生に通報した方がいいやつ?でも、呪霊はにこにこ夏油君に撫でられるまま撫でられている。夏油君もにこにこ撫で続けている。っだめだ!理解が難しい!
逃走しようか、と立ち尽くしていたままの足を動かそうとした時だった。こちらを見た夏油君と目があってしまった。
「ゲッ、トウ、君……」
「ちゃん」
「夏油、君。…どうやったら呪霊、言う事、聞くの?ペットなの?」
「え?術式だよ。ちゃん、硝子に頭、見てもらったら?呪霊が言うことを聞く筈が無いだろう?」
「ぴえぇ……」
「呪霊操術っつーんだよ。ンなことも知らねーわけ?」
「っひ!」
五条君だ。五条君。どうしよう呪霊より怖い。なんでいきなり現れるの?なんで行くとこ行くとこに居るの?怖いよ。私は呪霊より五条君の方が怖い。しかもなんかあの呪霊は攻撃的じゃなさそうだし。平和的な感じするし。多分。だってしりとりしてたし。しりとり。
「……私もしりとりしてみていい?」
「イカ。カバ。バーーーカ」
五条君に指をさされた。超むかつく。絶対何か言い返してやる。カ、カ、カから始まる罵倒。カ、カ、
「かるぼなぁらぁ…」
「何コイツ。語彙増えてんじゃん。マジキモいんだけど」
「ラッコ」
「こあらぁ…」
「アイス」
「すぐるぅ…」
「うんうん、私はここだよ。いい子だね」
呪霊にカを取られた挙句、私がしりとりを発する前にしりとりが終わってしまった。
アイスのあと、あの呪霊は、すぐる、と言うように躾られているんだろう。すりすり嬉しそうに、褒めてとでも言うように夏油君にくっついて、彼に満足気に撫でられている呪霊は、なんかこう、…ええ……。凄く懐いている…。懐いている。夏油君、ママ……?
引き顔で夏油君を眺めている五条君、呪霊の頭をなでなでする夏油君。
「夏油君ママ、マリモ」
「もなかぁ…」
「アイス」
「傑」
「悟も撫でて欲しかったのかい?」
「ワーイ。ってンなわけねーだろ」
夏油君に飛びついて行った五条君が頭を撫でられながら夏油君の頭を小突いている。仲良し……???なにあれ……。
「暇を持て余したクズ共の遊び。、何か賭けたか?」
しりとりしてたんだろ、と、ぬっと現れた硝子が続けた。何でそんなにみんな気配ないの!?おかしくない!?
硝子はスパーッと煙草を吸って煙を吐き出し、私をじっと見ている。煙草。……待って15?16?じゃないの?煙草、え?煙草って何歳からだったっけ?え?……???
「…呪霊としりとりする同級生に、煙草吸う同級生、やばくない……?」
「ココでそんなこと気にしてもしゃあなくない?」
「私は、煙草、吸わないし、賭け事も、しない……」
「は?もったいな。まあ夏油ギャンブル強いからな。私よりは弱いけど」
意味分かんない。呪術高専怖い。同級生がみんな何かどこかやばい。硝子は好き、好き、でも、顔にふーってするのやめて!
「――ちゃん。しりとりするかい?」
「っごほ、っな、何も、賭けないよ?」
「いいよ。アイス」
硝子がかけてきた煙に噎せ返りつつ息を整えていたが、夏油君はにこにこ、「言ってごらん」と私を急かしてくる。片手は呪霊の口を掴んでいるまま。夏油君はいまいち、優しいのか怖い人なのかよく分からない。言わなきゃダメだろうか。言わなきゃダメだよと夏油君の心の声が聞こえてくるようだ。…何で…?
「す、すぐる…」
「うん。よく覚えられたね」
頭を。頭を撫でられている。
待って。私の扱い呪霊と同レベルなのでは?赤ちゃん扱い?えっ、えっ、どういう反応したらいい…?
「面倒だからって呼んでも?」
「え、う、うん…」
夏油君を見上げると、ナイスな笑顔で名前を呼び捨てにされてしまった。待って戸惑う。べ、別に勝手に呼んでくれても。え、待って何この状況。いつまで撫でられてるの?頭を撫でつけ返してすりすりするまで?ちょっとよく分かんない。優しくさわさわ撫でられていて本気でちょっとよく分かんない。さっきまで五条君とイチャついてたよね!?げ、夏油君……?!
「。ルビー。ビリッケツ。ツバメ。メン゛サ」
べり、と夏油君から引き剥がされ、待って、首が苦しい。襟元を五条君に掴まれているようで、痛いほど首を上に向けて、私は五条君の真っ暗なサングラスを目の前から覗く羽目になっていた。ちょっとカカトが浮いている。誰か助けてと心の中で念じるが離してもらえるわけはないし誰も助けてくれないひどい。お前の番、とでも言うように顎をクイッとして訴えかけられた。え?えっと、何だっけ、あっ、メン゛サ、さ、さ、さ、
「さとう!」
「は?」
「さしみ!」
「あ?」
「あっ!最強!!」
「なあに?」
夏油君がニッコリ言っているだろう声が背後から聞こえた。
「……俺は」
「さ…最強?」
頑張って声を出したのに、目の前の五条君の表情筋は、いよいよいつも通りの動きをした。やばいイジメが始まる。要はこれから頭を掴まれるか何かしてグリグリされるなど何らかの痛みを受けると思われる。やだ。五条君きらい。ギュッと目を瞑る。
……しかしなんの衝撃も来ず、…それどころか掴まれていた襟ぐりを離されて足がきちんと地上についた。えっ、え…? そろりと目を開けると五条くんの背中が見えた。…あれ?なにあれ。
「……なにあれ…」
「名前を呼んでほしかったんだよ。は頭が良くない上に察しもよくないなあ」
「え…?夏油君普通にひどくない…?」
「アイス」
「すぐるぅ…」
「と違ってこの子はなんて健気なんだろうね…」
私のことも傑でいいってことだよなんて目を細められた。…二人とも、それならそうって、はっきり言えばいいじゃん!!!
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