みんなで京都行く

「ねえ。盆休み、暇」
「任務」
「任務」
「勉強」
「そうだ、京都、行こう」




「ん~~抹茶アイスおいしい…!」
「この煎餅もなかなかやるぞ」
「新幹線で駅弁食べたからなぁ、私はまだそんなにお腹が…」
「可哀相。一口いる?」
「あーん」

 カシャ。「ひゃめへ」「やめない。送信」傑が私のアイスに口をつけた写真を撮った硝子が、更に上から傑の口にお煎餅を押し付けた。アイス煎餅、おいしいのかな。

 と、こんな感じで、私たちは最高に京都を満喫しているなう。

 少し、かなり、結構? 前。じゃあ俺ちょっと用事済ませてくっから。と死ぬほど機嫌悪そうな顔で吐き捨てた五条と駅で別れ、唖然と互いに顔を見合わせた私たちは、少し電車を乗り継いで、「お城にでも行く?」「川がいい、ヌートリアって化け物見たい」「カピバラみたいなやつらしいな」なんて話しながら、とりあえず電車を降りた。
 川の方へ、繁華街を散策しながら抜けていく。買い食い、お土産屋さん、目が何個あっても足りない!
 任務と任務は五条が手伝ってくれたから前持って終わらせられて、五条が突き付けて来たグリーン車のチケットに硝子は参考書を閉じたから。そうだ、京都、来た!
 はぁ~アイスおいしかった。大きい橋が見えて来て、脇へ入って行くけど、とにかく、川を下るか上るか、それが問題だ。

「次どうする?川沿いでUMA探しながら…次は東照宮で猿見る?」
「それ日光な。もうUMAには突っ込まん」
が言いたいの、金閣寺じゃない?でも私は銀閣寺の方が見てみたいな。そうだ、生垣に猿の呪霊を張り付かせてパンピーを驚かせるとかどうかな」
「やることが陰湿すぎないか」
「じゃあ川上ろっか。遭遇できるかなあ、ヌートリア」
「あ、それなら私、この和菓子屋、興味あるな。豆大福が有名なんだって」
「行きたい!あっでもそれなら、途中にあるこのパン屋さんも…」
「あ、夜はここのカレーにしない?辛口が辛いって評判みたいなんだ」
「五条泣きそう」
「泣かすんだよ」
「日頃の恨みが深い。あ、ちょっと戻っちゃうけど、五条は、ここのショコラ好きそう」
「なあ酒はないのか」
「あんまり有名なのないよ、京都」
「コーン…」
「そうだ、神社、行こう!」
「わざわざ行くかい?そんな呪霊が多そうなとこ…」
「稲荷だけど、ネコがいっぱいいるんだって!」
「猫大社か、それはいいね」
「でもちょっと遠いし、もう遅いよね。ホントに呪霊に遭遇しそう」
「うん。明日にしようよ。湯葉も」
「同意」

 じゃあとりあえず川沿いを歩きながらパン屋さんにいって豆大福を買って銀閣寺でパンピー脅かして帰ってこよう!

 珍しくノリノリな硝子と、狐みたいな目でにっこりする傑と、三人で足を踏み出した。ところで目の前に見知った顔がいきなり現れた。わあ。

「もう!マジやってらんねえ!クッソ腹立つ!」

 激おこぷんぷん五条。
 カシャ。カシャ。カシャカシャ。傑と硝子が五条の写真を撮りまくってる音に、はっと我に返った。~~っ私も!!

「悟。凄い正装だね。着物着るんだ、吃驚してるよ」
「別に珍しくもなんともないだろ」
「着替えてきたら良かったのに」
「あれ以上あんなとこに居たくねーっつの」

 人通りが少ないところで良かった。と言っても目線は痛いから、それとなく皆を促して、川沿いへの道を降りていく。
 五条、いつも通りなのはサングラスだけで。大きい背中も身長も変わらないけど、黒い着物、灰色の袴。横から見たり前に回ったり私は忙しい。凄い。五条がいつにも増してきらきらしてる。着物の正面、真ん中のもふもふをもふもふしたくなる、お着物。…ちょっと格好いいこともない。や、見た目だけなら、かなりカッコいい。五条は顔だけはいいので大変なことになってる。なんで白髪なのに黒い着物が似合うの、ワケ分からない。よく分からない。五条を理解しようとするだけ無駄。…こういう着物、なんかで、なんかで見たことある。なんだっけ。

「五条、なんていうんだっけ、このお着物」
「黒紋付」
「結婚式で着るやつだよ」「余計なこと言うな傑」
「ああ!って、え、五条結婚式だったの?」
「ンなわけねーだろぶっ飛ばすぞ」
「ちなみにこの着物いくらくらいすんの」
「知るか」
「あ、これ家紋かい?」
「そうだけど何」
「こわ…」

 うわあ、五条めちゃめちゃ機嫌悪い。何があったんだろう。聞かなくても喋り出してはくれそうだ。川沿いについて、綺麗な風景が広がって、わあ、と思ったのも束の間、五条がドカッと腰を下ろしそうになった寸前で止めた。私と傑の手が一斉に出た。

「何二人とも俺のケツ触ってんの」
「着物で地べたに座るやつがあるか」

 こくこく必死で頷いて同意した。「ここ猫のウンチ落ちてるよ」「エッマジ、ありがと」ナイス嘘。
 とりあえず歩こうよ、って言う風に前を歩いて、五条の気を逸らす。ついでに隣に来てくれた硝子と川沿いを観察する。居るかなあ?UMA。化け物。ヌートリア。ヌゥー…って鳴くんだって。今の五条みたいに。

「だってさぁ。マジで最悪。久しぶりに帰って来たのにこの仕打ち。ホント何考えてんだろうな」
「まあまあ」
「傑、親と仲いい?」

 二人の声が段々小さくなって、終ぞ聞こえなくなったから、立ち止まってチラリと振り返ると、大分距離が開いてしまっていた。ふてくされたような五条は、口を尖らせながら傑に何かを言っている。こちらの目標は未だ見つからなくて、川には水鳥が居るだけだ。

「反抗期五条君だな」
「わかる。でも、あの着物、カッコイイね」
「着物が?五条が?」
「両方。着物着てる五条が。でも傑の方が似合いそう」
「あ゛ぁ?」
「ひゃ、地獄耳。ごめんなさい」

 追いついてくるの速すぎる。それに、まだ機嫌悪いの? 五条の圧、大きな声に、近くにいた鳥が逃げて行った。
 にしても、どうするんだろう。このまま五条を連れ回すわけにもいかない気がするけど。いいのか悪いのか、結局土の上を歩かせてしまっていて、…袴の下の方が土煙で汚れてるのは見なかったことにしたい。そこだけの被害で済んでいると言い換えて欲しい。現実逃避しよう。値段なんて考えたくない。

「それにしても、ヌートリア居ないね…」
「帰りの方が見られるかもな。夜行性らしいし」

 硝子は気になったことや知らないことは全部調べてくれる。だから賢いんだと思う。さすが硝子。でも。

「パケ死しない?大丈夫?」
「私は平気。は」
「あんまり自信ない…」

 娯楽のみに使われていてごめん、私の携帯。そろそろ、次の橋のところで上がったらパン屋さんぽいけど。けど、なんか、あの橋のところ、なんかやばい車が止まってるような。目を凝らせば凝らすほど、黒塗りのヤバイ車が見える。上がるの怖いなあ…。…ていうかなんか人がこっち見て手、降ってる?
「…傑、五条」
 とりあえず私は硝子の手を引いて、大男二人の方へ駆け寄り、ひっついた。これで安心。とりあえず死なない構えだ。
「誰あれ。知り合い?」
「ッゲ…」

 坊ちゃまーと泣き叫ぶような声を出しながら、その人が走り寄って来た。あ、ああ。察した。ホントにお坊ちゃまなんだなあ。



 怖い車に乗ってた怖い人、怖くなかったけど。なんか凄い可哀そうだったけど。は、私たちに死ぬほど頭を下げて。五条は人攫いにあったように連れ去られていった。

「そういえば今日どこに泊まるんだっけ。悟に聞いてる?」

 って言った傑に、ハッ……となった私たち、これはよく帳を忘れて夜蛾先生に拳骨されるわけだと思った。とにかくどうしよう、焦っていてもしょうがない、当初の予定を続行だ!
 って銀閣寺でパンピー脅かすところまでした。その間、五条から、ちゃんと連絡があって、ホテルここ。夕飯俺はいらねーつもり。五条って言えば通じるから。って来て、五条は何時くらいに来るんだろう、もうついてるかもな、お土産に辛口カレーテイクアウトしてあげよう。なんて夕飯食べて、何時くらいに着くって連絡して、ついた、そう、指定の住所に、ついた。

 ロビー、普通のと言っても多分やばやばのやばな値段のお洋服を着ている五条と数時間ぶりに合流したわけだけど。こんな恐ろしいホテルに遊びまくってよれよれの様子で来てしまった私たちは全員死んでいた。開いた口が塞がらない一名、ドン引きしている一名、萎縮している私である。検索してから来ればよかった。五つ星ホテル。確かに名前を聞いたことあるような、ないような。こわい。

「…ごめん急だったから。融通利くいつものとこ取った。実家泊まんの嫌だったんだよ。ちゃんと二部屋取ったんだけど、…やっぱ、みんなでワイワイできる旅館とかのが良かった系?」
 それをアホな勘違いした五条がお伺いを立ててくる。
「別に、嫌なわけじゃなくて。その、五条。いいの、こんなところに泊まっていいの…?」
「イヤなら取り直すけど」
「五条、有難く頂戴すんよ。借りは返す。今」
 硝子が私の背中を押した。目の前には五条、顔を上げると彼の戸惑っているような目と目が合う。
「夏油、酒屋行って地酒たらふく買い込んでこよう。あんまりおいしくないと噂の」
「さすがに少しはおいしいのあるんじゃない?二人は酒癖悪いんだから呑んじゃだめだよ。それじゃおやすみ」
「え、え、え…?」

 二人が連れ立って大きなエントランスを出て行った。

「…つまりどういう、こと?」
「…多分、俺とお前がおんなじ部屋」