五条に禁欲される

 それは早朝。休みなのに、いつもの癖で早く起きてしまった私と、今日も今日とて忙しそうな五条が着替え終え、二人玄関へ向かう所だった。

。今日から僕、禁欲するから」
「え、……なんの?」
「え?性欲以外にある?」

 いつもなら、今日の任務は何県で、どのへんで、あーらしい、こーらしい、昨日傑がさぁ、恵が野薔薇が悠仁が、おじいちゃんたちはお耳遠すぎて大変、だのなんの、と、話しているところなのに。
 何か凄いこと言われた気がする。凄い、凄いどうでもいいこと。甘いもの控えるから協力して、とかなら、分かる。今日もお弁当に動物園ゼリー入れたし。けど。…性欲。…凄い、凄いどうでもいい。

「そう…。どうでもいいかな…。なんでわざわざ宣言したの…」
「分かんない?」

 玄関を降りる前、くるりと向き直った五条がズボンのホックをあけてファスナーを下ろし、え、え、ちょ、ズボンを下ろされた。「じゃじゃーん」………え、えぇ…。パンツ履いてないの……?何その、パンツ…?じゃないけど…。
 モロなソコには、何か、金属がしましまで、なに、ねぇ、待って、思考を放棄したい。朝からこんなもの見せられる私の気持ち。

「これ。お前が持ってて」

 手渡されたのは、小さな鍵。鍵穴は、五条のソコの根元のところにある。

「ね。これ凄いでしょ。勃起もできないようになってんの」
「い、いらない情報、だし、いらないよ、この鍵も。どうしたの五条…?」
「お前がしたくなったら開けて。そのあとまた閉めて♥僕の射精管理って、こ・と♥」
「ちょっと何言ってるか分かんないかな」
「どうやったら僕が一筋って伝わるかって思ってさ、これでも良いの選んだんだよ?」

 意味が分からない。ズボンをまた履いた五条が、いつもよりちょっと膨らんだ股間で手を振る。待って待って。待って。

「じゃ、僕任務行ってくるから」
「待って。待って?その下半身で行くの!?」
「ヘーキヘーキ、僕今日呪霊と伊地知にしか会わないから」

 い、い、伊地知……。可哀相に……。
 五条が「行ってくんね」といつもみたいに私の口に唇を引っ付けて、お弁当の風呂敷包みをしっかり持って玄関を出て行った。

 私は呆然としたままスマホを手に取り、グルチャのアルバムを開く。あったあった、今月の各人の予定の写真。傑は、……休みだ。よし。これは決まりだ。もう少ししたら、傑を、呼ぼう。この鍵を押し付けよう。



「悟の家久しぶりだなぁ、お邪魔するよ」

 呪霊で来た、という傑を出迎えて適当に寛いでもらい、私はお茶と一緒に鍵を出す。

「傑。この鍵、受け取って」

 ポク、ポク、ポク、チーン。とでもいう様に、傑は湯飲みからお茶を啜りながら目を閉じ考え閃いたのか、大きく頷いて目を開けた。キメ顔だ。悟ったのか?

「――分かった。悟の貞操帯の鍵だろ?が持っていなよ」
「なんで?なんで。なんでわかったの?怖いんだけど」
「そういえばアドバイスしたなぁ、ってことを思い出して」
「何をどういうアドバイスしたらああなるの?大丈夫?頭おかしい?」
「私が真面目にそんなことを言うと思う?少し冗談を言ったら悟が真に受けたに決まってるだろ?」
「でも傑、楽しんでるよね?絶対楽しんでるよね?」
「いやいやまさか。で、どうだった?」
「どうだったじゃないよ。朝からあんなもの見せられた私の気持ちわかる?」

 あっほらほらこういうやつ。ひどいでしょ、ってゲーゲル画像検索スマホ画面を傑に見せつける。傑がほーと感心しながら鼻で笑った。器用だ。

「ウケるね、これ結構キツそうだ。多分勃てられないんじゃないかな」
「そうそう、そんなこと言ってた。コレつけたまま任務行っちゃってさあ…。伊地知被害にあうんだって」
「伊地知不憫すぎる。あいつ本当、なんていうのかな…」

 可哀相……。

「けどさ、今って、日頃の仕返しのチャンスなんじゃないかと、私は思うんだけど」
「……聞きましょう」
「普段、悟は、で勃つんだよね」
「た、……まあ、そうみたいだけど。性欲が強すぎるんでしょ」
「何でもいいけどさ。それなら、誘惑、してみなよ」
「……勃つかな?」
「絶対勃つよ。男は思ってるより誰でもイケるもんだから、そのあたりは安心して。――けど悟、今は勃てられないだろう?要は、悟はのことを襲えないわけだ。鍵をが持っているんだからね。…今って、仕返し、できるんじゃない?」

 えっ……夏油様。
 いやらしい顔。傑って意地悪だよね、発想が。非道だよね、発想が。でも相談して良かった。その発想はなかった。もう、ほんとに、

「…傑は天才なの?」
は今日お休み。悟はいつも通り任務でいっぱいだけど、今日帰って来るんでしょ?これはもう定番のアレしかないよ。ご飯にする、お風呂にする…」
「それとも、私……?」
「そういうこと。さ、このまま私と出かけないか?悟の好きそうなエプロン見繕ってあげるよ。何がいいたいかと言うと暇なんだ」
「行く行く!お昼ご飯お蕎麦屋さん連れてって!」
「了解」



ー、ただいま。帰ったよ」

 五条の声に、リビングの扉からそーっと顔を出すと、丁度五条がアイマスクを取ったところだった。目が合う。「…ごじょう」

「ん、……んん?」

 ええい女は度胸だ。今日こそなんかよく分かんないけど仕返しをしてやる。傑が仕返しになるって言ってるんだからこれは仕返しになるはずなんである。例えブスと罵られようがビッチ痴女と罵倒されようがいつものことだから、もう傷つくものか。言ってやる。言ってやる。語尾にハートまでつける勢いで完璧に決めてやる!さぞ男に生まれたことを後悔したらいい。男は視覚情報と下半身で生きてるから、って傑が言っていたのできっと大丈夫。私は廊下を大股で歩いて行って、玄関で靴も脱がずに私を凝視したまま無言でいる五条に口を開く。

「おかえり!ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?♥」

 言い切ってやった。いざ着てみるとかなり恥ずかしいし、傑が帰って数時間一人ぼっちになった時間、私は何をしているんだろうと冷静になりかけた時間もあったが、言い切ってやった。素肌の上に、傑が選んだベッタベタでベッタベタの真っ白なエプロンを着て、言い切ってやった。
 こんな装備で大丈夫か?大丈夫だ、問題ない。感想よろしくって傑が言ってたけど、感想、感想? 五条は停止したまま私を凝視している。

「おまえ」

 呼ばれて普通に、はい、って返事しようとした返事は声に出なかった。えっもしかしてマジレスなのかな、無表情こわ、って思いながら、浮遊感に舌を噛みそうになって黙ったのだ。

 ぽすん、といつものベッドに体を受け止められ、起き上がろうにも五条が重くて起き上がれない。あ゛ーと呻いている五条に抱き締められ、キスをされ、舌を弄ばれて困っている。相変わらず上手いなやめてよ何が禁欲だよ。呪霊に女の香水の匂いがついててたまるか。着替えてよその服、一日着てたんでしょ普通に汚いし本当にその股間は封印されてるの? 五条の舌を精一杯押し返して口を離してもらう。

「っはぁ、は、まず着替え、お風呂でしょ、五条、」
「お前が聞いたんだよ。飯か風呂かお前って。お前だよ」
「冗談に決まってるじゃん。五条だって傑に言われて下半身悪ノリしたんでしょ?私もしただけ。ちょっと恥ずかしかったけど」
「は?性格悪くない?俺は全部本気なんだけど?」
「え、頭やばくない…?」
「鍵、出して。早く僕のチンコ解放して」
「え、やだ…」
「何で。このままじゃ満足させてあげらんないよ?エッロい奥さん」
「奥さんじゃない…」
「新婚プレイしない選択肢ある?ていうか僕たちホントに新婚になろうよ。明日役所行こ」
「やばい…。五条、あのね、私傑に感想を求められてるんだけどなんて言ったらいい?五条の頭がおかしかったって?」
「最高」
「え、あ、うん…最強?」
「うん」

 バキョ。下の方で凄い音がした。脚に、芯を持った微妙にカタいモノが当たる。いつもの感触。…本当に封印はされていたらしい。でも、ねぇ、禁欲するって言ったじゃん。24時間もしてないよ。もうちょっと耐えようよ。無限で破壊するなんて反則だよ。そんな発想なかったんだけど。嘘でしょ?無限、無限って。ひどくない?ほんとに下半身で生きてるの?男性ってそんなにひどいの?ひどくない?私を見下ろしている五条の、一見穏やかな微笑みが怖すぎる。

「あの、その」
「うん」
「ごめんなさい。許してください。調子に乗りました」
「ごめんね、僕、最強だから」

 死んだ。