6  ぐすぐすぐす2日前は学校がお休みだったのに私は学生じゃないので公安に出勤しなければならなくてね、泣く泣く出勤して報告書提出してました。全然進捗無いの。やっばーい怒られそう。だったので偽名の件も伏せました。あはは。結果が出れば許してもらえると信じさせて。私の色相のために!もう開き直ってやる。

 と昨日はやっと休みで約束していた通り佐々山をラーメン屋に引き摺って行ってやった。八握も突如ついてきた。ラーメンはおいしかった。二人の面倒を見るのは結構大変なので大変、でも佐々山は捜査中でなければ人としては全くどうして信用できるやつなので実質八握一人の面倒を見ていればいいのでまあ。にしても週休2日を下回るなんてとんだブラック企業、ブラック国家じゃないひどくないシビュラ?!なんて話しながら、二人がサイドメニューで頼んでた餃子とかチャーハンも少しずつもらった。おいしかった。楽しかった。よかった。
 …はあ、この事件が終わったら一気に休日ぶんどってしばらくどこかに旅に出るからいいんだ。雑賀先生のお宅に突撃ピンポンしてワイルドライフでも過ごそうかなと思っている。楽しみ! 明日よ私を捜さないでください。

***

 おはよう朝、学校、仕事。私は学生であり監視官であり誘拐され待ちのか弱き乙女。
 二人目の少女の行方は未だに分かっていない。廃棄区画にでもいるんじゃねえの、と佐々山が昨日私をバカにしてきたんだけど、ほいそれと捜査許可が下りないんですってば、ついでに場所もいまいち絞り込めていないし、重い捜査をするには人も亡くなっていないし色んな許可が下りないんですってば。ぐす。頑張れ私。

 さて次の講義室に行くために、綺麗に整備されている中庭を、だらだらぼっちで歩いていく。でいだらぼっちではない。とても帰りたい。今日の日替わり定食だけが楽しみだ。うわーん!

「――壌宗!」

 ぼけぼけ歩いていたら、突如空間を切り裂くような絶叫が聞こえて、反射的にそちらに振り返った。ら、狡噛くんが一直線に私に向かってきていて、彼に突撃された衝撃を受けて視界が凄まじく揺れて回転した中でがっしゃーんと凄まじい音がしたのを聞いた。何かが割れたような音だった。
 ――とにかく状況を確認しなきゃ、ぐ、と起き上がろうとしたが、凄まじい力で押えつけられているようでびくとも動けなかった。もがいていると、狡噛くん、が詰めていた息を吐き出して、全力疾走で不安定になったままだったんだろう呼吸を整えているようだった。離して、何が起きたの?犯人を追わなきゃ、君は大丈夫なの?――落ち着かなきゃ。ひと息。
 私も深呼吸すれば、狡噛くんの腕が私の腰と頭を抱いていて、がっちり守られているらしいことが分かった。それは起き上がれるわけない。ありがとう、もう大丈夫、離して、犯人を追わなくちゃ、再度もがきながら冷静さをビット取り戻した私は声を出すという選択肢を手に入れた。しかし私の顔面は狡噛くんのシャツに押し付けられているので「んんんん!!」残念ながら言葉にならなかった。未だ上下する彼の胸に私の身体も従っている。私が狡噛くんの上に重なって乗っているのだ。大丈夫なの、君は無事なの?
 でも確かに運動神経がいいらしい、私に飛びついて、そんな中で回転して、自らを犠牲に背中からずべしゃーと地面に着地したと思われるので。
 しばらくして頭に回っていた腕が離れたので、やっと私は顔を上げることが出来た。「……っ、大丈夫か」苦しそうな声でやっと狡噛くんが言葉を発した。「狡噛くんは!?」「大丈夫だ、ちょっと背中を打っただけで済んだ」
 狡噛くんが私に回していた腕をほどいたので、彼の上から退くと、彼も起き上がってこようとしたのでそれを制する。「頭を打っているかもしれないから安静にしていて!」彼にそこまで目立った外傷は見受けられない。私が無傷なのは君のおかげだ。狡噛くんはシロだな、これは咄嗟の判断だった。本当に、頭を打ち付けていなければいいけど。
 立ち上がって周りを見渡せば宜野座くんと目があった。はっと周りの時間が動き出し、「コウ!禾生!」宜野座くんがこちらに走り寄ってくる。音に驚いたんだろう、窓から身を乗り出してこちらを見ていた先生Aが慌てて走り出すのも見た。あの先生こないだ私たちに怒ったのに!走ってるじゃないか。お願いだから早く来て。次いで向こうにコミッサ征陸さんの姿も見えた。これでこの場は大丈夫だろう。
 さて、どうやら私が居た場所に植木鉢が落ちてきたみたいだけど。ご丁寧に土まで本物だったようだ、散乱している。しかし肝心の花か何かはホログラムだったんだろう、一体何を飾っていたのか、はたまた飾っていなかったのか。
 大変な事故なのか些細な事件なのか判断に悩むところだな。でも狡噛くんが居なかったら私は大変なことになっていただろうというのは事実だ。しかし先ほど犯人を追わねばと決めつけて狡噛くんの上でじたばたしていた私も全然落ち着けていなかったということが分かった。落ち着かなきゃ。

「宜野座くん、私は大丈夫。狡噛くんをお願い。私、先生に伝えに行ってくる」

 これが事故でなければ、状況確認をしてドローンを配備し犯人を追わなければならないのに、そんな風に出来ないだろう、証拠がない。学校さんに拒否されてしまうと思う。
 それの落下場所から窓の位置を予測するが、最上階は監視カメラの死角になっていた一棟のはずなので、おそらくそこから。勿論そこに至れる経路のカメラはチェックして生徒を絞り込むことは出来るが確定は出来まい。ていうかこないだの女子生徒は行方不明で凄惨な目にあったっぽいけど生還してるのになんで、私のことは下手したら殺そうとしなかった?
 コミッサ征陸さんに現場処理や生徒たちのストレスケアをすれ違いざまに目を合わせて頷くだけというテレパシー込みでお願いし、人目につかないように気を付けながら走って行く私は、あたりを見回して誰もいないことを確認して、例の棟の立ち入り禁止非常用避難通路内に閉じこもる。実はマスターキーを持っているのでどこへだって入れるのでした。でもちょっと学生としての生活が板についてきていたので凄まじい罪悪感のような背徳感のようなやってはいけないことをしているドキドキ感はなくもない。
 胸元からデバイスを取り出して諸々の連絡を済ませ、真流さんにも解析をお願いしながら、自分でも監視カメラをチェックしていく。
 禾生さんは早退したんだよ。助けてくれた狡噛くんを放って。宜野座くんがついてるし、先生が来るだろうから大丈夫だとは思うんだけど。征陸さんもいるし。
 本当にヒヤッとした。落ちてきた植木鉢で死ぬとかいう地味な死因の監視官なんてイヤだ。狡噛くんごめんね、ありがとうね、でもお姉さん仕事しなきゃいけないの。今度なんかお礼させて。とっても心苦しくはある。
 監視カメラには顔の可愛い女の子も映っていた。彼女の手は目視では汚れていない、今のところあの後からお手洗いにも入っていない、いやでも顔が可愛いからトイレに行かないのかもしれない。
 だから私は監視カメラを追いながらとりあえず彼女が通っただろう経路を全て見て回ってゴミ箱でも漁らなきゃならなくなった。まあカメラの死角はそこまで多くは無いので…といってもとりあえず最上階まで原始的な非常用階段を上がらなければならないのは確定である。つらい。がんばってあがるよ…。
 ぜえはあ、なっている息を整えてから、数分で済むだろうしまあいっかと適当な顔のホロコスをかぶった。誰かいたら先生に頼まれてふぇえとか言おう。ザ・運任せ。でも誰も気づかない気にしない気はする。そろり、と非常用扉から出た私は、清掃委員ですとでもいうようにゴミ箱ごと拝借し、堂々と廊下を歩き階段を下って行く。やったー!一回目の賭けに勝った!誰もいなかった!
 んけど。待ってほしいめちゃくちゃ重たいんだけどこれ。いじめすぎるでしょ。いやいうほど重くはないかもしれない、でも全く軽くは無い!
 肉体労働が過ぎる本日。根性で事務室に辿り着き、後ろ手に扉を施錠したところでホロ顔面を解いた。
 既に中庭の話が伝わっているんだろう、なんだこの忙しい時に!と騒がしく、しかしわけがわからないという顔をしていた先生諸君が、私の素顔を見て「あ」と、やっと手を打ったので、このゴミ箱があった場所を伝え、補充してくるようにというのと、人ひとり入れるようなサイズの箱でもゴミ箱でも何か一つください、と発言する。
 それからは数名の男性職員が手伝ってくれたので、ゲットしたこのゴミ箱を駐車場まで持って行くのは非常に楽だった、というかやってもらえた。どうも。他のゴミ箱はいいのかって?いいの、蓋を開けたら思いっきり土のついたそれっぽい手袋が入ってたからいいの。便乗犯の可能性は考えなければならないけど、まあ十中八九同じ犯人だろう。そう何人も色相が濁っている人がいたら堪らない。
 あとそんな大きな箱はありませんでした、って新品とはいえどゴミ箱を差し出された私はその色よろしくブルーな気分だった。悲しかったので、やっぱり人らしくいたい…と思ってこっそり胸元からデバイスを出して大きめの車の迎えを帝塚さんに頼んだら、今しがた第二被害者が保護されたので行けないとか言われてしまった。ナンダッテー?
 あの子じゃないのかな。まあいいや、とデバイスをいじって護送車を回させて、そろそろ騒ぎも収まっただろうから征陸さんにもメッセージを送る。
 して、数十分後やってきた護送車に、コミッサ太郎がゴミ箱とドでかいゴミ箱を回収して乗り込むとかいう恐ろしくストレンジでファニーでクレイジーな図を我々は作り上げてしまったのであった。幸い私はゴミ箱の中に隠れていたので存じ上げません。それは幸いなんでしょうか。我々は公安局へ早退だ。

 さて、護送車内でゴミ箱をひっくり返して指紋やらなんやらがめちゃくちゃになっても困るので我慢した私たちはやっと公安局へ帰ってこれた。もうこれ以上肉体労働をしたくない我々は、出迎えたドローンにそれを任せ、分析室で解析が完了するのを待っている。指紋さえ一致すればあとは彼女らにドミネーター向けるだけで全て終わると踏んでいる。というか監視カメラに映っていた生徒全員の色相チェックすればいいだけなんだけど。
 が、先ほど第2被害者が保護されたと帝塚さんが仰っていた。学校からほど近くの廃棄区画周辺で保護したらしい。――あの子じゃないのか、複数犯か、廃棄区画の人間も関わっているのか、雇われてでもいるのか。まあよく分かるはずもない。被害者はまた口がきけない状態らしいし。何しろ廃棄区画なのだから。
 いずれにせよ、ゴミ箱の中身にその彼女の指紋と土の成分が検出された手袋が入っておりましたので、色相チェックさせてね!という文書を学校に作らねばならない、嫌すぎる、帝塚さんやってください。私は今日もう疲れました。お願いです。