焼き鳥食べる夏油
小腹が空いて共有スペースへ来た。棚を漁って菓子を出し、茶は、うわこれ絶対ラブホのアメニティじゃん。傑か?
「五条。私もお腹すいた」
「この茶、飲めば?ラブホのやつだけど」
「えっ……」
「多分傑」
「えぇ……お菓子にする」
色々物色しながら、結局俺は多分傑が買ったんだろうカップラーメンを頂くことにした。名前書いてねーし食ってもいいやつだろ。
蓋を開けて魔法瓶の湯を入れていると、彼女が隣にやってきて、お菓子とお皿と、俺を見て箸も持って行ってくれた。
カップラーメンの蓋をして、俺も彼女を追い席につく。お菓子の袋をあけて皿に移した彼女は、それをつまみながら、おずおずと言った風に俺を見つめている。…なに。
「…ねぇ、五条。無下限ってタイマーになるって本当?」
「お前俺を何だと思ってんの?」
「カップラーメンタイマーとか…アラームいらないのかなって…」
「アラームはいらねぇけど別に時間が見えるわけじゃない」
そっかぁ、よくノびないね。なんとなく体感時間でわかるだろ。
なんて会話をしながら、俺も彼女の開けた菓子をもらう。
「うーん…。呪力ってどんな風に見えてるの?」
「んー。こう、きらきら~って感じ」
「うわ硝子みたい。もっと具体的に」
「ヘキサゴン六角形を並べた時の交錯点に絶えず点Pが移動しながら細胞核を中心に煌めいてる感じ」
「適当でしょ。猿でもわかるように言って」
「おほしさま」
「よくわかった~!」
ぱぁっと笑顔になったが、にこにこしながら菓子を食ってる。バカ可愛いな、にこにこすんなよ。
目線の行く先がないので、まだだろうけど、そろ、と手元のカップラーメンのフタを開けた。絶対まだ硬いだろうけど、もういいや。啜り出す。音を出すラーメンの啜り方は、傑に教えてもらった。いくらラーメンと言えど、音を出して食べるってマジだった、っつーのは軽くカルチャーショックだった。うーん、味がしない。さすがカップラーメン、いまいちだわ。まあ食えないことはない、これはこれとしてなら、まあまあ。ちょっとドキドキしちゃってんのはカップラーメンが激辛なせい。嘘だけど。ずるずる麺を啜ってみる。は菓子をつまんでいる。
そういや、あいつら菓子も皿に移さないな。とは感覚が似てるかもしんない。あんまし気にならない、つか。今度、あの時傑に連れてってもらったラーメン屋、と行こっかな。
「呪力って、個人差あるの?色とか、おほしさま具合」
「ん?多少ある。特にお前なんか、……」
天の川みたいに超綺麗だよ、って、…なんか、告白するみたいじゃね?
「うん」
「何でもない」
「えっ気になる」
あーあーあー。いやよ見つめちゃイヤー。
「ぐっちゃぐちゃの汚い呪力、お前の呪力はおほしさまとは言えないつってんだよ」
「…そっか」
恥ずかしさにヒン曲がった俺の言葉に、彼女は目をぱちくりして相槌を打ったけど、その眉は徐々に下がっていって、最後には目に顔まで伏せてしまった。彼女が目も合わせずに立ち上がる。
「ごめんね。もう行く、またね」
またね、って言ったじゃん。
*
「傑。最近いなくね?」
「え?悟が避けられてるだけだよ」
任務帰り、そのへんで買った焼き鳥を頬張りながら、今は焼き鳥のおいしさだけ考えさせてくれと願うも無駄だ。補助監督が待つ場所までは、歩いてもう少し距離がある。
薄々は気付いていたのだろう。悟はこめかみの神経をビキビキさせたのを頑張って耐えながら口を開いた。
仕方がないから、塩ねぎまを頬張りながら、悟の不満を聞くだけ聞いてやる、もとい、聞かされる。
「俺なんで避けられてんの」
「知らないよ」
「冷たくない?」
「まあワケを知ってるからね」
「知ってんじゃん。教えろよ」
「どうして?」
「は?どうしてって…そりゃ」
が悟を避けている理由なんて簡単だろう。多分、『私の呪力が汚いなら、呪力が見えてしまう悟の視界に入らない方がいいんでは』って、それだけだと思う。私の呪力って汚いんだってと、しょんぼり硝子に漏らしていたのを聞いた。
まぁそれにかこつけて、悟から逃げているかは分からないけど。いじめひどいし。
こないだの授業一コマ目、彼女が席に着いた途端悲鳴を上げて飛び上がるから何かと思ったら、机の中に虫が入ってた。後ろの方から出て来た紙には、『バーーカ!!』って書かれてたっけ。悟が来る前に、私が窓から虫を逃がして、硝子と彼女を慰めてあげたけど、悟…。
今、悟はグラサンを額に上げて、口を一文字に、寄せている眉を指で押さえている。教えてくださいが素直に言えない悟、謝ることもできない悟、好きな女の子を虐めてしまう小学生の悟。
「いくら好きだからって、悟はを虐めすぎだよ」
「す、」
悟が目を見開いた。相変わらず、目の上のアーチ、粘膜が見えるって言うのか?縦に開きすぎていて、黒目が上にくっつかないっていうのか。
「好きじゃねえよ」悟が凄みながら吠えた。
「うわ怖いな、お目目パッチリやめてくれないか」
「お目目パッチリなのはだろ」
重症のようだ。もう放っておこう。私は悟の口に王道も王道、塩ねぎまの二本目を差し出した。機嫌治しなよ。悟が串を受け取り、一口噛り付く。
私は次は何を食べようか。袋を漁っていく。一本はの機嫌取りに残しておこう。硝子に頼まれた串は死守しなければなぁ。
「俺タレ派」
「は?塩だろ」
むっとして顔を上げると、口に串を突っ込まれた。危ないなぁ。塩はお気に召さなかったらしい。私また同じ串を食べるのかい。まあいいか、おいしいから。
口で受け取った串を手で持ち、横向きに抜く。塩おいしいじゃないか。相変わらず悟とは好みが別れる。
悟は袋を漁り、ねぎまのタレを持っていった。刺々しい雰囲気、悟は口を尖らせている。
「ハァ。本当に分からない?」
「…原因は何となく分かる。なんでアイツがそういう発想になんのかは全く分かんない」
「悟のことを思ってじゃないのかな。本当に、ってそんなに呪力が汚いの?」
「は?逆。銀河レベル」
「超綺麗ってこと?」
「そう」
俺それで惚れたの。
悟が焼き鳥を頬張りながら、然もありなんと言ってみせた。…冷静だな。耳ひとつ赤くなっていない。これ無意識じゃないか。珍しいものを見た。
「悟、よっぽどのこと好きなんだね」
「は?――っは、バッ、ちっげーし。今のは言葉の綾っつーか!」
「どこも綾じゃなかったよ」
慌てふためくほど信憑性が増してるよ。一通り慌ててから悟がまぁ傑ならいっか、とデレたけど、私にじゃなくてにデレなよ。
「帰ったら謝りなよ。君は綺麗だ~って歌えばの機嫌も直るんじゃない。そうじゃないとグッバイされるよ」
「アイツの運命の人は俺なんだよ俺の運命の人もアイツなわけ。これはもう決定事項」
焼き鳥のタレ口の端につけて言われてもあんまカッコよくないなぁ。すっかり機嫌の直った悟が、謎に一転、自信を取り戻したように話し始めた。どうしたの。機嫌直る要素あった?
「ていうか、俺のことを思ってって、何。俺のこと好きなのかな」
「それは無いと思うよ。悟はまず、の優しさに感謝しないとね…」
「ハァ?呪力汚いって言われて、俺の眼のこと思って視界に入らないようにしたってことじゃないの。それって俺のこと好きじゃね?」
「無いと思うよ…」
補助監督が待つ車が見えてくると、悟がぺろりと口の端を舐めて、我先にと乗り込んでいった。早くとドアから手だけ出した悟に急かされ私も乗り込むと、「早くして」と悟が補助監督をも急かす。…と話したとして、二人にしたら絶対こじれるだろうなぁ。…なんでうまくいかないんだ、二人とも。…悟のせいだね……。
*
高専に戻って来ると、運良くというのか、彼女にとっては運悪くというのか。とバッタリ鉢合わせた。あ、と後退り逃げようとするの腕を掴んで待ったをかける。
「。悟が話があるんだって」
「え…」
でも、ってが何か言いたそうに私の顔を見る。
「バカ女。何俺から逃げてるわけ」
「…だって五条、呪力見えちゃうでしょ。私の呪力綺麗じゃないんでしょ?五条、私のことも嫌いだし、視界に入らない方がいいじゃん」
「は?別に嫌いじゃないけど」
「えっじゃあ何で虐めてくるの?」
「……お前のことが嫌いだからだけど?でも別に、お前の呪力は汚くない。そこまで気にすんなよお前ホント面倒くせー」
が私の顔を見上げた。凄い顔だ。解説を求めている。
「まあ、今まで通り傍にいてって意味だよ」
「……」
凄い顔だ。理解しかねるらしい。まあそうだろう。でも気付いてほしいな、悟が何も言ってこないだろう。ちっげーし、とか、そうじゃねーよ、とか。そういうことだよ。
私は残しておいた焼き鳥の最後の一本をに餌付けた。目をぱちぱちしながら串を持ち、もくもく一口食べたの顔がほころんでいく。やっぱり取っておいて良かった。
「おいしい」
「うん。良かったね」
えへへ、と彼女が笑う。ムスッとした顔でこちらを見ている悟、よくこんな小さいものを虐めようと思うな。守ってやらなきゃならない対象だろう。
「五条、あんまり嫌だったらまた言ってね。京都校にでも移れないか聞いてみるから」
「ない。嫌とかないから」
そう?と彼女に見上げられ、悟がアップアップしているのが私には分かる。そんな悟はビシッと彼女に指を突き付けた。ダメだな、あれワケ分からなくなってるんじゃないか。折角仲直りしたんだから余計な事言うんじゃないよ。
「今度避けたらもっとひでー嫌がらせするから。それが嫌なら避けんな」
「えっ……」
あぁ…。折角焼き鳥のおかげで機嫌が悪くはなさそうだったが、徐々に目を吊り上げて悟を睨みつけた。「いいよ私だって五条のこと嫌いだもん」「は?お前の分際で俺にそんなクチ聞いていいと思ってんの」「虫入れられる方がイヤだから、嫌がらせの意を込めて今まで通りにしてやる!挨拶するし視界に入るし話し掛けるからね!」「受けて立つけど?」「~~っ五条なんかきらい!」よく分からない会話を繰り広げてから、が焼き鳥の串を持ったまま逃走していった。
「良かったね」
「どこが?」
「これまで通り話しかけてもらえるんじゃない。嫌われてるみたいだけど」
「……」
さ、私も硝子に差し入れに行こう。
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