「…狡噛監視官、あの!」
「ん、。何か用か?」
「~~っ!お、お昼にどうですか…!」

 コンビニの袋を差し出させて頂く。
 コンビニの袋に入れなおしているだけで、別段中身はコンビニのものではない。一係の監視官はパンが好きという噂話を数日前に聞いたからという理由で、数日前から続いている、お捧げお貢お供え、要約するとまるでお返しを求めていない私が毎日狡噛監視官を見たいというただそれだけのために受け取って頂いているお昼にでもという旨のパンである。
 今日も、佐々山さんが後ろで吹き出してしまった。だって、だって。私は今日も元気です。狡噛監視官が格好良すぎて今日も玉砕しました。
 いつも、告白しようと思い立ったが吉日!と突撃するも、こうして玉砕している。でも告白して玉砕したらそれこそ粉々になってしまうので、これでいいような気もする。

「…、いつもいつも気を遣ってくれなくていいんだぞ?」
「っいえ、いえ、…いえ!」

 狡噛監視官が私の手からコンビニ袋を持っていってくれた。指先が触れた。しぬ。しんだ。指先から水分が沸騰してくたびれ死んでしまう。頬まで熱くなってきた。干上がる。深刻だ。

「こないだは焼きそばパン、この前はカレーパン、この前は…ってパンばっかりだな。今日は何だ? あ、おい――」

 なんか言っている狡噛監視官を背に、私は一目散に一係から逃げ帰った。だって多分私は不審者だったと思う。だってかっこよすぎてつらい。許してくださいごめんなさい。狡噛監視官は、記憶力も良すぎるらしい。私の挙動は忘れて欲しい。

「なんなんだあいつ…毎回毎回」

 二係監視官、新人のは、ここのところほぼ毎日、コンビニ袋を持って、訪ねてくる。
 袋を開け、今日は、…やっぱパンかよ。何で。

「狡噛――監視官、また来ていたのか? 何だか凄い勢いで走っていたから注意したんだが…。おお、今日は何だ?」
「…ギノの楽しみになってんな」

 やはり、ギノがパンが好きなことを知っているんだろうか。…俺はいいように使われているのか? …ギノが居ない頃を見計らって来て、あの挙動。恥ずかしがっているのやら、こちらを窺いたいようにする癖に目線を泳がせて、いつも袋を顔の前で持って真っ赤な顔を隠そうとして、……はあ。

 ギノが、「もらっていいか」「…勝手に持ってけ」今日のパンを1つ、持ち去って椅子に座った。

「…なあ佐々山、は人に昼飯を与える趣味があるんだろうか」
「バカなの?」
「まあ確かに、も一緒に食ってきゃいいのに。そしたら佐々山の餌になることもないしな。そういう面では俺はを相当に責めたいが」
「いや、そうじゃなくて…」伸びてきた佐々山の手の甲を抓る。「あ?俺にも寄越せよ」
「嫌だ。俺が3つ食う。いつも1つじゃ足りないんだよ」
「じゃあもう3つくれってに言っとくわ」
「…佐々山、お前と親しかったか」
「いや、全く。ただ、お前よりのことは分かってる」
「何故断言する」
「いや、だって、なあ?」

 佐々山が半笑いでギノを見やった。ギノは先ほどから夢中でパンをちぎっては食べている、手と口を止めた。

「なんだ?うまいぞこのパン。いつもコンビニ袋だが、どこで購入しているんだろうか。店を知りたい」

 聞いてない。



「…監視官、ちょっといいか」
「っえ?!っはい!私何かしました、ごめんなさい」
「――あ、おい、おま、ちょっと待て!」

 退勤後、二係へ行き、上がって来ただろうに声をかけたら、逃げられた。咄嗟に腕を引いたら思ったより引けてしまい、胸板に「っう」盛大に顔をぶつけさせてしまった。…どうしろと。

「…すまない。…大丈夫か?」
「っいえ、あああの、離してください!」
「…お前、なんで俺が苦手なのに毎回昼飯持ってくんだ、どっちかにしてくれ。対応に困る」
「ごめんなさい!」
「だから何が」

 ぴゃっと彼女が黙った。思わず責めているようになってしまったが、こんなことが聞きたくて言いたくてに声をかけた訳じゃない。

「…なあ、俺、何かしたか?」

 彼女は、俺に腕を掴まれ捕獲されたまま、顔を真っ赤にして目を瞑り眉を下げひたすらに顎を引いていた。

「生きてます…」
「…そうだな」

 ダメだ。意思疎通が不可能だ。
 よし。とりあえず、一方的に発言しよう。

「どうしてそう、どもるんだ」
「ごめんなさい…」
「何故謝る」
「ごめんなさい…」
「理由を聞いてるんだが…」
「離してくださいごめんなさい…」
「…すまん」

 手をパッと離すと、…逃走を許してしまった。やはり嫌われているのだろうか。頭が痛い。何故なんだ。