胡瓜
本日も学食。目の前には三名が揃っている。槙島狡噛宜野座先輩。わあこんにちは昨日ぶりです。
はあ。関わって碌な目に遭うことは絶対にない。宜野座さん以外。とはいえ、それぞれにファンクラブがあるような状態であるからして、誰とも進んで関わりたくは全くない。でも宜野座先輩は優しい。この白黒な先輩方を宥めるために仕方なく来てくれているのである。神。すき。イケメン。最高。ありがとうございます。足を向けて寝れない。
この三名は同い年、即ち同じ学年である。2年。よって、ミスターコンは本気で毎年決まらないし、バカチューブに上がってるミスターコン関連動画の再生数もやばい。多分本学儲かってる。ミスターコンについては、もうめんどくさいから同率一位でよくね、という話で落ち着いてしまっているらしい。本学は柔軟性も凄い。
ひとまず分かりやすく解説しておこう。彼らの顔面偏差値がどのぐらいやばいかというと、たまに取材が来てるくらいやばいのである。ネットには彼らの顔面写真があるインタビュー記事までちょくちょくあって、固定ファンがいるレベル。もう三人でシャニーズでもやったらいいと思う。属さなくても売れそう。そういえば本物のジュニアだったとかいう内藤先輩もいらっしゃる。みんな顔面偏差値が凄すぎる。どうなっているんだ? もしかして本学は顔面偏差値で入学の可否を決定しているのではないか?
そうかは分からないが、全員頭もハンパなく良くてそれぞれ学部トップらしいからもう嫌だ。そう、彼らは頭の方もイイのである。
はあ。人生やめたい。やめよう。やめてるんだ。私は多分人間じゃない。多分種族か何かが違う。亜科かもしれない。ご飯は美味しいから動物ではあるだろう。今日も私は日替わり定食和食バージョンをつついているのだ。おいしい。最高。
あまりに静かだからチラリと目の前を見れば、槙島先輩はまたヘルシーすぎるサンドイッチかじってるし、隣の狡噛先輩はまたボリューミーすぎるハンバーガーにかぶりついてるし、その隣の宜野座先輩はまた洋食を優雅にパンと食されていた。パンはイケメンを量産する?イケメンはパンが好き?無駄な考察はやめよう。イケメンは何をしてもイケメン。考えても無駄。
要はいつもの光景である。この人たちは決まったものしか食べないんだろうか。いや、狡噛先輩はたまにカレーうどん食べてるな。その日だけは平和だ。槙島先輩と宜野座先輩が席を立ち退散避難するからだ。引き留められ避難を許されない私のシャツは全く平和じゃないわけだが。私は当社比おされな服を着てくるのを止めた。シャツも着るのを止めた。結局、安くて洗えてぞんざいに扱える且かろうじて人間しているスタイルに実用的なリュックとかいうおばあちゃんスタイルに落ち着いてしまったのであった。私が人間でいられないのは狡噛先輩のせいなのでは? 話が脱線した。
ところで、さっきからずっと槙島先輩が何か言いたそうにこちらを見ている。にっこりるんるんほんわかオーラでも飛ばせそうな顔面をしている。そう、話しかけろと言われているのだ、これは。
そうですね。昨日の卵はとても美味しかったです。美味しかったですよ、黄身が濃厚でとってもマイルドでした。味わい深かった。分かっていますよ。私は今日、実用的なリュックにとても重たい野菜を入れて持ってきたんですから。期待してくれていいですよ。おいしいですから。実家のおばあちゃんから大きな段ボールで届いたんです。私東京人だから、全然京都弁なんて分からないけど。
私はおもむろに実用的なリュックからそれを取り出した。洞察力の鋭すぎる先輩め。
「…槙島先輩。卵おいしかったです。お返しです。良かったらサンドイッチにでも挟みますか。名前に因んで聖護院胡瓜です」
「これは珍しい胡瓜だ、嬉しいな。それに君、僕の名前を覚えていたんだね。大根とカブを貰いにお家にお邪魔しても?」
「まだ季節じゃないですね」
「じゃあ12月になったらうかがおう。約束だ」
「エッッッ…」
「。相手がどう発言するか考えて絞り込むように発言しろ。特にコイツには注意するべきだ。何が約束だ、行かせる訳ないだろ」狡噛先輩が涼しい顔して槙島先輩が持っている胡瓜に手をかけた。
「おいこれは僕の胡瓜だ君の分は一切無い、その手を放さないか。ああっ!」折れた。
折れた?折られた?とにかくボキッと逝った胡瓜を、狡噛先輩が自身のハンバーガーにサンドして、かぶりついた。豪快だ。胡瓜バーガー。スライサーが待たれる。
「ん、うまいな」
「バーガーに挟んで胡瓜の味が分かるか。相変わらず君の舌は抜かれているようだな」槙島先輩がスローリーな動作でサンドイッチに胡瓜を挟んでいる。
「六道輪廻して来たような色合いしてるお前に言われたかない」狡噛先輩が喧嘩を買う。
「それは六道を輪廻した結果神のような存在になったと僕のことを崇め讃えているのかな?」槙島先輩が、狡噛先輩との口論をヒートアップさせている。
「そんな訳ないだろお前こそ相変わらず頭イカれてるんじゃないのか。その自分勝手解釈をもう一度輪廻して悔い改めるべきだ」胡瓜は冷えている方がおいしいから場を温めないでほしい。
ひたすらに彼らは口論を続けている。私は和食を食すことを再開する。今日もとても美味しい。うちの学食は最高だ。安い早いうまい。最の高である。もう分かってもらえていると思うが、実は私うちの大学大好きなのである。ついでにもう分かってもらえていると思うが、自炊ができない民は胡瓜を丸ごと一本ランチの付け合わせとして差し出すレベルのレベルなのである。要は私は学食に来ることを諦めることは出来ないし、自炊に関して何も期待しないでほしい。ご飯を作れる人は偉大である。神様なのである。あぁ和食おいしい。学食最高。
「「はどう思う」」大きな声にびっくりすると、目の前の二人が凄い剣幕で私を見ていた。
えぇ~……?
「お前らいい加減にしろ。が困っているだろう」
超高速で頷く。「それに、女性の家に上がるなどと。何を考えているんだ全く」ご尤もである。宜野座先輩は良心の塊である。皆顔が良いから私を見ないで。ご飯が喉を通らなくなる。味は分かる。最高。
「つまらないな。まあ、サンドイッチを作ってきてくれれば許してあげよう。分かっていると思うが、卵は不要だよ」
槙島先輩が真っ直ぐ私を見て微笑んだ。トゥンク…顔がいい…!それで許されるなら…!
「騙されるな。はそもそも何も悪いことをしていない」
狡噛先輩が眉を顰めて私を見ている。そういえばそうだった。ありがとう狡噛先輩。顔が良すぎて心臓に悪い。
「本当に、槙島お前。何故卵を食わない? 卵を食わないからプロテインが足りてないんだ。一生そのままでいやがれこの白モヤシ」
たまにお口も悪い。顔がいいから許される。ちょっとワルい男に見えてこれもこれでしんどい。あぁ。
「何だと品性のかけらもない筋肉ゴリラ。一生無駄に大きな身体をそこら中にぶつけているといい」
私は二人の視線にロックオンされていないうちに再び和食をマッハで食べ始める。そろそろ時間がやばい。昼休みが終わる。でも二人とも段々盛り上がって来てるな、声も大きいし周りの目はまあいつも痛いけど、イケメンに射貫かれていなければどんなシチュエーションでもメシはウマい。強い女で居よう。
うるさい中、必死になってご飯を食べていると、ふと、ぬっと影が出来た。
「静かに食べなさい」
帝塚先輩だ。この声は帝塚先輩だ。女帝先輩だ。やばい。多分ツノが生えてるレベルの女帝先輩が私の背後にいらっしゃる。強い女代表という感じの帝塚先輩は、中等部から高等部ずっと生徒会長を務めてらっしゃったらしい。今も学生自治会長務めていらっしゃる。やばたにえんすぎて生ける伝説と呼ばれている。ちなみに和久先輩も学生自治会副会長を務めてらっしゃって、過去には白目向くような偏差値の中高一貫男子校で生徒会長を務めていらっしゃったらしい。噂の出処は、花金とか言ってるんるん毎週金曜決まって夕方学食にやってきては女漁りをしていく、数年前高等部工学科を卒業されたらしいOBの現在社会人な佐々山さんである。本人曰く二人と仲良しらしい。とにかく、帝塚先輩と和久先輩のお二人は、学生自治会の会長と副会長をされているのである。二人の後釜はいない。おっと激しく現実逃避してしまった。
とにかく私悪くないもん。帝塚先輩の冷たすぎる一言に、やっと目の前の二人は手元のランチにまともに手を付け始めていた。私悪くないもん。私悪くないもん。
「宜野座君とさんはいい子ね」
あっ…!さすが…!ありがとうございます…!困っていたところを助けて下さった上に名前まで覚えていて下さっていた…!?一生尊敬します…! とにかく、なりふり構わずご飯をかきこんだ私は席を立った。「ごちそうさまでした!」どうも、と先輩方に頭を下げて、帝塚先輩の背中を追いかける。これ幸いである。ありがとう帝塚先輩。生ける伝説。
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