ラブレター配達する伏黒
「ねぇ、恵」
「スイマセンお断りします」
「まだ何も言ってないよ?」
「絶対メンドいこと押し付けられる予感がするんで」
じゃ。と言ったが退出は許されなかった。呪力使うとかマジでクソなんですけど!その場に縫い留められてどうにもなんねえ!
「がまるで僕の気持ちを分かってくれないんだけど、どうしたらいいかな。素直に伝えてもイジメの一言で済まされるんだよね」
「どうせ今みたいに先生が悪いんじゃないんですか」
「なんでそう昔から恵はいつもの味方なわけ。僕の片思い歴知ってるでしょ。相談にくらい乗ってよ」
「…もう何年でしたっけ」
「二桁余裕」
「うわぁ…」
「だからさ僕考えたんだけど」
手、出して。と言われ、脊髄反射で従ってしまった。ら、ぽん、と真っ白い封筒。几帳面に▽に折られている下のところには、ご丁寧に真っ赤なハートのシールが貼られている。
これアレじゃね?見るからにラブレター。何でラブレター。
「ということで恵。それに渡して」
「え、いや、は?」
「見れば分かんじゃんラブレターだよ。気持ち伝えるには定番でしょ。あ、中身は見ないでよ!恥ずかしいからね!」
誰が見るかよ。つか何なの?おかしくね?五条先生がおかしいのはいつも通りだけど、
「自分で渡してください」
「渡したよ。渡したけど受け取ってくれなかった。無理矢理押し付けたら即燃えるゴミに投げ捨てられたんだよね。ひどくないホント。大丈夫ちゃんと封筒も変えたから恵が渡せばバレないよ。あとは僕の筆跡知ってるから、そっちの方も大丈夫。安心して」
「…ちなみにどうやって渡したんですか?」
「え?普通に渡したけど」
「……じゃあ何したんですか?」
「何もしてないけど。僕の何が悪かったのかに聞いてくる任務追加な。二人して僕のこと疑いすぎなんだけど」
傷つくなぁ。……と言われても、すいません、でもどうしてもロクな渡し方しなかったんだろうな…って感想しか沸かないです。それか過去に何かしたんじゃないんですか。
めんどくせぇ、と五条先生を見ると、思ったより不機嫌な顔になっていて最悪だった。
「今すぐ行ってきて」
ついでに甘いもんでも買って来て差し入れるか。まあ、さんに来てもらうのが正解なんだろうけど。
*
「さん、すいません。これなんですけど」
「恵。…うん?」
警戒心ゼロ。ザ・手紙というより、ザ・ラブレターにしか見えないソレを、普通に俺の手から受け取ったさんは、滅茶苦茶不思議な顔をしている。
「恵が書いたの?えっ、もしかして日頃の不満とか…?あっでも肩叩き券みたいなセンもある…!?今開けてもいい?……ダメだよね」
微妙に百面相しているさんのせいで罪悪感が半端ない。ヘコまないでください。ワクワクしないでください。俺は書いてません。
「…今開けて欲しいです」
「よし分かった。恵が書いたわけじゃないね。有難く開けさせてもらうけど、吃驚仕掛がされてたりヤッバイ写真が入ってたらタダじゃおかないからね。もし私が気絶したら部屋まで運んでね。こんなふざけた手紙持ってきた責任果たしてね」
「…一体手紙受け取ってどんな目にあったことがあるっていうんですか」
「ヤッバイ写真の詳細は今の恵には言えないかな」
うわぁ。
「恵。共倒れにならないように、少し離れてて」
「は、はい」
物騒すぎるだろ。
何歩か後退ると、さんはやっと頷いた。
「じゃあ、開けるよ…」
1枚、2枚、3枚、とさんが白い紙を出していく。…うーん?さんは折りたたまれた紙を表や裏から眺め、首を傾げ始めた。
反応を見るに大丈夫そうなので、傍に近寄って覗き込んでみた。ら、さんが3枚目をくれた。
「1枚目に悲惨なのが入ってる可能性が高いから。あえて3枚目から行くことで少しでもダメージが軽く済まないかと思ってる」
「でも、普通の紙っぽくないですか?」
「うん」
さんが俺にくれるということは、危険性はないものだろう。まあ、差出人は先生だからそこまでひどいことしないだろうが。…ってさん分かってんのかな。言うタイミングを逃した。
とにかく、二つ折りになっているソレをぺらっと広げてみる。小切手、という文字。…読み方こぎってでいいんだよな。
「うわぁ。やっぱり五条。知ってたけど…」
「…こぎって」
「うん、小切手。ここにね、恵が欲しい金額をいくらでも書くといいよ。億くらいならポンと出てくると思うから。もらっといたら?」
「???」
「この紙を受け取った側が、金額を自由に書いて、銀行に持っていくとね、銀行が五条の口座から書いただけのお金をくれるの。勿論五条がその金額、口座に入れてないとムリだけど。五条バカみたいにお金持ってるから大丈夫だよ」
「次行きましょう」
さんの手に小切手なるものを押し付け返すが受け取ってもらえない。破けばいいか?破けばいいのか?いや、先生に返せばいい。未成年が持っているべきものじゃなさすぎる。一分一秒でも早くこんな危なっかしいアナログシステムの紙きれは灰にしたい。なんでこんな恐ろしいもんが未だにアナログで残ってんだよ。おかしいだろ。怖すぎる。とりあえずくしゃくしゃに丸めてポケットの奥底深くに突っ込んだ。そのまま忘れて洗濯すればいいかもしれない。
「はい、次。2枚目。結構折られてるけど……」
なんかもう滅茶苦茶開けたくねぇ。持ってきちゃったの俺だけど、ク、ク、クソ……。プレッシャーがやばい。
本気で嫌々開いていく。折り目を一つ開くごとにテンションが下がっていく。お。――あ!
「婚姻届!これは俺でも分かります!」
「うんうん。そうだね。恵は可愛いね」
子供かよ、というレベルでさんの目を見て宣言してしまった俺の頭をさんはニコニコ撫でると、俺の手から紙を奪って数秒眺めビリビリに破り捨てた。
「無理矢理証人欄書かされたんだろう七海と伊地知が滅茶苦茶可哀相すぎる。全部埋め終わってて印鑑まで押してあるのも滅茶苦茶怖すぎるよ。ホントに私がサインして出したらどうするつもりなんだろ。五条ホントにやばすぎない?でもあれでしょ、どうせこの書類に私が分からないような不備があって、役所で凄い顔される私をどっからか観察して腹捩るつもりだろ分かってんだよ…」
だめだ。さんが殺意に満ちている。呪力がキツい。五条先生への憎しみが深すぎる。もしさんが呪術師でなければ、とっくの昔に五条先生はさんに呪われているんじゃないだろうか。喜びそうだけど。さんはじりじり呪力を上げていく。
「さん怖いです。呪力。すいません。次、行きませんか、次」
「――あ、ご、ごめん」
袖を引くと我に返ってくれたさんが、申し訳なさそうに最後の紙を差し出してくれた。もうパッと見てパっと部屋に戻ろう。滅茶苦茶疲れた。
ぱっと広げてしまうが、………これは。
これは俺が見るべきものじゃない。
「やっとまともなのが出てきましたんで読んだらどうですか。ちゃんと手紙ですよ」
「音読して欲しいな!」
「今すぐにでも脳内から消したいレベルなんで無理です」
「どうせ男の下半身の絵でも書いてあったんでしょ?」
「違います。クソ恥ずかしい言葉の羅列です」
「待って。私の黒歴史でも晒されてる?」
「だから読めばわかりますって。それじゃ」
何だか分かんねーけど!ちゃんと!ラブレター!だったんだよ!
小切手で配達料として1000円くらいは頂きますよ、先生。
ラブレターをさんに押し付けて、俺はその場を逃走した。
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