「……っわ、」
「おはよう」
「えっと、あれ、?」
「大丈夫だ、落ち着け」
起きたら目の前に狡噛さんの顔があった。一瞬、彼の瞳が青く見えた。怖くはなかった。いつもより気の抜けたような顔をしている狡噛さんが、私の頭に手をやってぽんぽんとあやしている。
「おかしい、狡噛さんが優しい、」
「…昨日も優しかっただろ」
「普段からそのくらい優しくしてくれてもいいですよ」
「少し元気になったか」
「おかげさまでと言うべきですか」
「いいや。――腹減っただろ、起きるか」
狡噛さんがベッドから抜け出て私に手を差し出した。その手を取って彼の後ろをついていく。先週に戻ったみたいに思えるのに、心の中でヒモさんと呼べなくなったのに少し違和感がある。今は私がヒモと呼ばれてしかるべき状況かもしれない。私はヒモじゃない。狡噛さんが扉を開けると、リビングには青が散らかっていた。少し驚いて、繋いでいた手に力が入ってしまった。
「あー、すまん、忘れてた。今片づける。戻ってろ」
「いいです、慣れないとしょうがありませんから、ちょうどいいですよ」
「怖いなら無理しなくていい」
「別に、一人じゃないですから」
目を閉じれば未だバケツをひっくり返したような青の上にいるんじゃないかと思える。生暖かい感触が背中に思い出される。あれは人間だったのだ。
「…色相を見ていいか」
「勝手にしてください」
「昨日よりは犯罪係数は下がってるな、でも無理は禁物だ」
「別に平気ですよ」
「眉間にしわが寄ってるから言ってるんだ」
「デフォルトです」
狡噛さんについてオートサーバーの前に並ぶと、彼は訝しげに私を覗き込んだ。失礼な。
「……今日は何を食べる」
「自分でやります」
「座ってていい」
「自分でやります」
「気を遣うな、自由にしてくれ」
「そんなこと言われても、私は狡噛さんほど図太くはないですよ」
「…やっぱり片付けるか?」
「気を遣ってるのは狡噛さんじゃないですか」
「あ゛ー、お前まだ混乱してるだろ。二度寝しよう」
「してません」
「お前が食器を片付けるかと言ったんだ」
「…ひっかけ問題じゃないですか」
「いつものお前ならひっかかってない。俺がイラついたのに気付いたはずだ」
*
「ん、お腹空いた…」
「よく寝てたな、おはよう」
眠いし。お腹空いた。まだ少し混乱している。ずっと一緒に居てくれたんだろうか。
「……すみません」
「いや、報告書を書いていた。問題ない」
うつ伏せに投影キーボードを叩いていたんだろう彼が、上体を起こし私を見た。
「…甘いものが食べたいです」
「持ってきてやる、寝てろ。食ったらまた寝ろ。まだ夜だ」
「病人ですか」
「大差ないだろ」
彼は私の頭をひと撫でしてから、立ち上がり背を向けた。
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