デートする
「お前ホンット頭悪いな一回死なないと治らねえんじゃねえのか、さすがの俺も狡噛に同情するわ」
「止めて止めてささやめあああ」
わーきゃー聞こえる一係に踏み入ったら佐々山が片手間に彼女を椅子ごとぐるぐる回していた。ギノは無視して黙々とキーボードをたたいている。
「佐々山、やめてやれ。」
「狡噛くん助け、たす、」
佐々山が手を放して、ぎっと俺が椅子を止めてやると、「あああああ」遠心力で彼女が吹っ飛びそうになって、彼女は肘置きを必死につかんでいた手を放して俺に抱き着いて止まった。そんな些細なことでも彼女が俺の方を選び頼った事実がひどく嬉しい。重症だ。「目がまわ…ま…」彼女の頭がぐるぐるゆらゆら上下に揺れている。「ちょっと離せ、反対に回してやるから」彼女が手の力を緩めたので、彼女を上から軽く支えながら二回ほど反対に回してやると、息をついた彼女が椅子から降りて、ふらふらしながらやっと私物を鞄に詰め始めた。
「おーおー、あそこのラーメンはうめえんだよ、サイドメニューもいけるんだぜ、餃子とかな、でもお前は連れてかねー」
「狡噛くんもラーメン食べたいんだって、って話をしてた」
「おっまえ、……、佐々山には本当なんでも言うな…?」
「や、でも、狡噛くん寂しいだけだって教えてくれたし、やっぱりラーメン食べたいわけじゃないんだって?」
「ばっ…別に寂しいわけじゃ、「お?俺の親切心を無駄にすんのかテメエ?で?礼はどうした?」……今度煙草1カートンやる」「やりぃ」「……佐々山、ギノも、お疲れ。またな」「宜野座くんお先、佐々山は宜野座くん困らせないようにね」
彼女が鞄を持ってひらひらと二人に手を振った。
「行こう、」
彼女に手を差し出して、俺の手と顔を交互に見た彼女が、おず、と手を出したので、手を繋ぎ合って廊下を歩く。落ち着かなさげにちらりと俺を見やった彼女の動きが可愛かった。そういえば、こんな風にちゃんと手を繋いで歩くことも初めてかもしれない。
***
「わ、すごい人だね」
「はぐれるなよ」
そう言った狡噛くんはさりげなく私の手を取った。ちゃんと握り返す。それから、公安とは違い、するりと指の間を弄って解いて、指を絡めてきたので驚いた。間接が丁度よくはまって苦しくも隙間が空いているわけでもなく丁度良かった。普通に恥ずかしい。ダメだ考えないようにしよう。意識するから恥ずかしいのである。周りには露店が立ち並んでいて、顔をあげればライトアップされた見頃の桜がとても綺麗だった。真下からじっくりと花を観察してみたりなんだの、遠くから全体像を見てみたり、ピンクに白に可愛くて写真を撮っていたら二人でも撮るか、と内カメラを起動した狡噛くんを恥ずかしいから撮らないでと慌てて止めたり。でも実は私は隠し撮りをしてしまった。ごめん、私狡噛くんの顔もすごく好きなの。
私は大変満足したので彼の顔をうかがったら、そろそろ行くか?と言ってくれて、ぐ、と思った。好き。それから近くのデパートに移動して、軽くウィンドウショッピングをし、ちょっと休憩しよう、とフロアのふかふかのソファに座った。デバイスを起動して、さっき撮った写真を狡噛くんと見ていたら、彼がそういえば、と口を開いた。
「プライベートの連絡先、教えてくれ」
「仕事用ので困らなくない?」
「そりゃ困りはしないが、あんまり仕事以外で使うもんでもないだろ。それに俺が知りたいんだ」
はにかんだ彼の直球に打ち勝つ何も持ちえなかったので、潔く教えた私はさっき盗み撮りした狡噛くんの写真を送っておいた。「おまえ!」仕返しだとカメラを起動した狡噛くんが私を撮ってこようとするのでしばらくの攻防が続いた。多分私たちはめちゃめちゃいちゃついてるバカップルにしか見えないと思う。…恥ずかしくなってきた。仕切り直そう。
「狡噛くん、私おなかすいた!」
「あー、そういやそうだな。なんか食べたいもんあるか?」
「えっ…うーん……結構なんでも食べるから……」
「苦手なものは?」
「……思いつかない」
う~ん、と首を捻りながら近くのレストランを検索する。レストラン街もいいが、もうちょっと物珍しそうなものとか、狡噛くんが喜ぶものが良かった。
「あ、狡噛くん、このへんで有名なお店の席が空いてる」
「ハンバーガー、ってなんで知ってるんだ」
「え~?狡噛くんも知ってる差支えないところで言うと、宜野座くんはパンでしょ、佐々山は煙草、征陸さんは油絵、昏田は音楽」
「…たまに、お前が先輩監視官だって現実を急に思い出す」
「普段は忘れてるの?ひどい。電話してみていい?」
「ありがとう」
彼の直球の言葉はいつも心臓に悪い。
***
無事にご飯にありついて、本当に凄く美味しかったので今度また興味ある人を連れてきたい。それが好物だという筋の人間が絶賛するのだから大丈夫だと思うし確かに美味しかった。雰囲気もよくて、おいしかったねと店を出たのに突然激しく雨が降っていて、あまりに凄い土砂降りだったので、雨特有のにおいといい、非常に楽しいことになっていた。ちょっと謎にテンションが上がってしまった私は駆け出して久しぶりに雨に打たれて遊んでしまっている。
少々気がふれていると思われているかもしれない、しかしこんな所業は日東学院に潜入していた時から狡噛くんは盗み見ていたようなのでまあ慣れてるだろう。名前を呼んで後ろを追ってきた彼も、もはやずぶ濡れである。あはははと歩き出したら私はふと冷静になってしまった。目の前にコンビニが見えたのだ。後始末についてが脳内で展開されてしまった。どうにかしなければ。彼をずぶ濡れにしてしまった。
「ごめん、私の家は近いんだけど、狡噛くんの家、私知らない、遠い?」
「そこまでは、」
「そっか、ごめんね、あ、私コンビニ寄りたい、ちょっと待ってて」
狡噛くんが付いて来ようとしたので、私の鞄を狡噛くんに持たせてその場で待機を命じると、根っからわんこなところがある彼は不思議そうな顔をして大人しく外で待機していた。えらい。コンビニの人ごめん、せめてもと靴の裏をマットで綺麗にして入店して、男性用下着…Lでいっか…幸いにも一種しか残っていなかったのでもうこれでいいことにする。さすがにみんながどのタイプのパンツ履いてるのかまではちょっと知らない、違うタイプのパンツ履いてる人だったらごめん狡噛くん。
「ごめんお待たせ」
「何買ったんですか?」
「えっ、や、たいしたものじゃない」
適当に濁しながら雨の中をスキップしてくるくる回って遊びながら世間話をする私、冷静さはコンビニに置いてきた。対処法を手に入れてきたので。私が楽しんでるのを分かってるのかもはや無駄と思っているのか何なのか車を呼ばない狡噛くん、けどどうあっても送ってくれるのが当たり前らしい、これだから!これだからこの人は!
ほどなくして自宅についた私はエントランスで名残惜しそうにしている彼のネクタイを引っ掴んで連行する。エレベーターに乗って、「いや、さん、まずいんじゃないですか」「なにが」廊下を歩いて「どういう意味なんですか」「へ?」認証を済ませて部屋の扉が開いたので、彼を無理矢理家におしあげてお風呂場に連れて行って、コンビニで買った袋を突き出しながら命令する。
「シャワー浴びてから帰って、その間にドライヤーで服乾かして車呼んでおくから」
ごめんね、とりあえずずぶ濡れに付き合って遊んでくれた狡噛くんへのせめてもの礼である。でもお前が先に入れと言うばっかりで、全然入ってくれそうになかったので、とりあえずタオルを出して狡噛くんに投げつけて、自分の部屋着も引っ張り出して、微動だにしない狡噛くんの目の前でスーツのジャケットを脱いでシャツのボタンを一つずつ開け放っていってみたら、早くも二つめのボタンに手をかけたところで、目論見通り観念した狡噛くんがどたばたとお風呂に入って扉を閉めた。
「早く出てってください!」
ピュアだ。きっと狡噛くんはそういうことを考えない人に違いない。いや、考えはするのかもしれないが、私の頭ではあまり一致しないという。私の中の狡噛くんはいつまでもピュアで無垢で純真でとてもかわいいのだ。
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