酒を飲ませる夏油
に焚きつけられて、任務帰り、コンビニで圧を出したら買えてしまったんだから仕方ないだろう。年齢確認を、という震える声は、私の「ああ、この服ですか?コスプレですよ」の声の前に散ってしまった。哀れな店員よ。年齢確認もまともに出来ないなんて、猿か何かだったのかな? は帰路ずっと笑っていた。
高専に戻れば戻ったで当然、硝子にも笑われ、三人、任務に行っている悟を待つのを兼ね、悟の部屋で飲むことにした。一旦お風呂入りたい、ってに賛成し、その後に各自集合してきた訳だが。即ち、目の前には、湯上り、部屋着、薄着の女子が二名。
「あつい~」
「冷房つける?」
「やだー窓このままー風きもちいー」
実況中継。二人ともショートパンツから白い生脚を惜しげもなく晒している。横座りしてる、硝子は片膝たてて胡坐をかいている。キワどいな。もう少しで見えそうだけど、秘めておくのも一興か。
けれどそう思ったのも束の間、は私の提案を一蹴した癖に、一枚しか着てないだろう薄い部屋着に手をかけていた。
「こらこら、それ以上脱いだらダメだよ」
「下着がビキニだから大丈夫」
「ビキニは下着、下着はビキニ?」
「そうそう。だから大丈夫」
「大丈夫じゃねーよ」
硝子が制してくれた。は不満げに硝子のお腹に倒れ込んで抱き着いている。「酒臭い」硝子がを引き剥がそうとしているが、滅茶苦茶に引っ付いていて無理だったらしく、硝子はとうとう飲んでた缶をのうなじにくっつけた。ヒヤっとするだろうね。がビクリと肩を震わせる。うわぁ、目に毒だな。いや、目の保養ではあるんだけど。
硝子から離れたはコンビニ袋から新たな缶を取り出しプシュっと開けた。「もうちょっとのむ」「もうやめておいたら」グビグビいった。「あー…」それ一番強いやつだけど、大丈夫かな。
…凄い飲みっぷり。は上を向いて喉を絶え間なく動かしゴクゴク飲んでいく。…悟、早く帰ってこないと二人に全部飲まれそうだよ。とっくの昔に勿論悟にも連絡しているのに、悟はまだ任務から戻ってこない。遅いなぁ。
硝子はまだグビグビいってるを横目で眺めながらグビグビ飲んでいて、…硝子の前にはもう何本も空き缶が並んでいる。ペース、速すぎないか? けれど、頬が赤くなったりなども一切ないし、硝子、酒強いのかな。知らなかったな。
私はちびちび楽しむ程度に飲んでいる。別に、飲むのが初めてというわけでもないし、そこまでハッスルしていない。どちらかというと、今日は皆に酒を飲ませてみることを目的にノったようなものだ。
「っぷは~!」
「おっさんか?」
「いぇーい」
カン、と、やっとが缶を置いたけど…。…その音は。私は確かめるべく、そろりと缶に手を伸ばした。
…ああ、軽い。やっぱり。イッキしたのか、空じゃないか。
数十分前、初めてのお酒!と言ってわくわくしていた、あの可愛かったはどこへ。…これ以上飲ませたら危険じゃないか? はまだ座れてはいるけど、視界は確実に回っていそうだ。身体が揺れてる。彼女がまたコンビニ袋に手を突っ込んだから、どうにか止めさせようと腕を広げた。
「、おいで」
「なあに?」
「いいから。おいで」
わーい、とは私の胸に一直線に飛び込んできて、オデコを激突させてきた。やっぱり完全に酔ってる。さっきので自分にトドメを刺したでしょ。赤い顔でふにゃふにゃになってしまって…。
「すぐるー」
「…硝子、どうしてケータイを構えているのかな」
「五条に送るから以外にある?」
「私はがこれ以上飲むと良くないと思ったんだよ」
絶対に悟に殺されるからやめてくれないか。を引き剥がして硝子に受け渡そうとしたが、逆に、ひし、と抱き着かれてしまった。まずいな、普通に可愛いじゃないか。あと思ったより着痩せ?
「でも普通こんなことされたら、まあ持ち帰るよね」
「、逃げろ。食われるぞ」
「冗談だよ。まあ、は顔は可愛いと思うけど。悟も素直になればいいのに」
「えっ私かわいい?」
「可愛いよ」
「ほんと?」
「本当さ。硝子も美人だし。二人に囲まれて困ってるところだよ」
「吐きそう」
「やめて」
「冗談だよ」
硝子め。まあ、二人とも美人なのは本当だ。多分誰が見てもそう思うんじゃないだろうか。まあ私は、は馴れ馴れしい頭の弱い子とはちょっと思ってるけど。けれど顔面偏差値の話に限れば、彼女はかなり綺麗な部類に入ってしまうから凄い。私が人生で見て来た女性の中でトップ3はカタいし、堂々の一位かもしれない。まあ、悟には負けるかもしれないが。悟は常人離れしすぎている。
とにかく、悟が分かりやすく惚れてるが、私に抱き着いているところを、悟が見ようものなら、悟は一方的に無限張って私をボコボコにしてくる筈だ。いくら私だってそれは避けたい。
「。硝子のところに行きなよ、あっちの方が柔らかいよ」「セクハラかよ。事実だけど」
「ん-…」
「おねむ?」
「ん…」
は、しっかり私に抱き着き続ける。さっきの発言が良くなかっただろうか、ついにパシャリとこちらを激写した硝子。ガチャリと開いた扉。
「――お疲れー!つまみ買ってたら遅くなった。……って、は、……」
ああー……。相変わらず気配がないな。私、終了のお知らせか。
「……対面座位?…3P?」
「埋まれ五条。落ち着け、いいか、見てろよ。、こっち来い」
「んー…?」
「こっち。ほら、私の胸に飛び込んで来いと言ってるんだ」
「~~っしょーこ!すき!!」
「よしよし。――こういうことだ」
「、おいで」
「すぐるー」
「おい」
呼べば従順に行き来した、前世は犬か何かだったのかな? ふらふら突撃してきたを抱き留めて顔を上げると、悟は口の端を凄まじく引き攣らせて、コメカミの神経を浮き上がらせていた。立っている悟を座ったまま見上げるのは凄まじく首が痛い。
悟は凄い目線をの背中に突き刺しながらしゃがみこみ、持っていたコンビニ袋を床に置いて、に手を広げてみせた。いや、顔が怖いよ。私でも怖いと思うんだから、絶対にあそこにはダイブしたくないよね、。
「。こっち来い」
「やだ。五条やだ」
「っぶ」
硝子と耐えきれずに吹き出してしまった。振り向きもしないなんてひどすぎやしないかい。ダメだ腹が痛い。我慢出来る気もしないので、早々に諦めて声を出して笑ってしまう。やだ、って。やだって。上を向いて笑っているから私の背中は逸れているのに、は、なおも私の胸元にピッタリ顔をくっつけ続けている。
「、悟が、っふふ、嫌い?」
彼女がふてくされた顔を上げて、しっかり頷き、の背後、私の目の前、悟はグラサンを静かに机の上に置いた。あ、キレそうだな。日頃の行いのせいだよ悟、自業自得じゃないか。
「悟。嫌われてるみたいだね」
「うるせえ黙れ。、傑なんかにくっついてないで俺んとこ来い」
「もっと優しく言ってあげなよ。思わず従いたくなるように。他の女にはやり慣れてるだろ?」
「……。おいで」
「イヤ」
おもしろ。悟、砂糖でも溶いたのかみたいな声で言ってくれたのに。ひーひー言う私と硝子の声が響いている。
痺れを切らしたらしい悟はドス、と大股で近寄って来たかと思うと、べりりとを私から引き剥がした。悟に捕獲されたが、私に手を伸ばしたけど、私にできることは何もない。ごめんね。手を振って見送る。
「すぐるが裏切った……」
悟は何も言わず座り込み、自分の胡坐の上にを乗せた。あれは背面座位。背の高い悟にすっぽり頭のてっぺんまで包まれて、は悟の胸にコテンと頭を預けてしまった。あれは可愛いと思う。予想通り悟が口を一文字にしたのが見えた。照れてる照れてる。
「ねー、また意地悪?」
「ちげーし。二人とも、なんでこうなったのか説明しろ」
硝子は肩で笑ったまま、黙ってビールを見せつける。
「夏油、教えてやれ」
「えー…。悟、怒りそうだからなぁ」
「ビビりか。夏油がコンビニで圧出したら買えたんだって。任務帰りに」
「それって制服じゃん。何で買えたの」
「…コスプレって言ったんだよ」
「うわ…」
おねむになってきてるは、悟の胸に縋り付いて、すりすり頭を擦り付け始めた。なに、と悟が戸惑ってる。
けど悟はやっぱり、その手があったか、とか言ってくれないんだな。なんだかんだお坊ちゃんだなぁ、と感じる。私も硝子も煙草吸って酒飲んで結構適当だ。楽しけりゃいいじゃん、ってところは、悟が一番強いように見えて、ゆるゆるなのは私たちな気がする。は何も考えてない流されがちな少女に見える。勿論酒も飲んだことのない。悟はどうなんだろうか、飲んだことあるのかな。
「ごじょー、後ろ転がって」
は、と困惑しながらも、素直に言う通りにする悟、マジでに弱すぎる。もし明日にでも任務でが死んだらどうするんだ。そんなに気になっているのに、どうして一日でも早くモノにしたいと思わないんだ。私と悟は感覚が大分異なっている。
「すやぁ……」
はそのまま、悟の上に折り重なり目を瞑ってしまった。可哀相に、悟。私は飲みかけの缶を持って悟の頭上に移動し、座りなおす。
「が起きちゃうだろうね、暴れない方が賢明だろう?」
「おい、バカ、やめろ、傑。さすがの俺も咽る」
「期待してるよ」
うまく飲めるように加減しながら、悟の口にそれを注いでいく。悟の部屋にしておいてよかった。床が汚れるのが人並に嫌なのか、酒に濡れたくないのか、を離したくないのか、酒に興味があるのか。分からないが、悟は喉を動かして、素直に酒を飲み込んでいる。無限は張られない。…おや、弱いのかな。何回か繰り返すうちに、悟の顔はみるみるうちに赤くなってきて、目もとろんとし始めていた。
半分程飲ませると、にやにや隣で覗き込んでいた硝子が、新しい缶のプルタブを引いて私に差し出してきたけど、これ全部飲ませてそれまでイケと?これ以上イク?やばくないか?
「…大丈夫?悟」
「…ん゛あ~?……なんでが俺の上にいんだっけ」
「好きにしてって抱きついたんだよ」
「え、まじ?やば。やわらかすぎてヤバイんだけどどうしたらいい?脚が股間当たってて勃ちそう」
「ヤっちゃえば?」
「え、ヤっていい?」まさかの即レスが返って来た。「どっち」
「冗談だよ。合意がないだろ。あとでもっと嫌われても知らないよ」
「そっかぁ…」
を抱き締めた悟は、けれど何も悪戯を始めなかった。ぎゅうっと大切そうに抱き締めるだけで終わっている。素直ちゃんなのか? もし私が悟の立場で好きな子とそんな状況になっていたら迷わずヤる。間違いなくヤる。ヤらない選択肢がないだろう。
…素直ちゃんといえど、いや、素直ちゃんだからと言うべきなのか。横に転がって彼女の頭に顔突っ込んですんすんし始めた悟はちょっと気持ち悪い。悟は時たま、猫かな、というほど体が柔らかいところがあるから、でかい足をちゃっかりの腰に回して絡み付いているし、…おや、くびれもなかなか……。
「俺とちゅーしたい。ねぇ傑。ちゅーくらいならよくない?いいよね?」
「…好きにしなよ」
「やった。。うえ向いて。めあけて」
「んーー…ねむい…」
「だぁめ」
うわ。手で口を抑えて硝子と顔を見合ってしまった。初キスじゃない?いや知らないけどさ。「っん、はぅ、ん、ぁ」の鼻にかかった声が聞こえて来て、つい。見てしてしまった。…ベロチュー…。
なんだ、安心したよ。悟もしっかり男だったんだね。あんまりにも素直じゃないから、その一般的じゃない見た目よろしく性欲すら本命には沸かないのか、なんてちゃんちゃらおかしいところまで邪推してたよごめんね悟。邪魔者は退散しよう。
「、すきだよ」
「んっ、やぁ、五条、きらい、」
「好きって言って」
「すき」
「悟って呼んで」
「やだ」
「悟って言って」
「さとる」
「悟好き、は?」
「さとるすきー」
「あはははは」
背後にアホなやり取りを聞きながら、私と硝子はしっかりコンビニ袋を回収し部屋を出る。ガチャリと扉を閉めた。もうあとは好きに、よろしくしておくれ。現実的には、あれは五分と持たずに寝るだろうけど。明日の朝どうなってるんだろうか。記憶の有無、状況の誤解、何が起きるのやら。私、何かの間違いで殺されないといいけど…。
さ、自分の部屋で飲みなおそう。唐揚げやらなんやらつまみばっかり入っている悟が買ってきてくれた袋と、まだ何本か酒が入っている袋の中身を、程よく硝子と分け合いながら、私は決意を口にする。ひっつき虫になるも、素直な悟も気味が悪いし、起きて記憶があったら両方にボコられるだろうから。はいいけど、悟のマジギレは面倒だ。もしかしたら感謝されるかは分からないけど、触らぬ神に祟りなしってやつだろう。
「もう二人に酒を飲ませるのはやめよう」
「には明日私からキツく言っとく」
「そうしてくれ」
けど硝子、今飲んでるのさっき開けた缶と違うやつじゃないか、それ。ザル?
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