「ん~!アイスおいしいです」
「よかったな」

 食べるのが遅い自覚は、あるようなないような。…私が遅いのではなく、先輩方が早すぎるのは間違いないだろう。任務後のご褒美。補助監督さんが迎えに来るまでスキマ時間があるから、ポールに寄りかかりながら三人でアイスを食べている!

「帰りにヂロルチョコ菊福味も買って帰りましょうね」
「このへんコンビニあったか?」
「きっとどこかにあります」

 虎杖先輩は、さっき買った最初のアイスを三口くらいで平らげて、オレもう一個買ってくる!って笑顔でまた目の前の売り場に並んでいる最中だ。あ、目が合った。ぶんぶん手を振ってくれた。振り返すとニカッて笑顔が深まった。太陽みたいな先輩だ。
 伏黒先輩は、既に一個食べ終わっていて、口の中が甘い…ってミネラルウォーターを飲みながら、隣で暇そうにスマホをいじっている。月みたいな先輩だ。
 私は暇そうな伏黒先輩に更に話しかけることにした。というより決意表明。

「先輩、あの。私、虎杖先輩が次を食べ終える前に食べ終えるのを目標にします」
「無理だと思うぞ」
「そうですね」

 同意すんのかよ、と先輩がこちらへスマホを向けた。ぱしゃりと音が鳴った。えっなんで!?

「ちょ、なんで!?アイスだけなら取ってもいいですけど、」
「釘崎が送れって」

 アイツが食ってるらしいワッフルの写真、ってスンとした顔で言う伏黒先輩のスマホを覗き込むと、おいしそうなワッフルの画像が表示されていた。イン゛スタだ。釘崎先輩輝いてる。すごいイイネいっぱいついてる。数時間前に投稿されましたって書いてある。

「なになに?」

 降ってきた声と影に顔を上げると、虎杖先輩が両手にアイスを持って伏黒先輩のスマホを覗き込んでいる。おかえり虎杖先輩。両手にアイスを持っている。両手にアイスを。

「釘崎のワッフル」
「へー。うまそー」

 両手。

「アイス!二本じゃないですか」
「うん。一個じゃなくてやっぱこれも食いたかったから二個買ってきちゃった」

 一口いる?って差し出されたら答えは一つしかない。

「欲しいです」
「先に自分のを食い終われ。垂れてんぞ」

 スカートに、ぽた、と垂れた感覚がしたのと、伏黒先輩に指摘されるのは同じタイミングだった。あわあわと垂れるアイスを手で受け止めながら巻紙をぺりぺり剥がし、コーンの下から口に入れる。既に手はべちゃべちゃのねちょねちょの大惨事になっているし溶けてくるアイスが口の中で非常に冷たい。この食べ方大変では? どうしよう。でもこれ以外に垂れない方法ってなくない? カップにすればよかった。

「お前今度からカップな」

 こくこく頷き、溢れそうになる冷たさと戦いながらアイスを食べる。こうなったらもう食べ切るしかない。短期決戦しか勝たん。
 伏黒先輩が私の手からべたべたの巻紙を持って行ってくれて席を立った。ごめんなさい。ありがとうございます。上からは虎杖先輩が私を見下ろしている。

「頑張れちゃん。あと一口くらい!」

 それ多分私の三口から五口くらい。
 頑張って、おいしいんだけど必死にアイスを飲み込むもとい流し込みながら、じゃくじゃくワッフルコーンを食べる。目の前では虎杖先輩が笑顔でバリイってムシャアって大口でアイスを齧っている。先輩にとっての0,1口でいいから、あとでちょっとだけ欲しかったりする。あ、伏黒先輩帰って来た。明るい色と黒い色の趣の違うツンツン頭が頭上に並ぶ。

「お前一口デカすぎだろ…」
「夏油先生には負ける」
「あの人と競うな」
「それはそう! 伏黒も一口食う?」
「遠慮しとく」
「そ?」

 ツンツン頭が解散した。伏黒先輩が隣に戻って来て、虎杖先輩が多分定位置に戻って行った。話しながらアイスを二個食べてるとか、虎杖先輩余裕すぎる…。
 私はどうにか食べ終えて、最後の一口を大口で飲み込んでいる最中だ。ワッフルコーンが喉で、ぐっ…となっている。虎杖先輩も夏油先生も凄すぎ。夏油先生、みかんを一口で食べるって聞いたことがある。すごすぎ……。
 いい加減上を向いていた首も顎もつらくなってきて、別にもう上を向いている必要はなかった、と口をパンパンにしながらやっと目線を降ろし、くっ…となる。ワッフルコーンが口の中で暴れているし大変なことになった手の置き場がない。すると片手を取られてウェットティッシュで拭かれていた。そしてキャップの空いたお水が差しだされた。ありがとうございます。ありがたく頂きます。

「伏黒パパじゃん……」
「は?」
「さっきもゴミ行ってたし…ほら」

 やっと口も喉も快適になり、ふう、と一息ついていると、横からお水が回収されて、それからもう片方の手が拭かれた。ありがとうございます。

「パパ黒…」
「別にパパじゃない」
「ごめんごめん。まあ付き合ってたらパパとか言われたら嫌だよな」
「あ?」
「秘密なんて水臭くね?なら俺さき帰ったんに。やっぱ付き合ってたんだ」

 虎杖先輩がこちらをニコニコ見ている。その手にアイスはもう無い。ああ……。

「ね、ちゃん」
「……えっと、何の話してましたっけ?」
「伏黒と付き合ってんっしょ?」

 つ?

 目がパチパチなった。私、伏黒先輩、虎杖先輩、という順にポールに寄りかかっているわけだが、虎杖先輩を見ている私と伏黒先輩は同じ顔をしている気がする。私の視界に入っている伏黒先輩はさっきから微動だにしていない。

「……や、あの。付き合ってとか、そういうの、ないです」
「えっ……そうなん?」

 ええ……。と虎杖先輩が引いて、誰かの携帯のバイブレーションが鳴る。音のした方向にばっとみんな振り向いた。伏黒先輩だ。ぼうっと先輩の顔を見ていた私はハッとした伏黒先輩と目が合ったわけだが、凄い勢いで反らされた。

「もしもし」


 それからみんなで補助監督さんの車に戻った。伏黒先輩はずっと無言のままで、迷わず助手席に乗られ、腕を組み早々に寝ようとしていた。虎杖先輩はあわあわしてたけど車では爆睡していた。
 高専戻ったらどうなるんだろう。虎杖先輩のアイスは一口ももらえなかったしヂロルチョコは買えなかったし伏黒先輩に心の壁を感じるし。静かなはずの車内にまで微妙な空気が漂っていて、私はひとり困り果てたのだった。