惚気を聞かされる家入

 居酒屋、サシ飲み。仕事をした後の酒はいつ何時でもうまい。

「それでねー五条がねー」

 対面では『オシャレして行くところが無いからどうしてもしたかった』と無駄に気合入れて綺麗にして来たが上機嫌に唐揚げをつまんでいる。横には半分程になったフライドポテトの山があり、見ているだけで腹が膨らんでくるようだ。そのピックアップはどこぞの誰かを思い出すから止めてほしいんだが。

「恵と一緒に食べたんだけど、こないだあそこのお土産おいしくて…これこれ」

 ほう、と興味を持てば、見せられたのスマホの画面にはゼロがバグって表示されていた。そりゃおいしいだろう。相変わらず五条は五条だ。
 画面を私に見せ終わり、スマホを机上に戻したの首元に、ふと蒼い石が転がっているのが目につく。これまたどこぞの誰かを彷彿とさせた。

、ネックレス。何それ」
「え、うん。変?」
「変じゃないけど。五条?」
「うん。くれたの」

 こっちも、が耳に髪をかき上げて見せた耳元には、揃いのイヤリングが光っていた。キラキラと、反射するというより呑み込む様な色の青色に、金色も混じっている。

「ラピスラズリだってー」

 いくらすんだろという素朴な疑問と、特に気にもせずそれを身に纏っている彼女の正気を疑う。完全に五条ブルーじゃん。ゴジョブルー。ブルジョアジー。

「…似合ってるけど、思ったよりイカれてんな。五条の事嫌いなんじゃないの」
「うん」
「よく嫌いな男が贈って来たもの着けれるな。私なら躊躇なく売る」
「売ったら私のアクセサリー全部なくなる。何か知らないけどある日持ってたの全部捨てられてた。勿論ブチギレたんだけど、そしたらお詫び♥って宝石贈られて黙るしかなくなった感じ。他にも黄色いのとか、別の宝石らしい青いのとか、色々あるよ」
「やべえな」
「結構趣味がいいのと、普段使い出来る奴くれるからもういっかって思って。自分で買ってないから、無くしてもダメージ少なくて躊躇なく着けれるし」
「それは確かにある」

 こないだ通販で買ったのもまた捨てられてたんだよね。思い出したら腹立ってきた、とジョッキの中身を一気に摂取しているを眺めながら、私は枝豆をつまむ。
 本気で、やべえな以外の感想が無い。もっとやりようあっただろ。まあいっかって思っちゃうだ。「これ追加おねがいしまーす」は追加の酒を頼んでいる。

「それで五条がねー」

 いつからだったか、の話は生徒の話こそ混ざれど、五条五条五条五条五条になってしまった。お前は壊れたラジオか。こう言われた、ああ言われた、どうだったああだった、セクハラがうざい、手が大きい、指が長い、首が痛い、キスが上手い、

。最後の方はどうでもいいし知りたくない」
「ごめんごめん。それでね、こないだ五条がラブレターくれてね~」

 ダメだコイツ酔ってきてるな。「コピー取っちゃったーからかえるしーえへへへへへー」とだらしない顔で笑っているを見せてやりたいが、アイツはクズだから見せてやりたくない気持ちの方が勝つ。

「今度恋文くれるかも。あっちのほう。あのあれ、和歌。恵に」
「恵に」
「返歌考えるのー」

 えへへへへへと笑っているが、何で笑ってるんだ。本人も分かってないだろうな。追加で来た酒をハイペースで飲みながらが笑い続けている。

 は酒に強くない。素直を極め、最終的にはボディタッチが増えまくるヤバイ絡み酒に発展する。その効力は夏油にまで及んだ。絶対私ら以外の前で酒飲むなよって学生時代にキツく言い聞かせたのが功を成しているのか、今のところ七海も伊地知も五条に殺されないで済んでいるようだが。「しょーこしょーこー」と私に手を伸ばすを眺めてるのは悪くはない。相変わらず綺麗な顔の造りをしてる。混んでる居酒屋で席を立たないぐらいの理性はまだ残っているようで何よりだ。

「硝子だいすき」
「私もだよ」
「うっ好き…硝子イケメン…しょこめん…!!」

 が私の話題に移った。「最近どうなの?」なんて聞かれているが、枝豆の追加をしようか迷いながら最後の一つを口に放り込んだ私は、「まあまあかな」なんて返しながら、五条の話を蒸し返すことにした。
 どんくらいでがオチるか目星をつけたい。賭けてる金額はそれなりにでかいからな。

「五条ってさ、うまいの」
「え?うん?何が?」
「ナニに決まってんじゃん」
「えっ。っえ?え…」
「セッ「わあ」うまい?」

 付き合ってないは満場一致だな。夏油も私もセーフだ。五条とはアウトだが。
 は既に赤い頬を更に赤く染め上げて、バン、と手を机につき立ち上がった。これはアレだな、ヤってんな。大方、一回手出したら止まんなくなったってとこだろうか。

「……何で知ってんの!?」
「うまいんだ」
「っちが、いや、えっ、硝子も手出されたんじゃないの?」
「ねえよ。出されたのはだろ。で、どうなの。酒の肴にしたいんだけど」

 周りの客、男がチラチラチラチラ私たちを見ている。滅茶苦茶狙ってたんだろうな。あわよくば話かけて仲良くなってお持ち帰りしたかったって魂胆だろうが、おそらくのアクセサリーを見て諦めていた。確かにここまで強く存在を主張されると効果はあるようだ。
 まあこんなアクセサリーがあろうが何だろうが、おそらく果てには指輪があろうとも。ナンパからのお持ち帰りまで難なくやってのけるだろうクズを私は二人知っているが。そう、お前らモブに足りないのは度胸とそのクズ加減だ。…目の前に、クズにマーキングされてる哀れな私の親友はいる訳だが。

「……五条は。五条は。ほら、その。ほら。顔がいいでしょ?」
「つまりドヘタ」
「ちが、うまいよ!?さすがに良くなきゃ私だって何回も許さないよ!」

 周りの男が一斉に振り向いた。そりゃな、一生に一回くらいはこんな美人にうまいとか言われたいだろうな。完全に会話聞かれてるし目立ってるわ。シーッと口に指を立てる。

「声が大きい」
「~~っ!!」
「それにしても、何回もねえ…」

 が口をぱくぱくしたままへなへな椅子に座り込む。

「っ五条は!五条は、その。…五条にとってブスな私をわざわざそうするとか、おかしいでしょ。だから完全に遊びだって分かってるから、なんか、まあ、まあいっかって。別にそういうときに暴言吐かれるわけでもなかったし、…その……」
「上手いからいつも流されてると」
「……」
「そんなんだから彼氏の一人も出来ないんだよ」
「……う、う、うるさ…耳が痛い…」

 周りの男がまた私らを凝視している。唖然とした顔で。全員口が開いてて笑える。ちょっと面白い。は頬杖付いて言い訳を始めた。

「だってさぁ…タワマンの高層階、夜景綺麗すぎて吃驚してたら、食べたいものも欲しいものも何から何まで出てくるんだもん…全部用意してくれるの…期間限定数量限定地方限定から都内の幻のものまで何でも出てくるの…お風呂も大きいし…完全に金に物を言わされてる…五条は無限にポケットでも持ってるのかなぁ…?ごじょえもん…?」
「そうやって食べられちゃったと」
「…お前対象外って言われたことあるから安心しちゃうじゃん。それに考えてみてよ。あの顔だよ?かっこいいじゃん。悟、色気がやばいんだもん…無理だよあんなの逆らえない…」
「待て。悟?」
「あっ、や、ちがう。五条」
「悟?」
「五条!」
「悟」
「~~だっ、だって。こういうときは名前で呼ぶもんでしょ、って、その」

 わかるわかる。周りの男ども。察しの通り五条悟くんは彼女が大本命で十年単位でクソ一途に思い続けてるんだよ但し肉体関係の浮気はしている。うーん、さすがのクズ。
 にはもっといい男がいると言いきると同時に、五条よりのことを愛してる男もまたいないだろうと断言する。これ以上ないほど残念な気分だ。
 だが私としてはのDNAが断たれることの方が悔やまれるため、断腸の思いで提言する。

、五条家の話なしでさ。単純に五条と付き合ってみたと考えたら嫌なとこある?」
「ありえなすぎて想像できないシチュエーションが無理」
「金持ちで金使ってくれてずっとケツ追っかけてくる男」
「犬かよ。ごじょこう。わんわん」
「ぶっちゃけ今もそうじゃん」
「よっぽど本命に構ってもらえないんじゃない?よく女の人と会ってるみたいだし」
「知ってんの」
「まあ。香水臭いし。ご飯もそのついでに買ってきてくれてるんじゃないかなー」

 ボケて、レベルのボケを決めてる。大方、がいいなーとか好きとか食べたいとか言ってたもん任務帰りに並んだついでに女をホテルに持ち帰るとかそういうアレだろう。
 五条先生何も言葉で教えてくれないし後出しジャンケンひどいしアレ僕言ってなかったっけ?とか言ってくるんですけどアレ先生向いてませんよ何なのマジ腹立つって釘崎が激怒していたのを思い出した。

「それ逆だと思うけど」
「うける」

 ありえないの意のうけるで終わらされてしまったな。

「だって五条にとって私ブスだもん。五条の顔に勝てる人類居ないし」

 完全に言葉不足。五条。完全な自業自得だ。
 確かに、五条のに対する学生時代の嫌がらせは度を越えてた。限度ってモノをしれよ。好きな子いじめちゃうにも程ってもんがあんだろ。
 いつだかが泣きかけた時、一回テント張りかけてたの見た時はマジでドン引きした。同じく隣で気付いてしまったらしい夏油が腹抱えてプルプル笑いを堪え始めたのを見て、マジでこいつら同類のクズだな、と私は再認識し、心の壁をエベレストに作り直したことを覚えている。
 よっぽど好きなんだな、ってことは分かるが、必要なのは信用と信頼、そして互いを尊敬する心だ。金と顔ではない。

は可愛いよ」
「硝子すき。しょこめん」
「トラウマの治療でもした方がいいな」

 鬼が出るか蛇が出るか。焦る五条はちょっと見たい。そういえば、とに話を切り出す。

「そんなに五条嫌いなら私の代わりに明日行ってくんない。合コン」
「行きたい!いいの!?」

 店の場所、時間、どこにもメモを取るなよ。スマホにも予定を入れるな。今覚えて明日行け。アクセサリーも付けてくるな。
 さすがに今日の明日じゃ五条の耳に入る前にどうにかなるだろう。私はクソ面倒で今回はスルーしようかなと放置していた、数合わせどうしてもお願いというラインの嵐にようやく既読を付け、『代理寄越す』とだけ一言入れてスマホを裏返した。は酒でふわふわになっちゃうし多少心配だが、昔よりは強くなっているみたいだし。それに大抵の奴よりの方が物理で強いから大丈夫だろう。明日は心行くまで寝よう。ありがとう。最高だよ。

「硝子これ飲んで?」

 今日はもう飲むのをやめる賢明な判断をしたらしいがあざとくジョッキを寄せて来た。応ともさ。