家に上がる
突然の約束、突然のデート、突然の雨、とまできて、突然の送り狼、にはなってない、が、部屋に上がり込んでしまった俺は猛烈に後悔している。ほいそれと付いて来てしまった俺も俺だが、躊躇なく男を部屋に入れる彼女も彼女だ。
少々悪そうにしながらも彼女の顔は真剣そのもので、先ほど唐突に彼女が寄ったコンビニの袋を突き出されたから受け取って中身を見れば、男性用下着がはいっているし、ずぶ濡れに付き合わせたのだから当然の処置ぐらいにしか思ってないに違いない。彼女のシャツは透けていて、下着のラインがはっきり際立って、気を揉んでいたら、ネクタイを引っ掴まれてあれよあれよと部屋にまで連れてこられてしまった。しかし彼女に悪気はないので無碍にするわけにもいかず、冷えたのも事実ではあるし、もう仕方ないのでやけっぱちになった俺は彼女の家でシャワーを浴びて数分もせず出てきたところだった。下だけはいていれば構わないだろう、彼女の身体が冷える方が心配だ。
先に入れと再三言ったが、彼女がてこでも動きそうになかったのと、部屋着に着替えようと、その場でジャケットを脱ぎ去ってシャツのボタンを開け始めたので俺の方が風呂場に逃げ込む羽目になったのだ。
「――お先です、ほら、も早く入ってくれ」
「っわあ!まだ服乾いてない!」
「自分でやるから、早く」
「狡噛くん肌色が多い!」
初めて彼女の部屋着姿を見た、そういえば、そもそもスーツ以外の姿を学生服しか見たことがない。わたわたドライヤーを俺に渡した彼女が脱衣所に消えた。彼女の家というだけで嫌に緊張して数か月板についていた敬語が顔を出した。一番初めは学院で彼女が学生に紛れていた時に出会ったのだから、就職してから彼女に敬語を使うのにまず慣れなかったというのに。
しばらくして自分の服を乾かし終えて再度身に纏ったところで、彼女が風呂から上がってきて、「狡噛くん、ちゃんと温まれた?」と聞いた。風呂上がりの彼女の頬は火照っていて、濡れた髪からはまだ水滴が滴っている。目に毒だった。「髪、乾かせ。おかげで俺の服はすっかり乾いたから」とドライヤーを返せば、受け取ろうとしない彼女が「えー?乾かしてくれないの?」
彼女は唐突にこうやって人を挑発するきらいがある、今回は、どちらかといえば強請っているのかもしれないが、その度に俺は振り回される。彼女がクッションの上に座って俺に背中を向けた。いつものように襟がないから、白い首や肩が剥き出しになって俺を誘っている様だった。邪な思考を追いやるように一心不乱に彼女の髪をドライヤーで乾かしていながらも、しっとりとしている肌や、彼女の香りが俺の理性を蝕んで行く。「次は前」そんなことも露知らず、くるりと向き合って座った彼女の首、鎖骨、顔を逸らしていたら、機嫌が良さそうにしていた彼女が静かになって行って、「…狡噛くん、さっきから一言も話さないね、怒ってる?」頓珍漢な勘違いをしていた。「怒ってない」言いながら、やっと乾き終わってぱっと手を放して立ち上がろうとすれば、彼女が口を開いた。
「ごめん、狡噛くん、やっぱり下着の種類違った?」
「……合ってました」
「ほんと?それ一種類しか残ってなかったんだけど良かった!」
立ち上がる気力も失せて、頭を抱えていたら、ごめん狡噛くんの髪生乾きだったんだね、とそのへんのタオルを引っ掴んだ彼女が膝立ちになって俺の頭をがしがしと拭いた。俺の眼前には彼女の胸元が位置している。
「、なあ、俺も男なんだが」
「うん?さすがに見たら分かる、あ、車呼ばなきゃね」
俺の頭にタオルを乗っけたまま手を放した彼女の腕を一本ずつ掴み取って彼女を伺い見た。「どうしたの?」それから押し倒したが、「なあに?狡噛くん」俺の脳内を覗き見ることのできない彼女の、絶対的な信用を映している純粋な瞳を汚すことは俺にはできそうに無かった。
→
←