3.13
俺たち三係も他の捜査に当たったりしていて忙しくはあったが、結局一言も言葉を交わすことができないまま3月も中旬になってしまった。事件は少し前に片付き、今は通常業務に戻ったというのに、明日には彼女と最後に話した日から一ヶ月が経つという。継続して俺と彼女を接触させまいとする皆もいい加減にしてくれないだろうか。彼女も最近は大分諦めて、ときたま俺と目が合っても曖昧に微笑むだけで声もかけず去って行ってしまうようになった。…このままずっと話せなかったらどうしたらいい。彼女を無理やり連れ去ろうにも、どこの係の執行官も野次馬で参加してくるようになってしまったので無理だ。やってられん。
貧乏ゆすりは止しとけ、とっつぁんに指摘された業務終了間近、ああそういえば、と和久さんが突然手を打った。
「狡噛君、明日はホワイトデーというものですが、さんに何かお返しは考えましたか?」
「ホワイトデー?」
「バレンタインに何かもらっていたでしょう、あれのお返しをする日です。返すものによって意味が変わりますから、気を付けるんですよ」
「……和久さん、詳しくお聞かせ願えませんか」
――とにかく、俺はマシュマロだけは渡してはならない、ということは理解した。一体何だっていうんだ、菓子一つずつに意味があるなんて面倒くさいにもほどがあるだろ。……いや、彼女は普段から俺にストレートに想いを告げてはいたが。
それに問題は、バレンタインそのものが、好きな人にチョコレートを渡す日だったということだ。彼女はそんなこと一言も言っていなかった。世話になってる人間に菓子を渡す日だと言っていた覚えがある。実際、彼女は佐々山の他に天利や花表にもそれをやっていたし、和久さんも特に何も言わず受け取られていて、とっつぁんと昏田も喜んでいたので疑問を持たなかったが、彼女は本来の意味を知っているに違いなかった。だから佐々山はうるさかったのかもしれないが、…俺のことが好きなんじゃなかったのか。彼女はそんなに堂々と人を騙したり、嘘をつけるようなタイプには見えない。それに、そんなことをしようものならまず色相が濁るだろう。あまり何も考えずに配っていたのか、いやだが、佐々山の反応を思い返すにアイツにマカロンはやっていない筈だし、………俺は何を考えているんだ。別に、彼女が誰に何を贈ったとて気にする必要も、気にできる権利もないだろう。見返りを求めない、とも言っていたし、お返しをする日だからって、何かする事を求められていないんじゃないか、と思いはするが、いつもより増してニヤついている執行官たちの態度から察するに、明日こそは邪魔もされないだろう。結局、仕事終わりに百貨店へ向かい出す自分の足は正直だ。
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