五条に流される
「ふかふか…ベッド…最高……休息…」
「うん。休んでて。何か欲しいものある?買ってくる」
「…バーゲンダッツと、ヤヨイヅカのケーキ……」
「オッケー。他には?」
「えぇ……」
「何でもいいよ。食べるものじゃなくても。欲しいものとかないの?」
「どうしたの五条…」
「普通にお詫びだけど。真面目に女のコ窒息寸前にさせるとかだめでしょ」
「…女の子…??でも、じゃあ、マンションほしい…」
「言うねえも。マンション一棟買ってくればいい?」
「い、っとう…?ひとへやでいいよ…?」
「じゃこの部屋あげる。僕も帰ってくるけど。とりま休んでな」
「えっ……?冗談だからね……?」
*
んー…ふっかふか、これ以上ない寝心地。いい夢。こんなベッド存在するんだ、どこの高級ホテルかなあ。…ん、…んん?…んんん、なんかめっちゃ五条の匂いする!現実!?
確か、高専の自販機のところで五条に滅茶苦茶なセクハラされて、酸欠で具合悪くなって、
「~~っここどこ!!!?」
医務室じゃない!
どうにかふっかふかのベッドから起き上がって、センスの良すぎる寝室に追い立てられるようにドアを開けたらこれまたセンスが良すぎるが何もかも高価そうで歩くのが怖い廊下を抜けたらこれまたセンスが良すぎて息してるのが怖い美味しそうなご飯の匂いが漂っているリビングにたどり着いた。良かった五条いた!!助けて!!
「五条!!どこ!ここ!」
「おはよ。はい。この部屋の登記簿謄本ね、名義にしたよ。もうのもの」
五条がなんか怖い紙をひらひらさせている。察するに。
「五条、ご、五条のうち?」
「そ。もうオマエのもんだけど」
「……おかねもち…」
「いまさら?」
そわそわ周りを見回すと、ってやば、凄い夜景。タワマンだ多分絶対。って私どれだけ寝てたの!?任務行かなきゃ!?
「今何時、や、あの、な、なに、五条?」近いんだけど!や、怖いその紙いらない!
「任務は僕がやっといたから安心してよ。ほら、座ってて。丁度さっき作り終わったんだよね。お腹空いたでしょ?ご飯にしようよ。ケーキは後でね」
五条は私をソファに座らせてから、鼻歌なんか歌ってキッチンの方へ行ってしまい、カチャカチャやり始めた。殺人的に美味しそうな匂いを漂わせているご飯、美味しそう、食べたい、けど、おかしくない?おかしい。おかしくない?おかしい!
五条とディープキスしてしまった記憶は多分存在しているものなのかもしれない。…じゃあ、何回か、夢に見てしまったことのある、あれは? …毎回、同じの。真っ白い部屋で、まだ学生同士の私と五条が、……やめよう。
ダメだ怖くなってきた。逃げよ。ご飯もケーキも凄く食べたいけど、こんなタワマンの怖い紙渡されて正気でいられるほどお金持ってない。多分五条はローンどころか一括でこの部屋買ってるだろうけどワケ分かんない。見渡すどこもかしこも、女性の気配はなくて、割と五条が大切にしているだろうモノが目につくから、多分、彼にとってはかなり大事にしてる方の家だろう。
「夜景、凄い綺麗だね。いい部屋だと思う。それじゃあまた明日高専で」
怖すぎる紙をテーブルの上に置いて、玄関だろう方へ、そそくさ歩き出したらバッチリ阻まれた。
「帰んないでよ。学生んときこの部屋で映画見てあんなことやこんなことした仲でしょ?」
「存在しない記憶を構築するな」
「バレた」
ただでさえ混乱しているんだからやめてほしい。とにかく座ってて、と背中を押されソファに戻されてしまった。
分かった。分かった。もういいよ。どーーーせ何をどうしたって解放してもらえないだろうから潔く諦める。
*
あれから私は、いつも通り泣くほどおいしい五条の手料理を振る舞われ、箱いっぱいのヤヨイヅカのケーキまで餌付けされ、お風呂入ってきなよ、と脱衣所に押し込まれ、出て来てからはバーゲンダッツを手に持たされて、五条がお風呂に入っているのをぼーっと待っている。ぶかぶかの五条のTシャツを着て。普段から上着、ゆったりめのが好きみたいだけど、めちゃめちゃ巨人サイズ。余裕のワンピースだ。
……何で私は大人しく、五条が上がって来るのを待ってるんだろう。…逃げられないからだよ。そうだった。逃げようとするのは労力の無駄なことを私は既に学習していた。えらい。
まあなんでもいいや、この期間限定のバーゲンダッツ凄く食べたかったんだよね。
ぺりり、と開けて、少し溶けすぎちゃっていたけど、おいしーって幸せにつまんでいく。
しばらくそうしていて、うとうとし始めた頃、五条が上がって来た。「お待たせ」近寄って来たから一口あげた。二口あげた。三口あげて、自分も食べて、カップが空になっていった。
「じゃ、ベッド行こ」
「私このソファで寝れるよ?」
「よくそういう発想になんね」
そう言う五条は私を横抱きにして、恐ろしい廊下を歩いていく。こちらの方が気楽かもしれない。さすがの五条も、自分が勝手に抱えた私が何かを壊したり傷付けてしまったとしても逆切れしないだろうとは信じたい。っていうか、やばい。
「五条にもお姫様抱っこって概念あったんだね…」
「僕を何だと思ってんの?今日これ二回目だからね?」
「米俵担ぐように人を運ぶ人だと思ってた」
「まー基本そう」
寝室の前のドアで立ち止まられたから、ドアノブを回すと、五条が足癖悪く扉を開けて、私はそっとベッドに降ろされた。凄い!!投げ飛ばされなかった!!凄い!!五条も成長してるんだね…! 私、学生の時、五条にヘルプ出した時だったかなあ、なんか、とにかくベッドに投げ飛ばされたことがあるの、鮮明に覚えてる。
照明が落とされたから、素直に寝転がる。五条と眠るのは初めてってわけでもない。ホテルみたいな素晴らしい寝室、間接照明が眠気を誘ってくる。凄いよく眠れそう。とりあえず五条が隣にいる以上死ぬ心配も無いし。
「明日何時に起こせばいい?」
「いやお前、僕のこと起こせないと思うよ」
「え、…私だって結構早くから起きてるよ、普段」
「そうじゃなくてさ」
柔らかなベッドが沈んだと思ったら、五条が私の上に跨っていた。
「今から僕に愛されて足腰立たなくなるから無理って意味」
「え?え、愛され、愛、アイス?」
「セックスね?頭大丈夫?」
「だって待って。五条、私で興奮できるの?」
「な…なんだってーー!!みたいな顔すんのマジでやめてくんない?ブスとは言ったことあるけど嫌いとは言ったことないと思うよ。ブスとも思ってねーし勃ちしかしねーよ」
「えっ嫌いって言われたことあると思うよ。なんでもいいけど、ホントに男の人って穴があれば何でもいいんだね。知らなかった」
「何余裕ぶっこいてんの。そんな男にお前今から滅茶苦茶あんあん言わせられんだよ?分かってんの?」
「やめよう?五条、セクハラにも限度ってものがあると思う」
「本気」
「私のこと嫌いだよね?五条?どうしたの?」
「裏返しだって気付けよ」
「えっそれ嫌いじゃない?安心して、嫌がらせで好きって言われたこともあるから」
「…ふーん、へえー。大層ご都合主義な脳味噌してんだね~???ちゃん」
「ごめんなさい。でも、あのね、五条。引かないでね、私この年にもなってあれだけど、その、処女、だから。本気でやめて欲しい。恋人出来たことないの。そこまで魅力がない女を抱くって五条の株が下がるだけだと思う。悪食すぎて大変だと思う。もう出家するかシスターになるかでもしようくらいの覚悟だから、やめて欲しい」
「まぁ尼さんならアレだけど、お前修道女にはなれないよ。……やっぱ覚えてないよな。白い領域」
白い領域。覚えてない。修道女にはなれない。修道女、シスターは、処女が望ましいとされる。この会話の流れからして、…いやいやいや。いや、いや。え…。
「……待って、五条。詳しく聞かせて、それ」
「覚えてんの?」
分かんない、と呟いても、未だ私にのしかかっている五条は表情を変えず、飄々とした風に私を眺めている。少なくともこれからセックスしようとする人の顔には思えない。大丈夫な気がする。とにかく今は白い部屋の謎を解きたい。ヤバい気がする。
「まあいいけど。…僕たちさ、学生時代、ヘンテコ領域に閉じ込められて、セックスして出たんだよ。呪いのアレで、お前覚えてなかったってオチ」
ま、……。
「…え?」
「セックスしないと出れない領域だったわけ」
「……え、わた、私、今、処女だよ。処女だよね?」
「残念。お前の処女奪ったの俺。ココに聞けば分かるよ。こっちは僕のこと覚えてるんじゃない?」
「ひっ」
なんか変態みたいなこと言ってる五条にお腹を触られて身の毛がよだった。だって変態みたいなこと言ってる。
「ゆ、夢じゃなかったの、あれ、」
「え、覚えてんの?」
「~~っおぼえて、ない。けど…。なんか、夢に見たことは、…」
「やば、。性欲持て余してんじゃん、そんなエッチな夢みたの。いやまあ、僕とが制服で、真っ白い空間にあった謎の真っ白いベッドでヤってたら存在する記憶だよ。現実。白いベッドに破瓜の赤、映えてたな~あれほんと写真撮りたかった」
理解が追いつかない。けど、五条が言ってることは本当だ。夢の内容まるっきりそれだ。五条も、本気と書いてマジと読む顔をしてる。嘘でしょ。
「………うそでしょ?」
「ホント」
「やだ納得できない。処女って気持ちでするから。処女だと思ってシて」
五条が喉仏を動かすのが見えた。
「…シて、いいわけ」
「やだけど、証明しないと気になって来た。あれが本当なら、まあ、五条下手じゃないだろうし。あっ、でも爪切ってくれた?」
「やだってお前ねえ……」
五条がハーと吐いた溜息が降って来る。
「…爪はごめんって。あれから気を付けてる」
……あれから、って、いつから?…やっぱり本当に抱かれたことあるのかな。…嘘でしょ、嘘だと思いたい。
念のため、肩口につかれている五条の手を触ってみたけど、つるりとした爪はよくやすられていて角もなく、ささくれの感触一つしなかった。
「ほんとだ。痛くなさそう」
五条の指を触っていた私の手に彼の指が絡められた。恋人繋ぎに重ねられた手をシーツに押し当てられて吃驚してしまう。なんか急にそれっぽい雰囲気になってきた気がする。五条どうしたの、ホントにどうしたの?
「…ねえ。イヤって言ってもやめないけど、いいの。なるべく優しくは、するけど」
そんな、五条がなんか私を慮るようなことを言ってる。やっぱり今が幻覚?…でも五条最強だし、現実な気がする。全部現実かもしれないなら、もう、なんていうか、あれだよ。
「…こんな解明頼めるの五条しかいないよ。これから恋人作るにしても、本当に処女だったら、やばいかもと思うし。シスターになれない疑惑があるなら、まあ、諦める。それで他の人にあげるくらいなら、まあ五条の方が、うん」
「滅茶苦茶腹立つんだけど。何その言い草。他の女みんなアレだよ?泣いて喜んで僕に抱かれんだよ?」
「分かったから早くどっちかにしてよ。この体勢恥ずかしくなってきた…」
「抱く。目閉じて。口開けて。僕のことだけ考えてて」
言われた通り目を閉じると、ゆっくりと唇を押し当てられる。唇を食まれて、ぬるりと五条の舌が口の中に触れていく。甘い。甘すぎる。こんな歯の浮くような台詞言うタイプだった? …まあでも、ベッドの中では甘かったような気も、…死ぬほど意地悪だった気もする。…私本当に、知ってる?
五条とのキスは気持ちいい。このまま任せてみたら、どうなっちゃうんだろう、って考えたことがあるくらいには。舌をねっとり絡められて、粘膜が触れ合う感覚に、されるがままになってしまう。恥ずかしさも相まって、じわ、と薄く涙が滲んでくる感覚がした。
「っん、はぁ、…五条」
「こういう時は、名前で呼ぶもんでしょ」
…やっぱり、知ってるかもしれない。
さとる、と彼の名前を呼ぶと、私を見つめている、きらきらの青い眼の瞳孔をひらかせて、彼が笑った。また唇に噛み付かれる。黒目がちの五条はちょっと可愛い。けれど視界いっぱいの彼の瞳に、直ぐに恥ずかしくなってきて目を閉じる。彼の睫毛と、私の睫毛が触れ合った。その間にも五条の手は色んなところを優しく撫でていくから、素肌を手が滑っていくのに、少しずつそういう気分になってきてしまうし。いつ笑われるのかと思ってたけど、なんか五条がこれまでになく、そういう雰囲気だから、ホントにするのかもしれない。吐き出される吐息が熱くて、いやらしくて、ちょっと色気が凄すぎて抗えそうにもない。優しくて戸惑いは感じる、けど。
五条、顔はとびきりいいし。この手つきで抱いてくれるなら、…ちょっと、抱かれてみたい。私だって、男の人に興味が無いっていうのは嘘になってしまうのだ。そのためには、百戦錬磨だろう五条は、これ以上ない相手だろう。五条にとっては絶対遊びだろうってところも、身構えなくて済んで有難い。だから、まあいいや。いつもみたいに、五条の好きにして。
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