ペンギンが、寝室や書斎などの小部屋を除く家中を散策したのち、…リビングでいぬもちの上に乗り、腹をつけて転げている。首まで伸ばして、完全にリラックスしているザマだ。…自由な奴だな。やはりコイツは自分のことをペンギンだと思っていないだろう。段々分かってきたぞ。
 ひたすらペンギンに付いて回っていたは、今はペンギンの隣でペンギンの生態についてひたすら勉強しているようだった。インターホンが鳴ったが、全く気が付いていない。集中しているんだろう。

 ドローンから、届いた魚を受け取って振り向くと、ペタペタとペンギンがこちらへ歩いてきていた。よく分かるもんだな。隣に居たペンギンが動いたからか、さすがにも顔を上げていた。ペンギンは、……ペンギン。

「…ペンギン、お前名前何て言うんだ」
「……」
「施設でお名前つけられてなかったんですか?」
「ペンだったか?何かあったような気もするんだが…あまりに笑える事件で頭から抜けた」
「珍しいですね。まあそれなら、ペンでいいんじゃないですか」
「ギェー」
「ギェーがいいですか?」
「クァー……」
「うーん。ペンちゃん」
「クァー」
「クァー?」
「クァー」
「なら、クァー。ちょっとそこ上がれ。汚れるから」

 近寄って来たペンギンを玄関のとこに上がらせ、魚を頭から一匹投げつけてやる。…落としやがった。「…お前、キャッチして食え」「ギィエー」「バカにしてんだろ」

 魚をもう一匹放り投げるが、ダメだ。ムカつく顔をしている。も隣に来てしゃがみこみ、餌やり風景を眺めている中、もう一匹やるが、「ッグェ…」……。

「あ、尻尾から食べてる。何でですか?頭から食べないと、今みたいにウロコが詰まりますよ。喉が痛くなっちゃいます」

 クァーがを凝視していて、は喉を指しながら顰め面をしている。…なるほどな。

「一匹ください」

 言う彼女に魚を渡すと、微笑みながら魚を頭から食べるジェスチャーをし、「いい子だからできますね?」俺だって言われたこと無いのに。しかも彼女は更にクァーの頭を撫でさえした。早いとこ躾けて施設へ返さねば。
 彼女はそれから魚を投げたが、……アホみたいなところに飛んで行ったのに、キャッチして食いやがった。頭から。クァー、お前。

「何で。お前説明されないと分かんないのか?鱗処理してない魚を尻尾から食べたら食道にツカえるなんてちょっと考えたら分かんだろ。本能と感覚で分かるべきだ」
「ギィエエエ!」
「説明したら分かるなら偉いですよ。ね、クァーちゃん」
「クァー!!!!」

 このペンギン、アホなのか賢いのか分からない。報復に数尾盗みつつ、バケツごとに任せ。俺は急いで手を洗い、動画と写真を撮ることに専念する。
 もう一匹、もう一匹とが魚をやっていき、ちょこちょこ動く彼女の動きが可愛いが、…やっぱ、運動ダメだな。

「クァフ」

 しばらく食って、クァーが満足気に裏返った。表情豊かな奴だが、…コイツやっぱり中身おっさんなんじゃないのか。気に食わん。

「食べて休んだら運動です」

 は、結構な教育ママか何かになりそうな気配がする。初めて見る一面だ。俺はかなり自由に育ったので、…いや、やめよう。…にしても、さすがに不憫だ。

「今日は勘弁してやったらどうだ、コイツも疲れてるはずだ」

 いつか、と母さんを会わせなければならなくなったりするのだろうか。…は結構育ちが良いだろうから、…もしその時が来たら、俺が少々やんちゃしていた時期のことは母さんに伏せてもらわねば。

「それもそうですね。明日は、私輪投げしたいです」
「家にないだろ」

 目をぱちくり俺を見ていた彼女が腰をあげたから、先に行って水道のレバーを押してやって、…生臭い手を洗った彼女は、輪投げの輪をお急ぎ便でぽちっていた。…明日届くようだが、…アシカかなんかと、勘違いしてないだろうか。