大学の学食。目の前には問題の卵が存在している。槙島先輩が持って来たらしい。私の向かいに腰を下ろした彼らは、さっきから、鶏が先か卵が先か、ひたすらに口論していた。ディベートではない。口論だった。
 どうして哲学科の天使と呼ばれている槙島先輩実は堕天使と、教育学部の超絶エリートと呼ばれている狡噛先輩実際にGPAが凄まじいらしい、が卵について言い合っているんだろうか。
 まあ、そうね、二人は異様に仲が悪い、という噂は本当なのである。学食の視線を一身に集めている。私は席を立つこともどうすることも出来ず、ひたすらに空気に徹している。どうして今日も私の前に腰を下ろした? それについて小一時間問い詰めたい。
 彼らはひたすら卵について言い合っている。おいしそうな名称が聞こえる。目玉焼き、卵焼き、ゆで卵、親子丼、ときて、オムライス、に槙島先輩が遂に爆発した。

「ふざけるな。ひよこさんが可哀相だろう」
「は?槙島お前こそふざけてんのか?無精卵だそもそも生まれない」
「有機卵を舐めるなよ。お前の買っているだろう卵とはグレードが異なるものだ。同じように語るな」
「ハッ、ひよこさんが死んでしまうリスクを背負ってまで持ってきたのか?」
「ああそうだ。彼女に食べさせるためにね。無事にここまでたどり着くことが出来た。愛の力は偉大だろう」

 槙島先輩がびっと目の前を指差している。狡噛先輩がこちらを向いた。相変わらずイケメンである。イケメンは心臓に悪いので、私は素早く下を向き和食なランチを食べ進む。


「ん?」澄んだ、優しげな美声に名前を呼ばれ、顔を上げた。
「…待て、、お前槙島と付き合ってたのか」次いで、狡噛先輩がなんか言った。
「――っんんん!?っう゛」

 やばいご飯詰まった。咳き込むこともどうすることも出来ないどうしよう。背中がぽんぽんというかどんっとされた。えっ誰、あっ、ああっ!

「君たち、あまり後輩を苛めるものではないでしょう。ほら、米を呑みなさい、米を」

 米を!? 彗星のように現れてくれた和久先輩が、私の口に白米を入れてくれた。呑めといわれた。そのまま飲み込み、うっ、食道が広が、いたい、涙滲んできた、う、しかしアフターケアまでばっちりだ。和久先輩が水まで無理矢理飲ませて下さった。さすが和久先輩。医学部6年の大先輩、志恩ちゃんがいつもきゃーきゃー言ってる先輩だ。顔がいい。分かる。紳士。

「すみません和久さん、ありがとうございます。大丈夫か、?」

 狡噛先輩が身を乗り出して私を心配している。明日私の命は無くなってるかもしれない。彼のファンクラブの女たちに殺される予感しかしない。こわい。本当にこわい。本人が天然たらしなところも本当に怖い。幸いなのは虐め殺されそうになったから同じだけやり返したら全く虐めが無くなったことである。やったね万歳。恐ろしいこっちゃ。

「あー!また先輩のこと虐めてるんですか、お二方!ひどいです!」
「朱ちゃん…!」

 中等部の朱ちゃんが、……食べかけの焼きそばパンを片手に食堂に入って来た。隣を、法学部のイケメン一番常識人で優しい宜野座先輩神が通り過ぎてきて、学食の長蛇の列に並び始めた。彼の手にも同じようなパンが……。槙島先輩が私の学食に卵を置いてくれた。どうして。

「ティーケージーにするといい。とっておきの卵だ」
「えっ、あ、はい……」

 狡噛先輩がお醤油を取ってくれた。ありがとうございます、と受け取って、二人の視線に促されるまま卵を手に取った、……けど。

「ああ……」槙島先輩の哀しそうなカンジが突き刺さる。
「食わせたいのか食わせたくないのかどっちかにしろ」
「僕だと思って育てておくれ」
「うわぁ……」

 狡噛先輩が低い声でマジ引きしている。でも有精卵と聞いて、そんな風に見つめられて、食べられるほど、私は、私は、私は…!!!

「卵パックをください!私この子たち産ませて育ててこの子たちが産んだ有精卵食べますから!哀しそうな顔しないで!」
さん、それが一番残酷だと思います」

 朱ちゃんが卵を割った。