ライム
「もう!もういいです!今度経費でメロン落として真流さんに投げつけてやりますから!狡噛さん、ステーキ食べに行きましょう!」
帰り際、明日までにデータ上げといてくれ、と頼みに分析室に行った、ら、修羅場に遭遇してしまった。前から変なヤツだとは思っていた。でも可愛いなとは思ってた。しかし突拍子もない。あんま喋ったこと無いのに。何で俺。タイミングよく入室したからだろうな。それはそれで物悲しい。いや、ラッキーなんだろうか。、やっぱ分析官には変人が採用される気がする。俺の一つ下、彼女は普通にクリアカラーらしいが、…何で真流さんにメロン投げつけて、俺とステーキ食いに行く発想になるんだ。やっぱ変人だろ。
「――それでですね、真流さんはナイスバディな人を所望したんであって若けりゃいいってもんじゃないって言うんですよひどくないですか」
彼女がステーキを切り裂いて、ぷんすこという感じでガツガツ食べている。何故ライムをかけるのか謎だが、ジュウ、という鉄板の音、うまそうな匂い、肉汁。少しばかり値段はするが、ムカついたことがあったらここです奢りますから、と胸を張った彼女を信じたが、いや、うまそうだな。別に奢ってもらう気はさらさらないんだが、いや、うまそうだ。
「ねえ狡噛さん。ねえ、ひどくないですか?ひどいですよね?」
「え、ああ、え?すまん聞いてなかった」
「狡噛さんはミカン嫌いですか?」
「待て何だその顔は。何の隠語だそれは」
「ちぇ。ぴよ噛さんの癖に察しちゃったんですか?ヤだなもう。言わせないでくださいよ。ライムほどもありませんけど」
「おい俺のステーキにライムかけんな。唐揚げじゃないんだぞ」
「唐揚げはレモンでしょ!」
そうだった。とりあえず俺も死守した己のサーロインをカットして食ってみる。…うまい。こだわった店の鉄板焼き、本物の肉がここまでうまいとは。ハンバーガーにしたら相当うまい気がする。何故サイドメニューにバンズが無い。とにもかくにも併せて頼んだライス大盛りを掻き込んでいく。この特製ダレもうまいな。
「ねえ、ねえ狡噛さんはミカン嫌いですか?ミカンだっておいしいですよ。おいし、…そうですね、ミカンはおいしいですよ。ミカンはね」
「単純に。俺は別にミカン嫌いじゃない」
「やだえっち…!」
「は?っんぐ、」
口にステーキ突っ込む奴があるか。口の中で受け取って、彼女がフォークを抜いたから、咀嚼していく。うん、中々うまい。彼女はヘルシーに赤身!とか言ってヒレをオーダーしていた。
「狡噛さん可愛い顔しないでください。ライムかけたくなっちゃう。それでですよ、それで、真流さんはメロンが好みだって言うんですよ!うるさいな!誰も大きくしてくれないんですよ仕方ないじゃないですか!っんむ、」
飲み込んで、多分、こいつはあまり良くないことを言っている気がするので、俺も自分のステーキを一切れ彼女の口に突っ込んでやった。もぐもぐしている。可愛いな。ホント黙っときゃ可愛いのに。こいつ佐々山と、俺には理解できない話をしてることがたまにあるような奴だからな、…大きくしてくれない、な。
ミカン、メロン、やっぱアレだろうか。あのバスト表が脳裏に思い出される。何で一度覚えたことをこうも忘れられないんだろうか。人間の脳ってやつはもうちょっとどうにかなんないのか。これは不要な情報だ。いやどこかで役に立つかもしれない。メロン、約810g、F。ミカン、約71g、彼女の胸元、もっと華奢だ。――やめろ。いや、俺最低じゃないか。佐々山のせいだ。クソ、ク、クソ……。
「バレバレですよ。そんなに見て。この牛さんはさぞかし巨乳だったんでしょうね。こんなにサーロインが発達してるんですから。支える必要があったんでしょうね、きっと。おいしいです」
「別にでかいからうまいってわけじゃない。雌は乳牛にもなるし、雄牛かもしれないだろ」
「狡噛さんってむっつりだったんですか」
「は?何でそういう発想になるんだ、――…あーもー、いいか、とにかく肉は若いほうがうまいらしい、っていうだけだ。あと俺はそういう意味で言ってない」
「若い肉体が好きなんですか?若くてぼんきゅっぼんな少女が好きなんですね?みんなして。男なんて!男なんて!」
「別にサイズなんか関係ないだろ。いつまでこの話続けんだ、もうやめたい」
「狡噛さんのバカ!狡噛さんにも今度メロン投げつけてやりますから!」
彼女が半泣きでメシを掻き込んでいる。その度に柔らかそうな彼女の髪が揺れて、長い睫毛は伏せられる。またじっと見てしまいそうで視線を逸らしても、肩幅も全然なくて、ブラウスからのぞいている二の腕なんか折れてしまいそうだし。刑事課なんかは割と身体鍛えてる連中が多いのもあって、彼女はよっぽど小さく見える。彼女は歴とした女性だし、…結構、彼女のことを狙ってる男も多いんだが、コイツ気付いてないんだろうな。そんな男の一人の前で豪快にステーキかっくらう奴だとも、今日初めて知ったが。不健全な思考で口いっぱいに元気よくメシを頬張っている姿も結構好きだなんて、何か、あまり認めたくはない。いっぱい食べる君が好き、なんだかそんな歌をとっつぁんが口ずさんでた記憶が蘇ってきた。彼女が喉をごくりと動かして、首を傾げて俺を見た。可愛い。
「なんですか?凝視して」
「いや。可愛いなと思って」
「はい?」
…やばい。目を瞬かれている。やばい。本音が駄々洩れた。じわじわ頬を染めながら、彼女は茶碗を置こうか迷い続けている。…まずい、普通に可愛い。
「…えっと、…ありがとうございます?」
「…いや。…俺は、は可愛いと思う。思い悩んでるなら、…別に必要ないことだと思うぞ」
「こ、狡噛さん……!その言葉だけで色相が保たれます…!」
あれから、分析室に行く度ライムをもらうようになった。別に嫌いじゃないが食品は食べ方に困るのでよしてほしい。それから彼女と定期的にステーキを食らいに行くようになった。全メニュー制覇したら告白しようと思ってる。
ステーキ