2.29


 話せない日々が依然として続き、何故か彼女が誰かと話しているのを見る度に、そこに居るのは俺のはずだ、という思いが膨らんでいった。今も俺に気づいた佐々山が、こちらをニヤニヤ見ながら彼女の頭を滅茶苦茶に撫で回し始めた。彼女も彼女で別段嫌がっている素振りもしていないように見え、更に心が重苦しくなった。無性にコーヒーが飲みたい。このむかつきを誤魔化したい。なんで俺は苛ついているんだ。しかしこのまま彼らを見ていたくはない。近づいて今すぐにでも佐々山の手を彼女の頭の上から剥がしてやりたいが、されている本人がそれを受け入れているのだから、何をする権利も、言う権利も俺にはないし、…どうしてこんなことを思っているんだ。今までこんな風に思ったことなど一度もなかったというのに。とにかくこのままここにいても精神衛生上良くない。踵を返しドリンクサーバーのある所まで戻り、本来興奮作用のあるコーヒーなんかで落ち着けるわけはないのに、ブラックのボタンを押して吐き出されたそれを一口飲んで、その場の机に置いて深くソファに腰かけた。
 …これはやはりあれか、どうなんだ。こんな超単純的な心理戦、…ですらないだろう、にしてやられてしまうとはどういうことだ。いつから、どこから、なぜだ。…心当たりはあるが。だからってそれ以前も彼女のことが気になっていたかと言われたら答えはノーだ。そうはっきり言えるが、嫌いではなかったし、付き纏われても不快に思わなかったのも事実だ。…いやだが、現実的に、ただの禁断症状だという線もあるんじゃないか。依存症だったのか?中毒だったのか?そんなことはないはずだ、あまりにもバカげている。もしそうだったとしても耐えられるだろう、耐えられるべきだ、――そもそも耐えるってなんだ、なんでそんな言葉が選ばれる。

「狡噛、お前、おもしれーつっただろ、」

 ひたすらに、机の上に置いたままのコーヒーと睨み合いをしていたら、いつかのように笑いを堪えている声をした佐々山のものだろう手が俺の肩に乗せられた。何分経ったのか定かではないが、わざわざ追いかけてきたらしい。

「…何がだ」
「惚けんな。アイツのこと、嫌いじゃないんだろ?」
「うるさい。それに、彼女と話せないのもお前のせいだろう」
「は?いつかの仕返しに決まってんだろ」
「…お前、そんなに根に持ってたのか」
「まあいいけど、あれから俺も作ってもらったし?」

 ニヤついた顔で俺を覗き込んでくる佐々山の表情は相当に憎たらしい。羨ましいだろなあおい、まあ俺は食ってみたかっただけだけど、と俺の脳天にぐりぐりと拳をめり込ませてくるそれを振り払う気にもならない。頭が痛い。

「嫌いじゃないって、お前、そういうことだぞ」

 しかし、こうまでされないと気付かなかったかもしれない。