夏祭り行かせられる五条
「浴衣でばっちりきめてきてくれなかったら呪うからね。きめてきてくれたら欲しいものあげるからきてきて!お願い!」
早口言葉かなんか?
*
「硝子浴衣可愛い~!!似合ってる!!」
「も可愛いよ。で、着替えて来ていいか?既に着てるのがだるい」
「やだ。絶対やだ。デートしよ」
「着てなくても出来る」
「やだ!着たまま!追加で煙草1カートンあげるから!」
「なら、ま、しゃあねーか」
「やっっったー!!嬉しい~!!」
まだ距離があるけど、目視できる程度。硝子と目が合った。まあ俺ら目立つしね。
話しかけようとチラッチラしてくる女がうぜーから、滅茶苦茶不機嫌でーすオーラを醸し出してっけど、それ以上にワザと不機嫌そうなオーラを纏ってる硝子のおかげで、あの二人は話しかけられずに済んでる気がする。この場に居る女は全員あそこに負けてる。けど、普段と違って、どっちかってーと羨望の眼差しっていうか。嫌がらせ感はしない。俺たち最強、に対する扱いと同じで、こうまで違うと勝負を挑む気にもなんないんだろう。弱い奴っていうのは、大体が救いようのない馬鹿で。妥協して、努力もしない人間だ。勿論才能もないから、あんま言うのはアレだけど。
とにかく、と硝子、今日は二人がめっちゃ目立ってる。なんつーか、本気出してきたな、ってガチめの感想しか生まれない。何だかんだ硝子も顔面に関して何も感じたことねーし、普通に整ってんだよな。タレ眉すげーけど。の顔は斜めからしか見えないけど、控えめに言って、死ぬほど可愛い。雰囲気によく似合った浴衣、淡く色づいてる頬、アップにしてる髪、後れ毛、うなじ。
傑、俺どうしたらいい。今日と口きけねーかも。傑の顔を見ると、傑は声、かけないの?とでも言うように心なしかニヤニヤ俺を見てやがる。腹立つ。…もうあと三歩もせずに、今お前の後ろにいるの、状態になんのに、、気付いてくれてもよくない。言い出しっぺ、ちゃんと浴衣着てるのは偉いけどさ、髪アップにしてんのも可愛いけどさ、うなじが、近い。白い。エロい。何で全世界にうなじ晒してんの。俺のもんだって歯形でもキスマでも赤く色付けてやりたい。
「、硝子。お待たせ」
傑の声に、二人、いや、が嬉しそうに振り返った。俺と目が合ったのに、直ぐに彼女は傑の方を向いて、目をまあるく見開いてハッ…と口に手を当てる。硝子はずっとこっちを見てニヤニヤしてた。こっち、つーか、お前俺の顔見てニヤニヤしてんだろ。どういうワケ。あぁ?
「……やばい傑イケメンどうしよ硝子」
「確かに似合っているのは否定できない。夏油お前、一生和装で歩いてろよ」
「え~可愛い女の子二人にそんなこと言われたら困っちゃうね」
「キッモ」
「傑、浴衣着て来てくれてありがとう。何か欲しいものない?なんでもあげる。でもね、まず、わたがし買わせて。傑は真っ白いものを持てば、もっと映えるから!」
「だって、悟。食べる?」
がはしゃいで歩き出すから、みんなで後ろを追っていく。
「……食べる」
近くにあった屋台でわたがし一つ!と彼女が元気よく頼んだ。
「五条、拗ねんな。私がお面も買ってあげよう、変態ライダー、変態レンジャー、ペカチュウ。選べ」
「お前らバカにしすぎなんだけど俺を」
はい綿菓子!とが傑に綿菓子を持たせた。腹立つ。硝子は未だにお面屋と俺を見比べてる。
「、悟にもなんか言ってあげなよ」
「え、…でも五条の和服は見たことあるもん。傑の方が和装は似合ってる。百点」
「ありがとう」
…綿菓子がの手から傑に渡り、傑が俺に綿菓子を「待って!写真撮らせて!」カシャ。傑が一通り悪ノリして謎のポーズを取りまくり、も撮りまくった後。やっと俺の手に渡って来た。…傑、そういうとこあるよね。
手元の砂糖の塊を手で千切って口に運ぶけど、俺の気持ちとは正反対に甘い。俺は渋い気持ちにも程があんだけど。俺だってちゃんと浴衣着てきたじゃん。なんもないわけ。俺が欲しいものも聞いてくんないの。まあお前なんだけど。強いて言うならお前と手繋いで祭り回りたいんだけど。お前らが見たことあんのは俺の着物姿であって浴衣じゃないじゃん。皆俺にも何か言うことないの。「傑、金魚とか、射的とかも似合いそう。どうしよう、今日傑でいっぱい遊ぶ」「ははは」傑傑傑傑ひどくない?俺だってパンツすら履かないでバカクソ真面目に浴衣着て来たんだけど。
「りんごあめ買ってあげるから、元気だそうね、悟」
「ほら、かき氷だ。あとで舌見せろ」ブルーハワイやめろ。
「チョコバナナ」つかいつの間にゲットしたの、お前らもうビール飲んでんのかよ。
「ベビーカステラ」ホイホイ俺の腕の中に屋台のおやつが積み重なっていく。
「いやいやいやもういいから!いらねーんだけど!?」
持ちきれないカステラは硝子に突っ返した。私甘いもの食べないって言うなら買ってくんなよ。カステラが傑の手に渡っていった。が俺の手元を見ている。
「チョコバナナもらっていい?」
「は、却下」
「…じゃあ一口」
あーとが開けた口と、俺が手に持ってるチョコバナナを見比べた。感想は。
「無理」
「ケチ…」
なにがケチなんだよ俺の理性に感謝しろよお前ふざけんなよこんな往来でフェラ顔晒す気なの?マジで何考えてんの?クソビッチか?
ハアァ~~マジありえねえ。もう知らねーこんなデリカシーのないクソ女。俺はにかき氷をやって彼女をほっぽり、いつの間にか大分向こうの方に行ってしまっていた傑と硝子を追いかけようと歩き出す。が後ろから呼んでくっけど無視。早くしないと二人共先行っちゃうじゃん。綿菓子も程ほどに、とりあえず指の間に刺さりまくってる串ら、三刀流みたいになってんじゃん。な手元をどうにかしようと、チョコバナナをエロくないように横向きに噛みちぎりながら食ってズンズン進んでいく。…けど。ごじょー…と悲し気な声が遠くなってきたから、仕方ねーから止まってやった。やっぱり俺、優しすぎ。あんまり優しくしてっと好きなのがバレそうでちょっとヒヤヒヤする。彼女が息を切らしてやっと追いついて来た。
「五条、歩くの、ちょっと速い、ごめん…」
「っとに仕方ねーなオマエ」
「五条が和装に慣れすぎてるだけだと思う」
「行くぞ」
俺は既にチョコバナナを食い終わり、りんごあめに突入している。りんごあめの中身ってどうもイマイチ甘くない、なんて品種のリンゴだったっけ。と手、繋いだら、渋いような味も気分も甘くなるかな。けど、お前、はぐれるから、とか言って手なんか繋いでみろよ。優しすぎてヤバイだろ。絶対バレる。好きなのがバレる。…別に?俺がのこと好きなわけじゃないけど?の方から好きって言わせる。はぐれるから繋いで欲しいとか言えよ。繋ぐ罰ゲームな、とかなんかないかな。手、繋ぎたいけどうまい言い訳が見つからない。人混み、大分サングラスの隙間から入って来る情報で眼が頭がキツくなってきた。思考回路がバグってる。
りんごあめを綿菓子と中和させながら食べてくけど、思わずハァと溜息が出た。ちゃんとついて来てんのかな、って念のためチラリと振り返った後ろには居ない。…いねーし。……どこ埋まってんだ。
見渡しても、の姿は見えない。本気で人が多すぎる。辺りが暗くなってきてサングラスでは見にくい。…ホントにはぐれんなら、手、繋いどきゃ良かった。
目を細めながら探してくけど、アイツちっせーから物理で見つかりにくい。ヘンなのに連れ込まれてたら、……。
どうするかな、肉眼じゃキツいけど呪力で探すしかないか。グラサンに手をかけたその時、くい、と背中の布が引かれたから振り向いた。
「五条は目立つから探しやすいね。どこに居ても分かる」
思わず髪をかき乱しながらため息をついた。のほほんとした顔しやがって。見た目いい自覚持てよ。警戒しろ。呪力出せば勝てはするだろうけど、連れ込まれたら浴衣なんか引ん剥かれんの一瞬だぞ。
「お前がチビすぎんだよ。手、繋がないとはぐれそうになるとか幼稚園児なの?」
いつ食べ終わったのか、彼女はかき氷のカップも持っていないし。無理矢理、手を握ってやった。
「……二人ともなんか言ってやってよ、って、あ」
「…居ないね」
「はぐれた…」
でも一人にならなくて良かった、と手を握り返してひっついてくるにドキドキドキドキしながら頑張って平静を装い、パカ、と携帯をあける。…いつの間に新着メール。『花火の時に、言ってた場所で合流しよう。楽しんで』マジかよ。
が携帯を覗き込んできたのに構わず、添付されてた画像をダウンロードするけど、…硝子がアホみたいな構え方で射的してる画像が表示された。硝子センス無さそう、これ絶対ねーわ。
「花火で合流しよ、だって。あいつら一緒に射的やってるみてーだぜ」
「……これは当たるのかな」
「無理だろ」
「うん……」
人の少ない方へ、彼女の手を引いてゆっくり歩いていく。なんか、やりたいことあんのかな。聞いたりした方が良かったりすんのかな。彼女は黙って隣をついてくる。
俺は手の力を緩めず強くせず、感情を悟られないようにするのでいっぱいいっぱいだ。柔らかくて小さいの手は、俺の手の中に収められんじゃねーか、ってくらいで、性別の違いを一段と認識させてくる。
「…二人ともそういう関係なのかな。やっぱり花火まで合流待った方がいいやつだよね」
「いや知らんけど。まあ、俺は待ちたい」
「えっやっぱり…えっ傑…硝子だって私に一言もそんなこと…」
「あの二人はそういうんじゃ、ないんじゃん? …俺が合流したくないっていうのは――」
足を止めて彼女と向き合って、繋いでいない方の手を、彼女の顔に伸ばした。すす、と耳の後ろ、首筋を伝って、うなじに触れる。そろりと撫でてから衿を少し引っ張り上げれば合わせがはだけた。生唾を飲み込みながら性急に彼女の腰を抱き寄せ、帯に手を伸ばす。
「っだめ、五条。はだけても直せないから…」
「俺があとで着付けるって」
「外で、なんて。馬鹿じゃないの…?」
「いーから。こっち向いて」
キスしたくて顔を近づけたところで、弾けてしまいそうなくらい目を丸くしてると目が合って、情欲の欠片もないそれに、ちょっと待ったと己がセーブをかけた。ちょっとも彼女の顔は赤くない。
「――五条?どうしたの?」
普通の顔してるの衿合わせ、…はだけてねえ。……あれ、俺。
存在した記憶か?存在しない記憶か?どこからどこまで妄想だった?人混みの呪力の多さにでも当てられたか?
「…やっぱ二人と合流しよ。俺、お前と二人とか無理」
「うん。でもちょっと休んでこう。顔色あんまりよくないよ。大丈夫?」
彼女が俺の顔を覗き込むから、しれっと顔を反らした。彼女はそんな俺を気にする素振りもなく、俺の手を引いて歩いていく。アスファルトを抜けて河原に出て、屋台一つすら出ていない寂し気な場所、座ろうよ、とが俺を促した。浴衣汚れんぞって言う俺の言葉にも、強気に洗えばいーじゃんと返って来るから、彼女につられて大人しく土の上に腰を下ろす。彼女と繋いでいた手は解かれてしまった。
「…ちょっと人酔いしただけ」
「飲み物、ラムネかなんか買ってこようか?待ってて」
「お前一人で戻って来れないでしょ。大人しくここいれば?」
彼女が自身の膝の上に置いていた手の上に、上から手を重ねて止める。そんなことないよ、と言いながらも、彼女は振り払うことはしない。不思議そうに俺を見てるけど、隣に居てくれるらしい。
俺は目を閉じてグラサンを額の上に追いやり、目の間を指で押す。夏の匂い、涼しい夜風、繋いでる手だけが馬鹿みたいに熱くて、マジでシャレになんない。
「…そういえば五条は、欲しいものあった?」
「もうもらった」
ええ?何て変な声を出しながらも、彼女はじっとしている。ただ隣にが居てくれてるっていうのが馬鹿みたいにくすぐったい。目を閉じてても感じるの呪力が、存在が、どうしようもなくこの世界を愛しいものにしていってしまう。幸せを感じるとかガラしゃねーんだけど。
しばらくして、花火が上がる音にぼんやり目を開ける。彼女が空を見上げているのが目に入った。彼女の眼の中に、きらきら、花火が上がっていく。綺麗、ってまるで呪力みたいなそれを一心に見つめている彼女に、俺の視界を見せてやれたら、喜ばせてあげられるだろうに。それから、お前が一番綺麗に見えてること、思い知ってよ。
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