4  と、四日目。講義中、死んだ顔を偽ってそれっぽく話を聞くのに苦痛を感じるようになってきた。事情を知らない教職員もいるからわりかしちゃんとしていなければならないのだ。つらい。私はそれなりに刑事課での仕事が好きだったらしい。たまに非日常が送られると色々わかることがあってよろしい。要約すると飽きてきた。慣れたともいう。

 なんとか乗り切った放課後、人工であるが夕焼けがまあそれなりに良い色だったので、誰も居なくなった自習室の窓側に椅子を置いて、窓のさんに突っ伏しながらだらだら眺めていた。多分軽く寝ていたと思うんだけど、うとうとしていただけだよと言い訳をさせてほしい、とにかく扉がガラッと開いて誰かが入室されてきて、ぴゃっと飛び起きる羽目になった。おっおっ犯人かな。私を狙ってきたんだろうか。寝たふりしとく? 自意識過剰が過ぎるかな、まあなんにせよ一発KOされたらシャレにならないので、ぼやぼやしている頭でゆっくりと振り向くと、そこにはなんとウワサの狡噛くんがいた。

「やっぱり禾生さんだ、まだ残ってたのか」

 西日がいい感じに彼に当たって顔が良かった。すごい。狡噛くんが犯人だったりしないのかな。ドミネーターを引っ張ってこれたら直ぐ分かるのに、校内で騒ぎにしたくない学校さんのせいで出来ない。まあ大体の目星はさすがの私でもついていなくもないが、街頭スキャナーにも引っかかってないし、確固たる証拠もない中で捕まえるわけにもいかないのだった、冤罪の可能性だってまだまだある。

「狡噛くんはどうしたの?」
「あー、えーと」
「うん?」
「いや、まあ、勉強をしようと思って。禾生さんは?何してたんだ」
「私?――私は獲物を待ってて…」
「獲物?」

 しまった口が滑った。にしてもこんな時間から勉強か…。狡噛くんが適当な椅子に座った。きっとだから頭がいいのかもしれない。頑張って。私には無理だよ。というかそういえば狡噛くん同じ学部学科だったんだよね。ごめんね全然顔と名前が一致してなくて。データ上では知ってたよ。ならまあ丁度いっか。とりあえず狡噛くんをどうにかしてみるのも一手なんだ。ごめん狡噛くん。学部の中心のあの女の子集団と私の仲が険悪になれば、犯人は私をもうちょっとどうにかしやすくなるだろうというのもある。

「そう、君みたいな」

 がたりと立ち上がって彼の隣の席に腰を下ろした。普段はきっと宜野座くんの定位置かもしれない。ぐっと顔を近づけたら、狡噛くんは面食らってあわあわしそうになっている。可愛いと言ったら失礼かな。なんでこんなに顔がいいんだろう。……私狡噛くんの顔が好きなだけのファンみたいになってるところがあるな。なんかごめん。

「…禾生さん?」
「呼び捨てでいいよ」

 なんだろう、という感じに私の顔を見る彼はやっぱり結構可愛い顔をしている。宜野座くんはツンデレの権化みたいな、なんか、目つきが鋭いし、物腰が柔らかいわけではないから、近寄りがたい雰囲気がある、ので、撫で回してお菓子をあげたくなる、そしてギャーギャー言われたい。対して狡噛くんは懐いた人間の周りはしっぽふってぐるぐる回って頭差し出して撫でてくれ!と言いそうなタイプというか、いや全然知らないけど、とにかく何が言いたいかというと二人とも可愛い。
 正直、宜野座くんと仲が良さそうというだけで、彼に対しての疑心を取り払ってしまいそうになるが、まあ…なんでもいっか、顔がいい。しばらく視線を彷徨わせていた彼は、しっかり私と目を合わせて口を開いた。

「じゃあ、壌宗」

 はい?

 ……はっ!
 はあ!?

 そうか私壌宗か…いまいち聞きなれていないので反応が遅れてしまった。というか、呼び捨てでいいよと言って下の名前を呼び捨てにする人がいるの?今、初めて話したよね?初対面だよね?ついでに異性だよ?あっもしかして狡噛くんあっち系?あっそれなら分かるかもしれないかもしれなくない。えっあっそれだと宜野座くんの貞操の危機だったり!?もしかして二人ってそういう関係!?とにかく距離の取り方に驚きが過ぎる。最近の子ってこんなに距離が近いの!?って二歳しか変わらないよね!?一体何が起きたんだろう。

「俺のことも呼び捨てでいい」
「…狡噛くん。勉強頑張って!私はお先に失礼します!」
「なんだ、急だな」

 また明日な壌宗、と背中に言葉を投げつけられた。意味が分からない。
 はあああ。なんか一気に疲れた、でも狡噛くんって女子を名前で呼んでいたっけ?
 ……なんか私給料泥棒してる?全然仕事してない気がしてきた。帝塚さんにしばかれる、まずい、怖い。明日から本気出そう。