お小遣いもらった伏黒
昼時、高専内を移動しているとスマホが震えた。通知。入金のお知らせ。ほう?
ネットバンキングを開く。
うわっ。十万。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、……100,000円。
なんで?
先生からの送金だ。…そういやライン来てたかも。
開くと、拗ねてるスタンプ、お怒りスタンプ、落ち込んでるスタンプ、お、日付変わった、昨日――既読つけてよのスタンプの嵐。うるせえ。…それで通知オフにしたんだった、忘れてた。あ、これだな。さんが先生の肩に寄りかかって寝てる自撮りが送られてきている。なんか、……うまくいったのか?
…もしかしてラブレターが成功した?いや、もしそんなことになろうもんなら、先生は部屋の扉破ってでも俺を抱きしめ撫で回しに来ているハズ。よって違う。それなら報酬も先生基準では低すぎだ。
ハア、冷静かよ。大分五条先生のせいで大金に対する感覚は麻痺してきてやがる。使った事があるとは言ってない。結局人の金だし。
――で結局何なんだこの金。また気まぐれ五条先生か。仕方ない。どうせ考えてもしょうがないから考えることを止め送金画面を開く。
俺は自分の別銀行の口座、五条先生気まぐれお小遣い口座に全額を送金した。そっちの銀行のほうが利息がいいから。
また増えてしまった……。相変わらずゼロが飛び抜けて酷いことになってる。まあ今回は十万だし銀行の人に電話食らうこともないだろ。また15歳が十万円入れたわって噂になるかもしんねえけど…。百万のときよりマシだろ…。「あ。おーい恵ー」「ゲッ」この声は…「トウ先生…」
「恵。さっき見かけた悟の機嫌が良すぎて少々気持ち悪かったんだけど、何か知ってるかい?」やっぱりか。
「あー。さんと10ポイントくらい仲良くなったんだと思います、多分」
「へえ…」
夏油先生はにやにや顔で俺の顔面を舐め回すように見ながら距離を詰めて来た。この人は目つきがあまりよろしくない。夏油先生はいやらしい目つきという形容がしっくりくるタイプだ。あんまり居心地がよろしくない。
「…俺だって知りたいんすよ。うまく行ったっつっても、多分、心が通じ合ったわけじゃない」
「なんて良い表現をするんだ恵。いつの間にそんな言葉を覚えたんだい…!」
「今そういう話してないでしょ」
いつまでもガキ扱いしやがって。ぐりぐり頭を撫でられる。先生も夏油先生もさんもいつまで俺の頭を撫で回す気でいるんだろうか。もう俺はチビじゃないっつーの。
「悟と違って剛毛だなぁ」
「あんたに言われたくない。ほっといてください」
離してくれない。五条夏油先生たちは背が高すぎて頭を鷲掴まれている感覚に近い。ムリに逃げようとし、上から押さえつけられ背が縮みそうになったことがあるため今の俺はもう諦めている。気の済むまで好きなようにしやがれ。
「それで、なにがあったんだろうね。恵が十万円のお小遣いもらったってことは、まあ何かしらうまく行ったんだろうけど」
「…なんでバレてんすか、色々」
「おや、当たり?100ポイントなら百万なんじゃない?」
「…そうですけど」
「単純すぎるよ。なにか買うの?」
「買いません。買ったこともない。全額貯金してあります」
「えぇ。傑お兄さんちょっとびっくりだな…」
もうすぐおじさんだろ。
「今なにか失礼なことを考えなかったかい?」
「いえ。ほらあの人、五条先生気紛れじゃないスか。いつ返せって言われるかと思うと貯めとく以外の選択肢ないでしょ。…まあ金に関しては何一つ言われたことないですが」
恵いいいとウソ泣き出してしまった夏油先生が腕を広げて一瞬離れた隙に逃走をキメる。「あぁ!待って!」夏油先生はじめじめ鬱陶しい。五条先生のちゃらんぽらんドライと足して割ってくれ!どっちももっとだめになりそうではあるが!しかし!前方遥か彼方に「っご!」
「恵~~!!!」
じょうせんせい。声にならなかった。次の瞬間にはタックルをくらっていたようだからだ。今飛びましたね!? 凄まじい衝撃に勢いよく吹っ飛ぶ前に、身体に腕を回され捕獲されている。頬をすりすりされて鳥肌が止まらない。何でそんなすべすべなんですか、え、え?気持ち悪、
「と仲直りできた。恵のおかげ」
「喧嘩してましたっけ?!」
「そんなことはどうでもいい。僕とがうまく行ったって結論だけあればいい」
「えっ……うまく行ったんですか?」
「仲直りしてもっと仲良くなったという意味ではした。相変わらず僕と婚姻は結んでくれなかった」
「まず付き合ってなくないですか?」
「付き合ってるよ?僕の頭の中では」
「うわぁ……お花畑ヤッバ…」
「今度のデートそういうとこもいいね。貸し切るか?」
「……ちなみにいくらくらいなんですか」
「ん?知らないけど。一億ありゃ足りんじゃない?僕夢の国だって貸切できる男よ?」
ゼロ何個つくんだそれ。
スケールがちげえ。もう嫌だこの人。規格外すぎんだよ。白目剥きそうだ。色んな意味で。気持ち悪いからまずくっついてるのを止めて欲しいマジで。
「うわ何こんくらいで血の気引かせてんの。鍛錬が足りないね。今から鍛えてあげよう」
「愛の鞭いりません。今日は気疲れしたんでもう休みます離してください」
「愛の飴もらったんだから先生に付き合いなさい。実のところさ嬉しすぎてちょっと発散に困ってんだよね。さっき昼寝してたらさぁ部屋に来て、どうすんのかなって狸寝入り決めてたんだけど、なんと椅子に座って上向いて寝てる僕の肩にちいちゃい両手軽くかけて、頭に顔当ててきたんだよ。殺す気かと思ったね。もふって僕の髪に顔突っ込んでさ、すんすん匂いかいで額こすり付けてクスッて笑って帰ってった。もうどうしてやろうかって感じのことしか考えられない」
「それは普段通りでしょ」
「分かりやすく言おうか?のことを考えるだけで下の脳が爆発しそうになるんだよ」
「俺に言わないでください。今のはセクハラです」
「僕男に興味ないよ。どうしたの恵」
「いやあんたがどうしたんだよ。さんに言いつけますよ。いい加減離してくれませんか」
「メンゴメンゴ」
先生にやっと離してもらえたが、今日は厄日か?十万円と引き換えの所業なんだろうか。つか結局十万円は何だったんだ。――いや、そんなことはどうでもいい。早く離れるべきだ。ハァ、思わず疲れ切った溜息を吐いてしまいながら、俺はげっそりした気分で目の前の先生を避けて行こうとした。しかし、
「悟」
「傑~!」
「オェッ」
やだ吐かないでよ恵~なんて言いながら、五条先生と夏油先生が俺を真ん中に挟んで潰そうとしている。前に五条先生、後ろに夏油先生。俺をサンドして二人は、これは、抱き合っている?何だこの状況?つか圧迫ヤベ、死ぬ!これは、これっ!死ぬ!
「聞いてよ傑。が激シコでさぁ昨日僕に寄りかかってすーすー寝ちゃったわけ何あの無防備な寝顔信じらんなくない?顔面にぶっかけたすぎてどうなるかと思ったわ」
「良かったね。それでシたの?」
「喧嘩して仲直りしたばっかだったからやめといた。僕えらくね?えらすぎない?」
「普通すぎてヤバいね。セックス覚えたての猿かなんかか?マジで引く」
「は?表出ろよ」
「さみしんぼかい?十年経っても語彙が増えないな、悟」
「オマエの教育不足を棚に上げんな傑ーオッエ゛ー」
脂汗が噴き出し始める。頭の上で言い合いされてんの気持ち悪いな息がかかるマジでキモイと思いつつも動けそうになかったため大人しくギブって囚われていたワケだが、頭の上で睨み合ってんだろう夏油先生と五条先生は互いに応えるようにどんどん呪力を爆上げしていく。息をするのも憚られる。
え、俺マジで死ぬんでは?何故俺を挟んで喧嘩を?俺の存在覚えてます?マジでやめてくれません、ちょっと、
「も~悟ったら。開き直るんじゃない」
「あははははは!」
二人がパっと離れて行った。俺は呼吸ができることに有難みを感じながら、危うく膝から崩れ落ちそうになる。二人の呪力に指一つ動かせなかったのに、……つか、何、肩組んで、あははじゃねぇだろ。
息を整えながら顔を上げると、…………。なんかスゲー顔してんだけど。m9とか言う死語だったっけか。…つかマジで。そういうことだよな?…マジで。は?
何で本気で茶番をするんだこのクソ大人たちは?
俺本気でビビったんだけど。もうやだこの二人。もしかしなくとも、先生という役職の人間は頭がどっかおかしい? ――いや、夜蛾学長は今の所まともに見える、ような…。ちょっと趣味おかしいとこあるけど一人で完結してるからあれは平和だ。…けどバリバリの呪術師時々先生なさんはバッチリ変な所狂ってんだよな……。もしかしてあの人らの年代でまともなのは家入さんだけか。…いや、逆に考えろ。家入さんもどっかおかしいに違いない。頭のネジが三本ぐらい抜けていないと呪術師なんかやってらんねーからだ。よし、結論した。五条先生と同期の人たちは多分みんな頭がおかしい。
ガサッ、と紙袋を持たされた、五条先生の右手に。…持ってたらしい。全然気付かなかった。つか中身絶対滅茶苦茶じゃないですか?それもう。
「恵。土産。と食べな」
「あ、はい……」
プークス状態の五条先生、隣では夏油先生がさっきからずっと変顔を極めている。
…やっぱムカつくからさんにチクる。五条先生と夏油先生がおそらく俺を怖がらせるためだけに、いい大人二人が本気で呪力上げて喧嘩するぞと茶番しました。マジでクソ。お願いだからもう俺に絡むのやめてください。
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