一緒の部屋な五条
会話が、ない。
私は、大きな窓ガラス、向こうに見える景色を眺めて気を紛らわせながら、ふかふかの椅子に座って、いる。
「…スパでも行ってくれば?俺プール行ってこよっかな」
「やだ。こわい。一人にしないで。行かないで」
「ビビりすぎだろ」
少なくともこの部屋には俺とお前以外いねーんだから、肩の力抜けば? なんてベッドに腰かけている五条が言う。ベッド。とてつもなく大きいサイズのベッド。肩の力は抜けたら苦労してない。抜けたら苦労、苦労してない、苦労。そうだ、寝てしまえばいいのだ。寝てしまえば。あの大きいベッドで寝て、寝……五条と同じベッドで? 何でベッド二台ないの。
…ほんとは私と硝子が、五条と傑が同じ部屋の予定だっただろうからだよ。硝子、ねぇ硝子、どういうわけ? この部屋ソファが無いから床で寝るしかないよ。何の罰ゲームなの?もう耐えられない。全部高価そう!怖い!やだ!もういや!眠い!寝る!
「お風呂入る」
「う、うん」
私は決意をもって立ち上がり室内をキョロキョロしながら一直線にお風呂と思わしきところへ歩いていった。ところで大変なことに気が付いてしまった。目線の先、お風呂はガラス張りだったのだ。なにこれ。なにこれ、ラブホテル?
「っご、ごじょう。ここ五つ星ラブホテルだったの?」
「え?」
「お風呂が全部ガラス張り…」
「覗いてって?」
「は?……」
「いやジョーダン。いいから入るなら早く入れば。俺先に入ってもいーんだけど」
「…先入っていい?」
「だからいいって」
「ありがと…。でも、あの、待っててね?どこにも行かないでね?待ってて?」
「…別にいいけど」
「どっち。待ってて、お願い。五条の無限がないと私モノ壊しそう」
「セコムかよ」
分かったから、待っててやるから突っ立ってないで早くしろって追い払われて、ふらふらお風呂場に戻って来たけど、これは、やっぱり、死ぬんじゃないだろうか。ツルッと滑ってガラスを破壊とかなんかやりそう。ドジって何か壊してやばいことになりそうで本気で怖い。でも、入らなければ。先に入らせてくれて、ありがと五条。だって五条がお風呂入ってるのをどんな顔して待ってたらいいのか分からないから。その点、先に入ってしまえば、あとは秒で寝ればいいだけだから、簡単!そう、ここだけ、乗り切れば!!湯舟、大きくて凄いし!五条待ってるから入らないけど!なんか高級そうなシャンプーとかトリートメント置いてあるし!いけるいける!何かいける気がしてきた!お風呂大きくて今更テンション上がって来ただけとも言う。
*
傑。俺どうしたらいい。硝子、グッジョブだけど、俺マジでどうしたらいいかは分かんない。今風呂場の方いったら、全裸のが風呂に入ってて、襲い掛かったらセックスできる。しかも、アイツ上がってきたら、風呂あがり、隣で寝るわけでしょ。同じベッドで。どうすんの。マジで俺どうすんの?しかも、待っててねって、何。ねぇ、何、どういう意味。期待していいの?絶対違えよな。でも、何、無理じゃない?ねえ俺どうしたらいいの。『二人とも助けて』メールを送信した。
返事の来ない携帯を、半ば放心状態でパカパカ忙しなくやっていようが何だろうが時間は有限のため、風呂場の方からはドライヤーの音が聞こえ始めてしまった。まだ全然心の準備できてない。時が俺に対して残酷すぎる。彼女がもう少しでこちらに来ることが分かってしまう。シャンプーかなんかの匂いが漂って来て、股間にダイレクトアタックまでかましてくる。困る。マジで。普段のの匂いじゃないだけマシだけど、好きな子が直ぐそこにいて、もうちょっとしたらこっち来て、一緒のベッドで寝る予定って、何。分かんない。やっと震えた携帯画面を覗くと、傑から、『頑張って』って…いや、どう、頑張ればいいのか教えて欲しいんだけど。
「五条、ごめん。お先」
「いや別に…、って、うわ、」
「なに?」
いや当たり前なんだけどさ。バスローブ。紐解けば、即、っつーの。目に毒すぎんだけど。下着つけてんのか知らねーけど、一枚だけの布、柔らかそうに膨らんでる双丘が、彼女が動く度に揺れて、ガンガン理性をぶっ壊しに来る。ヤバイヤバイヤバイ、何この状況。え、胸。胸じゃん。胸。の胸。
「そういえば、明日何時に起きるのかな。五条、明日はお家帰るの?」
「え?や、今日だけ。起きる時間はまだ連絡来てない」
俺は機械かなんかか?業務連絡みたいな返答だけしながら、もうダメだと素早く立ち上がった。俺も風呂入ろ。これ以上ここに居て何もしない自信ないわ、マジで。好きな子に嫌われることしか出来る自信ない。俺に抱かれて嫌う女なんか世界に居んのって信じらんない気分だけど万が一にも本気で嫌われたら日本滅ぼしかねないから止める。
「あとで時間、話しとくよ。明日適当に起こすから寝てれば」
「えっ…なんか今日五条が凄く凄く優しい気がするどうしたの」
「は?俺はいつも優しいだろふざけんな」
五条大丈夫…?なんて呟いてるの方は振り返らない。もうそのバスローブの紐引いてはだけさして揉み倒して脱がして突っ込んでアンアン言わせたいしか頭にねえ。先にトイレで抜くか?いや、バレるかもしんないし、シャワーの音で誤魔化しながら風呂場で散々抜き切るのがベストだろう。良かった、先、入らしといて。あとだったら絶対臭いがやばいことになる。服を脱いで風呂に一歩踏み入れて、排水溝を憐れんでしまう。そこにの抜け毛か、あったのがグッと来た。抜け毛っていうのはあれだけど、何、なんかもう、ダメだわ、俺。重症だわ。
***
「悟、ヘタレだったんだね」
「はぁ?夜な夜な特訓してただけだし」
「ドMじゃん」
「うるせー…」
襲えてねーの、バレてる。クマひどいよ、なんてニヤニヤ顔で傑が言ってきた。まあ、そりゃバレるに決まってる。と俺の距離感は今日も変わらず。昨日からずっと、ひたすらに理性と闘ってる俺は、偉い、偉すぎる。前を行くのズボンのプリケツに胸が苦しい。ハァ。
朝から山登り、お稲荷さん。は一人、元気百倍とでも言うようにキョロキョロ、そこら中を眺めては今日は猫を探してる。傑と硝子はグロッキー、俺は寝不足で、のろのろの後ろを追いかけてるザマだ。
今日を元気100%に始めているのはだけで、朝、んーっ、よく寝たー…てノビをしたは死ぬほど気持ちよさそうだった、健全に。彼女が覚醒するまで。ゆっくりと瞼が上がって、焦点を合わせている最中の瞳に俺を映すとこも、じっくり見てたわけだけど。五条?って小さく名前を呼んでくれたのが超可愛くて、彼女の今日は俺の名前を呼ぶとこから始まったんだよな、とか、今日のが一番最初に目に映したのは俺、とか、ミクロの世界に幸せを感じてしまった俺は終わってる。
傑と硝子も終わってる。と朝食食ってたら、夜中送った『今何してんの俺は死にそうなんだけど』ってメールに返信が来た。『朝ラーメン、キメてる』って二人がピースしてる写真が送られてきた訳だが、『何時まで呑んでたの』って聞いたら、『数時間前』とか返事きて呆れしか残らなかった。まあ一睡もしてない俺よりマシかもしんないけど、アル中でニコチン中とかマジでヤバイわ硝子が一番終わってんな。
「あっ!にゃーん…!」
「可愛いねえ」
「可愛いな」
二人が横目で俺を見やる。そうだよ可愛いよ。超可愛いだろ。可愛い、分かる。二人が可愛いつってんのは猫じゃなくて猫に話しかけてるだろ。可愛いよな、分かる。
「……可愛い」
「…五条も、硝子も、そんなに猫好きだったっけ?」
「違うよ。悟は「ねぇもうやめて…」あぁ…さとちゃん泣いちゃった」
「泣いてねぇよ。誰がさとちゃんだっつーんだ…」
HAHAHAと笑う傑、覚えてろよ。いつか倍返しするからな。ハァとため息を尽きながら、クソダリィ階段を上るために足を上げていく。
「はー、もー早く帰りてえ。俺山登り嫌い。一人で帰って来りゃよかった…」
「本当に?」
「嘘です。マジで鋼鉄のハートちょうだい」
「やっぱヘタレじゃん」
「うるせー黙れ」
颯爽と、あらゆる猫と戯れながら鳥居をくぐって登って行くを追っかけてく。傑と硝子と歩いてても今日楽しいことは一つもない。俺が近づいてったことに気付くと、くるりと振り返って名前を呼んで、微笑んでくれるが可愛い。マジで好き。
→
←