妙な影分身しちゃった伏黒
『さん今どこにいますか』『共有スペースで一人ぼっちお昼食べ終わったところ』『今一人ですか?周り、他に誰もいませんか』『いないけど、どうしたの?』ニャインの返事がきた瞬間に部屋を出て、忍びまくりながら超特急で共有スペースへ走る。近くに居て良かった、ラッキーだ。「どこ行くの?」「いいからついて来い!」幸いにも周りに誰の呪力も感じない。このまま着け…!祈りながら走り抜け、見えたさん、助けてください、と泣きつこうとしたら、ずっと後ろを走って来てた五条先生(仮)に抜かれてしまった。性格まで本人に似なくていいんだよ!
「~!」
向こうで五条先生(仮)がさんに飛びつこうとしたのを見て、俺は咄嗟に壁にひっついて隠れた。どうしよう。せめて耳をそばだてて状況把握に努める。
「ご、…誰?」
「僕だよ♥何言ってんの」
「違う。五条じゃない。…恵、出ておいで、どうしたの、これ」
「…なんで分かるんですか」
「え、カン?」
追いついていたが、なんとなく隠れていたのも当てられてしまった。そろりと出て行ってみると、…さんは片手に呪力を込めて、五条先生(仮)のハグを止めていた。…つよ。大男を女性が片腕で止めるって、…結構凄い絵面なんだな。…本物の五条先生ならありえないし。
「それで、どうしたの、恵。こんなに悪趣味な式紙、あったの……?」
「違います。…朝、起きたら、枕元に巻物があって。読んだんです。…そしたらその、五条先生みたいのが、ポンって、出来上がって……」
「巻物?」
思わず歯切れが悪くなる。「俺にも何がなんだか…」うーん、とさんが俺と五条先生(仮)を見比べ首を捻る。「しまえないんだよね?」「しまえません。俺の命令も聞いてくれませんし」「困ったねー…」さんと顔を見合う。さんの何とも言えない表情。やっぱり先生のところに行くしかないか。嫌だな絶対何か言われる。めんどくせえ。
「「なあ誰かいるーーっ!?あっ五条先生!先生!伏黒!俺、俺どうしよう、助けて、」」
「い、虎杖?が、二人」
「……こっちが悠くんね、こっちが仁くんで。仁くんは今日もう話さないでお口チャックしててね。悠くん、何がどうしたのか説明して」
「仁の方ちょっと雑じゃない!?なんかさ、朝起きたら枕ん横に巻物あったんよ、、見たらこうなった!」
「…よし、私にはどうしようもないことが分かったから、五条のとこ行こ」
「え五条先生、そこに」
「やっほー、悠仁」
のんびり挨拶なんかしてやがる五条先生(仮)にいらっときつつ、虎杖に説明する。さんは五条先生(仮)を押さえたまま、片手でスマホをいじっていた。
「……実はかくかくしかじかで」
「「っえ~~~~~!?!?」」
「やめろ虎杖、今日はお前二人いるんだから暑苦しい」
「えー、これ先生じゃないん?俺ぜんっっっぜん分かんなかったわ。伏黒、才能あんね」うっっっざ。才能もクソもねぇよ。巻物の被害に遭っただけだっつーの。
「あ、二人とも、やっぱり先に硝子のところに行こ、今暇?って聞いたら暇だって。それにしてもビックリした、悠仁くんは二人いてもいいけど、五条二人になったらどうしようかと思った」
虎杖二人と、俺と五条先生(仮)が、笑うさんの背中を追う。廊下を歩いていくが、本当は3人のはずなのに、なんだろう、この人数。…俺と虎杖がなったっつーことは、…釘崎も巻物の被害に遭ってないか、ちょっと心配になってきた。アイツの藁人形が二体になったら。考えると背筋が冷える。純粋に絶対やばいやつ。「てか釘崎もなってたりすんのかな?」「俺もそれ考えてた。アイツの術式増えたらちょっと怖くね?」「わかる」ちらりとさんが俺たちを振り向いた。…これロクなこと考えてない顔だな。
ねえねえ傑来たから、ちょっと脅かしてみよ、シーッとさんが俺たちに囁いて、傑のとこ行って来て?と五条先生(仮)に小首を傾げる。多分これがあざといってやつだな。俺が犬によく感じる感情。五条先生(仮)は…、…性格をコピーしているのか、どうなんだろうか、特に何の反応も示さず、素直に夏油先生の方まで大股で行ってしまった。……さんに命令されたら聞くのか?
「よ!傑」
「…誰だ、お前は」
「傑、俺のこと忘れちゃったの?涙出そ、しくしく…」
「ふざけるな。殺すぞ」
なんか物騒な言葉が耳に入って来るな、と思いつつ考えていたら、ビリッと体が強張った。夏油先生が呪力を上げていたんだ。さんが飛び出していく。
「ストップストップストーーーップ!!」
なんかこういうわけらしくて、とさんが説明すると、夏油先生が微妙な顔で俺を舐め回すように見るから、その視線に居心地が悪くて目を逸らした。…あれ、でも、夏油先生が見てるのは五条先生(仮)じゃ。
ん?
「…悟が二人になったらどうしようと思ったよ…。びっくりさせないでくれ」
「さんと同じこと言ってる…」
「じゃあ、とりあえず硝子のところ行ってくる。傑も巻物には気を付けてね」
「私はそんなヘマはしないけど、まあ、巻物があったら悟に届けるようにするよ」
ヘマって言われた。
*
「…五条、じゃ、ないな」
医務室前につくと、またもにやにやしたさんが五条先生(仮)のみを入室させたので、俺たちは皆、扉の隙間から様子をうかがっていた。が、五条先生(仮)を見抜いた家入さんが椅子のまま後退っていった。先には、緊急ボタン。「わー待ってください!」「はいはい、冗談だよ。早く入ってきな」虎杖が慌てて止めようと入って行ったのに続き、入室する。
すると五条先生(仮)はこちらへ戻って来て、さんに寄って行ってくっついてしまった。けど、やっぱ、これ…。
あ、おい、五条先生(仮)お前ふざけるな、さんの手、握ってんな。いやまあ昔よく繋いだけど。さんってこんな手、指、小さかったっけ。…いや五条先生(仮)の手がデカいだけか?変にぴったりくる。つかさん手を繋がれんのはいいんですか…。
「~~っていうか、なんで分かんの、みんな!?俺分かんなかった!」
「まぁ、同期で付き合いが無駄に長いからだろ。この五条、見た目は凄くそれっぽいが、何かこう、いつもよりマイルドな感じっていうのかな。こう、ほわほわ~みたいな」
「分かんねぇ~!!」それな。
「それで、私のところに来たってことは。解剖していいやつ?」
「どう、恵?いいんじゃない?」
「っいや、すみません、それが、その――」
感覚がところどころ繋がってるみたいなんですけど。言おうとした瞬間、ガラリと扉が開いた。「や。何みんな集まってんの?」……。
「……僕じゃん。知ってる?ドッペルゲンガーって本人が見ると、死ぬらしいよ」
「エッ」
「恵、この僕どうしたの。僕が好きなあまり作っちゃった?」
「ンなわけないでしょ」
「悠仁なんか本物が二人いるし」
「センセさすが、よく分かんね!さっきさんにも説明したんだけどさ、なんか朝起きたら枕元にあった巻物見たら、こうなった!」
「…俺もそのタイプです。枕元にあった巻物に目を通したら、隣でこの五条先生が、ポンって作られました。…式紙みたいに」
「式紙つーか、まあ、お前の呪力だね。その巻物は?」
「読んだら消滅しました」
「俺もそう!」
本物の五条先生がアイマスクから両眼を覗かせ、俺と虎杖を注意深く観察していく。その目を持って分からないことは無いだろう。早く治してくれ。ください。
「ん~~…ま、そのうち治んじゃない。害があるもんでもなさそうだし、楽しそうだから放置!」
「「うっそじゃ~~ん!!」」ほんとそれな。
「自分と組み手でもしてれば?」
先生、雑すぎる。「兜合わせもいいかも。好きな子サンドイッチは外せないよね」「???」「五条」さんが怖い声を発した。まだ五条先生(仮)に手を繋がれたままだが。
もう、カオスだ。色んな意味で、スン、とするしかない。
「伏黒、何その、大仏みてぇな顔…もしかしてさっきの専門用語知ってんの?」
「虎杖。お前はまだ純粋な心でいてくれ」
「わかんねぇ…呪術界さぁ、難しい専門用語ありすぎだろー!」
あぁーーもううーー!!と頭を掻き毟る虎杖に、向こうで家入さんが肩を震わせている。大体五条先生のせいだ。残念ながら俺は一通り知識は持ってる。小学生のころに無垢な心で検索した俺の心を先生は何度も壊した。本当に五条先生はそのへん禄でもない。教職についちゃ駄目な人間だと思う。
五条先生は反対向きに、ドカッとパイプ椅子に座り込みスマホをいじり始めた。家入さんはさっきからパソコン画面を睨んでいる。虎杖がスマホを手に取ったから阻止した、お前まで傷つく必要はない。さんは五条先生(仮)の顔に手を伸ばしていた。
「恵、ジェントル五条のアイマスク、とってもいい?」
さんに声をかけられ、俺が何か言う前に、ジェントル五条と呼ばれた五条先生(仮)は、さんにアイマスクをめくられていた。
「えっっっ、おめめ黒!~~っおもしろい…!!」
五条がまだ人っぽい~!!と喜んでいるさん、…多分その発言は先生を怒らせると思います。ほら、先生がスマホをポケットに入れたじゃないですか。腕を組んでパイプ椅子の背もたれに乗せたじゃないですか。顎まで乗せたじゃないですか。ふてくされちゃったじゃないですか。28歳児、頬をぷうっと膨らませても可愛くないんだよ。と言いたいところだが五条先生は童顔すぎる。もうこの話はやめよう。
「。何それで遊んでんの。話聞いてた?それ恵だって」
「分かってるよ。分かってるからこそ愛でてるの」
「恵じゃなくて僕愛でてよ。いつまで手だって繋いでんの。ここにいる本物と繋ごうね。ほら、こっち来てよ」
「え、やだ。恵の方が可愛いもんね~!」
さんが五条先生(仮)がご丁寧に下げた頭を撫で回した。学習したのか抱き着こうともしていないし、確かにジェントルかもしれない。まあ正直言って撫でられてる感覚は全くいつもと変わらないが、五条先生(本物)がキレそうだと思うんでやめてください。「まあ僕とイチャついてるは見てて悪くはないけどさぁ…それ僕じゃないんだって」って、やべ、五条先生(仮)逃がさないと、このままじゃ五条先生(本物)に吹っ飛ばされるんじゃ? 俺、重症を負うんじゃ? 逃げろ、五条先生(仮)、主の言うことが聞けないのか、頼む。いや呪力の供給を切ればいいんじゃ、どうやって、「っぐぇ、」やっぱり吹っ飛ばされた。本物の五条先生に五条先生(仮)が無限で吹っ飛ばされた。ひょろい。ひょろい、五条先生の見た目をしているものを見るのは、違和感がある。つかめっちゃ背中打ったなお前。痛え。思わずゴホゴホ咽せてしまった。
「……」
「もしかして伏黒、感覚あんの?実は俺も」
にやりとした大人、二名。やべぇ逃げろ!せめてここにいたのが七海さんだったら。家入さんの助けは望めそうにない。もつれる足を踏み出すも、手をわきわきさせた二人から逃げおおせるわけもなく。
倒れたままの五条先生(仮)はさんに圧し掛かられ、俺本人は五条先生に捕獲されてしまった。ヤバイ。って虎杖!一人で逃げようとしてんじゃねえ!「虎杖!一人で逃げんな!助けろ!」「「いつかのシカエシ」」はあ~!?
「くすぐりの刑」
「もふもふの刑ー!」
「アッー!」
「は僕にやれよ」
「え、こっちがいい」
「何で。がやめないと恵、くすぐり続けるよ、僕」
「…逃げようと思ったけど、たのしそうかも……」
「悠仁君もおいでよ。手が四本加わるのは凄いよ!」
「やめっろっ、いったどり、たすけ、あっはは、は、っひ、さ、さん、おっねがい、しま、す、」
「なんか伏黒……」
「エロいよねえ。恵は昔からくすぐりに弱くてね。呪術師としてそれでいいの?って感じ。ま、ってばテクニシャンだし、鬼畜だから。こうなっちゃっても仕方ないね」
鬼畜なのは、間違いなく、アンタだよ。ろくな抵抗も出来ず簡単に片腕で拘束されてしまった本体(俺)は、五条先生(本物)にくすぐり地獄を続けられている。もう小学生じゃないんですよ。マジでやめろ。やめてください、何でもするから、いやしない、何でもはしない、断じてしない。けど、マジで、やめ、つらい、もう、声も出ない、死ぬ、このままじゃ、死ぬ。「快感二倍はエゲツないだろうね~♥僕もその巻物欲し~な~。悠仁のタイプのがいい~」過呼吸が近い。死ぬ、家入さん、気付いてんでしょアンタ、助け、あ、過呼吸になっても家入さんがいるから死なないな。いや、そうじゃなくて、誰か、俺の味方は誰もいないのか、玉犬を出したい、俺のイッヌ、もふもふたち、俺を、助け、くっ、ご主人はもうダメかもしれない、すまん、くっ……、
「そろそろやめてあげて五条、恵もう死にそうだから、ほら、五条の頭も撫でてあげるから」
「あげるんじゃないでしょ。撫でさせてくださいだろ」
「撫でて欲しいなら恵から手を退けて、届かないので頭を下げてください。撫でたいからそうしてください」
五条先生の手がやっと離れて行って、俺は地面に崩れ落ちゼエゼエ呼吸を整える。虎杖が寄り添ってきたけど、お前、後で覚えてろよ。この恨み、俺は忘れないからな。マジで、くすぐられてる人間を、放っておくんじゃねえよ。
俺の視界の隅を先生のデカい足が横切って、椅子が軋む音がした。さんの靴が先生を追って行った。もう一つ、パンプスが目の前に。その人が差し出してくれた手を頼って起き上がる。「悪いけど、私にも分からない。感覚が共有されてるなら、メスを入れるわけにもいかないし」軽く絶望。マジで寝て待つしかないのか。家入さんはそれだけ俺たちに伝えると、さっさと席に戻って行ってしまった。
「あ~~サイコー。ぱふぱふが目の前に」
「は?」
「ん~♥やわらか♥」
「ギャッ、顔埋めないで、ちょっと、気持ち悪い、」
家入さんは、あっちでイチャイチャしている二人を気にする素振りもなく、普段の業務に戻ったように見える。マジで寝て待つしかない可能性がある。嘘だろ。そういや虎杖、滅茶苦茶静かだな、と思って横目で見たら、二人を見ながら、いつもの顔で固まってた。いい加減慣れた方がいい。
「も~。今更そんなこと気にする仲じゃないでしょ?あんなこともそんなこともしてるんだから」
「やっぱり恵の五条の方が好きだなぁ…」
「三人でしないからな。中身は恵だよ分かってんの?」
「…五条、生徒の前。15歳」
「あは」
「あはじゃないよ。退場。ハウス。もうお部屋帰りなよ。ばいばいわんわん」
「わんわーん。飼い主も一緒に帰って欲しいわん」
「え、きもちわる…」
「さっき御三家グループニャインで聞いて早く治す方法教えてもらった僕に言う言葉?」
「…どうだって?」
「労わって。褒めて」
「すごいすごーい。えらいね~!」
「僕の飼い主は撫でてくんないの?スキンシップが足りないと拗ねちゃうよ。教えてあげないよ」
「さっきから撫でてるでしょ。それでどうだったの?」
「早く治るコツとしては、よく分かんないけど、ハチマキを巻くとよかったらしい」
「へぇ~」
なんで、ハチマキ…。よく分からないが、まあ、早く治るっていうならそうしよう。家入さんが無言で立ち上がり、それっぽいハチマキを手渡してくれた。スマホをバリバリ構えているのは何でですか。ていうか、どっちに付ければいいんですか。俺?五条先生(仮)?
「硝子、マジックある?ハチマキに、このマーク書いてみ」
「見たことないな。何の呪いのシンボルだろう。ちょっとくるくるしているし、呪力が増減したりするのかな?」
「さぁ。まぁ僕が見てるから」
「喜んで実験させてもらう。、私のスマホで撮影しててくれ」
隣でガクブルし始めた虎杖の緊張が俺にも移って来た。俺は最初の犠牲として虎杖を差し出す。「伏黒ひどくない!?」「さっきの仕返しだけど?」「はあ~!?!?あ、あ、アッー!!」凄い絶叫だけど、まあ、うん。大丈夫だろ、ほら、先生いるし。……大丈夫ですよね?
その時、バシン!と鼓膜がイカれるような凄い音で医務室のドアが開き、開、いや、へし曲がってやがる。ぐにゃりと曲がっている。
「ねぇ今日の私馬鹿力なんだけど!また扉壊しちゃった!ていうか見てくださいよ、私のおでこに変なシカク浮き上がってて消えないの!誰これ書いた人!?硝子さん助けてください!……って、皆いる、けど、五条先生、何で二人いるの…」
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