何も変わらない五条
「五条。恵を嫌がらせに巻き込むのやめなよ。大人げない」
ガチャリ、ドアが開き、入って来た。彼女は僕が『僕のラブレター読んでくれた?』と聞く前に、さっき恵にお使いを頼んだはずの僕の直筆ラブレターを突っ返してきていた。恵はちゃんと届けてくれたみたい、相変わらず律儀な子だなあ、変なイタコとかに騙されないか心配になっちゃうよ。
けど、何か。読んでくれたんならの言い草おかしいんだけど。が机の向こうから、椅子に座ってる僕の顔に突き付けているコレは、どう見ても僕が書いたラブレター。ちょっと頭痛くなりながらアイマスクをちょい下げた。うん、そうだね。紛れもなく僕が書いたラブレターだ。字のクセ、美しい文字、愛溢れる言葉一言一句間違いない。
「これ、初恋もまだの恵には刺激が強かったみたいだったよ」何あいつ初恋もまだだっけ。
「草食系男子ってヤツ?需要なくない?恵心配だなぁ」
「五条はあのくらいの時からずっと取っ替え引っ替えなのにね。似なくてよかった」
いやそうじゃないんだけど。ん、とが僕の心のこもったラブレターを受け取れと催促している。勿論僕は手を出さない。
「あのさ。コレ中身ちゃんと読んでくれた?」
「…吃驚した。五条こんなそれっぽいの書けるなんて」
「僕のこと好きになった?」
「教え子にラブレター配達させるなんて気が触れてると思った」
「僕は読むなつったよ。それに元はと言えばが受け取ってくれなかったから恵に渡したんだけどもしや自覚なし?」
「次からもっと役立ちそうなのにしなよ。年齢的にそろそろ和歌とかもじゃないの?五条できるでしょ。恵と返歌考えるくらいならするよ」
「それはいい教育になりそうだな、恵もそういうコトは出来て損しないだろうし。禪院だからねえ――ってそうじゃないんだけど」
僕は恵の情操教育のためにラブレター書いたんじゃなーーーい!
「教育って言うならもっとそれっぽくやるか相談してよ。協力するから。何がいいたいかと言うと、どうにかして嫌がらせ混ぜようとするのやめて」
「なんでそうなんの?おかしいだろ。俺は真面目にラブレター書いただけ。お前に」
睨みつけても彼女が怯むことは無い。彼女は半笑いで僕を見ている。半分くらい、いや100%僕をバカにしたような目なのはなんで。
「昔とは大分嫌がらせのレベルが上がったのは認めるよ。けどさ。大概何でも出来る五条様が真面目に私にラブレターって?全国に女作ってるから出張の時に困ることも無い?何人もとオネツの五条悟様が?真面目に私にラブレター?」
「えっ待ってやたら僕に詳しいね?ヤバいちょっとトキメいてる。どうしよ。僕、そんなこと言ったことあったっけ?」
「庵先輩から間接的に京都校が迷惑被ってるって文句のメールが届く。伊地知からは次の日起こす時に胃が痛いからうまいこと言ってくれませんかって縋られる。普通に、勝手に私の部屋来る五条が大抵頭痛くなるレベルで別の香水纏ってるんだから気付くよ。気付かないなら病院行った方がいいよ。いつもせめて着替えてから来てって言ってるでしょ」
「ごめんごめん。それで婚姻届はどこ?」
「伊地知と七海イジメもやめなよ。あの二人が一番可哀相。印鑑まで押させてさあ」
「書いたの?書いてないの?捨てたの?燃やしたの?」
「しつこいなあ。破って捨てたよあんなの」
「はあ?お前さぁ、マジで何が嫌なの?僕と結婚すんのメリットしかないだろ。お前来年三十路だよ?誰が貰ってくれんの。賞味期限切れ女」
ぐしゃり。がラブレターを掴んでた手に力を込めたんだ。沈黙。
ヤバいかもしんない。これは確実に何日か存在を無きものにされる罰ゲームが待ってる空気だ。昔やられた時マジでキツかった。
言い過ぎた。言い過ぎたよゴメン。声には出ない。やっぱ僕なけなしの成長しかしてないかも。助けて傑。
が僕の机の書類の上にくしゃくしゃになったラブレターを置いた。慌てて彼女の手首をひっ掴む。が力の限り手を引こうとするからガッチリ掴んでの顔を覗き込むと、泣きそうな顔をしてた。なんでそんな可愛いの?
「離して」
「ムリ」
「……」
「…さっきのは口が滑っただけ。ごめん」
は僕の謝罪を無視してそっぽを向いた。よっぽど傷付けたらしい。
「…ごめんって。三十路になるのは僕も一緒だし。お似合いじゃない?」
無視。
「昔からさ。僕がついついを傷つけるようなこと言っちゃってたのは、全部反対っていうか」
「知らないだろうけど、僕どうでもいい女とはバックばっかなんだよね。顔見てシたいと思うのはだけ」
これ以上ないくらい無視だ。耳がどっか行っちゃったのかな。僕はアイマスクを完全に下げてグッドルッキングを見せつけていくスタイルに作戦を変更した。こっち向いてくんないから無駄かもしんないけど使えるものは使った方がいい。
「…僕だってずっと追っかけてんの疲れちゃうかもよ」
「僕が自分から行くのはのとこだけ」
「何か言ってよ」
寂しくなってきた。は顔を背けたまま眉を顰めてガン無視だ。顔が赤くなるとかそういう生理的現象でさえミリも無い。僕の六眼で見てるから間違いは絶対にない。
何か、…何でこんなに伝わんないのかな。僕そんなひどいことしてきた?ちょいちょい言いすぎてきたことはあるけど、でもつい僕がそういうこと言っちゃうのはのせいじゃん。可愛すぎてつい虐めたくなっちゃうが悪いのに人のせいにすんなよ。
「」
ガン無視だ。つまんな。彼女の瞳が僕を映してない瞬間の世界なんか全部燃えるか滅ぶかするべきだ。ホントに滅ぼしてやろうか。
…何かないかな、話題。が返事くれる話題、機嫌が直る話題、有耶無耶にできる話題、絆せる話題、なんか、なんか、
「そういえばさ。もしかして小切手恵にやったりした?」
ぴくりとが反応した。さすが俺の脳味噌よくやった最強。、恵、ラブレター、婚姻届、小切手、口座、謎の引き落とし1,000円。
「謎の引き落としがあってさ。千円」
「~~っせんえん……」
の肩が震え出す。全然笑いが堪えられてない。彼女の手を離して、椅子から腰を上げて彼女に近寄った。くすくす笑ってるの手を引いてソファに座らせる。僕はしゃがみ込んでの手を両手で包んだ。は僕に遊ばれるままにこにこしている。
「配達料かな、千円」
「やっす」
「ほんとに。迷惑料もっと取ればよかったのに」
「そうだね。今度津美紀と四人でご飯でも行かない?」
「いいね。しばらく行ってないもんね」
都合の悪いことは聞こえない耳を持ってる僕の会話に流されちゃうの、さすがに学習した方がいいと思うけど。まず僕の愛はクソ重なんだから配達料いくら取ったって行くわけないじゃん。
けど今日はもうこの話はヤメ。また機嫌悪くなって無視されたら僕泣く。まあもう機嫌直ったみたいだし逃げはしないでしょ。手を離して僕も隣に腰を下ろす。
二人とも何食べたいかな~って僕に寄りかかりながら、嬉しそうにグルチャにぴこぴこ打ち始めたが可愛い。僕も隣でスマホを取り出してカレンダーを見る。
ハア、どうなるかと思ったよホント。恵グッジョブ。何もしてないけどよくやった。恵のおかげでと仲直りできた。今度百倍くらいお小遣いあげよ。伊地知は僕のスケジュールどうにかしろ。
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