五条とスイーツフェアに行く
「絶対グラサン外さないでよ?絶対だよ?」
「振りだな?はーい、オネーサン、これとこれとこれとこれね♥」
ウインクまで決めやがった。きゃーっ♥♥♥と黄色い悲鳴がそこかしこで上がる。注文してくれたものはあってるけど、許しがたい、この男。さっきからフロアの女性の視線を総なめにしている。さすが五条。
「ちょっろ」
「…早く食べてかえろ……硝子は甘いもの嫌いだし傑もついて来てくれなかったの悲しすぎる…」
「そういやお前今日フル武装じゃん。化粧下手すぎね?しかも残念ながら?化粧したって着飾ったって何をどう頑張ってもブスはブスだけど。ブス見せつけて何がしたいの?」
「ええ、ええ、そうでしょうね。五条様のグラサンには敵いませんわ~」
「バカにしてんだろ」
「うん」
五条とまともにやりあってはいけない。自分が疲れるだけである。今や、私の自己承認欲求は0を突っ切った。なぜなら五条は顔だけはいいから。顔のいい人間に顔を貶されると菩薩の境地に至れるというものだ。天地がひっくり返っても私の顔面が五条に敵うことは無い。それはシンプルに事実である。けど、ブスブス言われて傷つかないとは言ってない!泣きそう!
お待たせしました♥とスイーツを運んできてくれたお姉さんに、ありがと♥って五条が人懐っこい笑みを浮かべる。目の前に置かれていくスイーツは、わあ、とっても美味しそう。さすが名のあるお店―要約すると高価。
目の前の五条がそれにナイフを入れた。小さくカットして口に運ぶと、「結構イケんな、ここ」なんてもぐもぐ飲み込んでから言う。
ぐす。誰かと一緒に食べたかったし、ついでに安くもなる【カップル割り(同性でも可)】を利用したら凄くいいと思った、ただそれだけだったのに。まず最初に誘った硝子は「私甘いもの苦手」なんて言うし、次に誘った傑は「悟甘いもの好きだから悟と行きなよ、その日私は任務なんだ、ごめんね」なんて言った。「何の話してんの」って突っ込んできた五条のせいで「がこのフェア行きたいんだって。悟行ってやりなよ」「は?何で俺が行かなきゃなんねーの?」「甘いもの好きだろ?」「まぁ好きだけど」ああだこうだどうだったっけ。
とにかく、五条と来るくらいなら一人で行ったのに!逆らったら普段の嫌がらせが加速しそうで、何でか一緒に行く流れになってるのを強く否定できなかった。
「オネーサン、これとこれも追加で♥」
これみよがしに財力を見せつけてくる五条すごく腹立つ。最初から一人で来ようとしていれば!優雅に時間を!過ごせたのに!
既に死ぬほど居心地が悪い。周りの女性の目線がすごい。たいへん。こわい。五条の隣ってこんなに大変なんだ。傑は動いてるとイケメンなタイプで、甘ったるいオーラが出てるっていうか、人たらしっていうか。そういう感じだから、五条の隣に居ても死なずに済んでたんだ。硝子は超絶美人だから大丈夫、あとなんかアンニュイで強そうだから。多分纏っているタバコの匂いで、まず女性を近寄らせないのかもしれない。
「食わねーの?」
「食べる!」
とにかく回想が長くなった。五条の頼んだスイーツは既にあと三口もない状態になっている。そういえば写真撮りたかったのに。五条のバカ。
「お前のそれ一口くんない」
「…私も五条のやつ、一口食べたい」
「…いいけど」
え、いいの。五条が自分のスイーツを切り分けて、私のプレートの端に置いてくれた。そのまま彼が未だ手つかずの私のスイーツを切り分け、って、「ちょ、そんなに取ってかないで!?まだ食べてない!」「いーじゃんこのくらい」「このくらいじゃない…」「なんか文句あんの」つらすぎる。仕方ないから諦めて五条がお皿の端にくれたのを食べようとフォークを伸ばした。あ、おいしい。
「おいしいね、これ」
「もう一口やる」
え、くれるの。しかし、目前に差し出された、フォーク。これは普通に、あーん♥では?
まあね、五条だし。初対面から人を下の名前で呼ぶ五条だから。絶対気にしてないんだろうなあ。そのフォークが普通に間接キスになっちゃうだろうことも、私が周りの女性からの目線で悪寒を感じていることも、多分何一つ分かっていないに違いない。――や、どうだろう、嫌がらせの可能性があるのでは?私今日帰り道に注意しないと背後から刺される可能性が高まっているのは事実だ。もしかしなくともそれを狙っている?
「いらないわけ」
いる!
「……おいしい…」
「最後の一口あげよっか?」
「もういい…」
すごく怖い。だって、女性たちの呪いが渦巻いているのだ。このままでは多分呪霊が発生するに違いないのでお断りしておく。今ですら殺気にあてられて、つらくなってきている。五条は私を眺めていやらしい顔でにやにやしている。わかってやってたな。さっき頼んだ追加注文が来て、五条はにやにやしたままそれを切り分けた。
「じゃ、こっちあげる」
「もういい」
「折角俺があげるつってんだから食えば?」
食えよの命令形の方が相応しくない? 口にフォークを突っ込まれた。スイーツに罪はない。口の中に受け取ってもぐもぐする。最高。おいしい。「おいしい…」シンプルに感想が出た私の口に、調子に乗った五条がわんこそばみたいにひっきりなしにケーキを突っ込み始めた。
「ま、まって、やめて!もういい!遊んでるでしょ!?」
「今気づいたの?」
「~~~うっざ!!」
あまりにもムカつくので五条の存在を消してスイーツを楽しむことにしよう!
あぁ、これ食べたかったんだよね。フォークで一口。あぁ、凄くおいしい。とろける。素晴らしい甘味。しあわせ。ひたすらなんか喋っている五条が目の前でポーズを取ったり煽ったり煽ったり煽ったりしてくるけど兎にも角にも無視する、これは呪力の放出を一定にする鍛錬よろしく何かの鍛錬なのである。あぁ、これもおいしい。素晴らしい甘味。しあわせ。五条挙動がうるさいほんと静かにして。あぁ、これもおいしい、素晴らしい甘味、しあわせ…くぅ……。心の平静。心の平静。
「、お前ホント可愛いよね♥今日は一緒に来れて嬉しい♥」
うっわ。凄まじい方向に嫌がらせをシフトされた。あまりに周りが大変なことになっているので、ちょいちょい、と五条にちょいちょいする。ん、素直に身を乗り出して耳を寄せてくれた五条に耳打ち。「五条、あの、ホントに呪霊生まれるからやめて?分かっててやってるよね?」「お前ホントバカだよな」「えっ…あっ……」周りがシーンとしているのだ。五条は笑いを堪えているのか顔面崩壊の一歩手前。まあ五条、顔面崩壊しても限界があるし超顔がいいから崩壊という言葉は当てはまることはないだろう、けど。
私は慌てて五条から離れ空気に徹することにした。まだ死にたくない。死にそう。
*
「ごちそうさまでした…」
この死んだ空気の中で、とにかく私は頑張ってスイーツを食べきった。もっと味わいたかった。涙出る。今日の顛末を明日傑に話して同情してもらって、からの、今度は傑を無理矢理連れて来て思い出を塗り替えたい。それでチャラにしてあげよう。…多分傑は同情すらしてくれない気がする。涙出そう。
まあ、おいしかったはおいしかった。大変おいしかったけど。ぐす。
「五条、今日はありがとう。払っといて」
入店時にカップル割はチェックされたので大丈夫だろう、だから樋口さんを五条に差し出したのに無言で突っ返された。エッ足りない?全部払えと?私は財布か?待って多分絶対足りないよ?五条しれっと注文追加してなかったっけ?えっもしかして全部一口ずつくれたのはそういうわけ?えっ。えっ。五条に促されながら席を後にしていく。嘘でしょ待ってやばい。
会計のお姉さんに死ぬほど睨まれながら、私は顔面蒼白で財布の全財産を慌てて取り出した。どうしよう、殺される。五条差し出したらチャラにならないかな。許して。許されない。ぬっと後ろから憎たらしいほど長い腕が出て来たと思ったら、その手はトレーにブラックカードを置いた。「一括で~」えぇ。
「五条?」
「なに」
はい、と樋口を返しても受け取ってはもらえない。
「別に払うけど」
「まって、誰?五条?」
「あ゛?そんなに全部払いたいの?」
「ごめんなさい」
私は黙って首を振った。
五条悟の謎は深まる。五条にとっては、はした金なのかもしれない、けど、嫌いな人間に奢る?それともこれを貸しとして今後凄まじい取り立てが始まる?そんな気がする。私の人生終了のお知らせ。いつの間にかスマートに払い終えてしまっていた五条の背中を慌てて追いかけた。
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