「真流さん、もう一度聞きますが、墓地周辺のスキャンに掛った怪しい人物はいなかったんですね」
「ああ、該当者なしだ」
「現場にも誰も居ませんでしたしね」
「廃棄区画で襲ってきた人も下っ端の雇われでしたよー。困りましたね~!」
「ヒナ、全然困ってなさそう」
「しかし、墓地で犯人が話を聞いていたとしか思えません。どこで彼女の眼のことを知ったのか――」
「…和久さんは、あの絵具をご覧になられましたか」
「ええ、作品も、絵具も、画像データでも、全て赤に見えました。彼女は赤色を見ることが出来ないようですね」
「はい、先ほどの検査結果でもそう出ました。先天性で、眼鏡も効かないそうです。…すみません、俺が気づいていれば」
「元々の彼女の個人データが改竄されていたんです、仕方ありません。彼女と話したとき、彼女はあの色を“深みのある色”と言いました。僕もそれを気にできなかった。皆さん、すみません」
「みんな無事だったんだ、二人とも気にしなさんな。――問題は誰が何故、嬢ちゃんのその眼を欲しがってるかだが…」
「…本人は全く心当たりがないらしい」
「僕もそう聞きました。少し色相が濁っていたので、彼女には今セラピーを受けさせています」
「…せめて絵具の出処が分かればな。この物質がどうにも解析できないのが痛い、解析どころか物質をスルーされるからそもそも検出がされない、…画像データ――デジタルでは何らかの処理が行われているんじゃないか? だからネット上の画像や、オンラインの競売では問題がなかったのかもしれない」
「シビュラの目を騙す物質ですかー…」
「どこの誰が作ったんでしょうね、またはどこから持ってきたのか」
「それに嬢ちゃんの親族はどうだ、父母は事故死、母親方の祖父母は老衰。父親方の祖母は他界で祖父は老衰とあるが、これもどうだかな」
「彼女の親戚に話を聞いたところ、皆彼女を知らないと口を揃えました。交流は無かったようですね」
「謎の多い人だね」
「実はもっとお金持ちのお嬢さんだったりするんですかね~?」
「被害者の人は今も普通に金持ちだろ、あれ以上いらねえよ」
「やはり、現時点では情報が足りない。とにかく、犯人は彼女の眼を求めてまたやってくるでしょう。今は待つしかありませんが…ひとまずは、彼女を隠してしまいましょうか」
「焦らして、しばらくしたら釣り上げる、と」
「けど保護するところなんかないんじゃないですか、クリアカラーなんでしょ?」
「俺ら潜在犯と同じ官舎に入れるわけにもいかないしなぁ」
「狡噛さん、頑張ってください~」
「――ああ、その手がありましたか。もしかしたら犯人も釣れるかもしれませんし、丁度いいですね」
「ちょっと待ってください、まさか、――その理論でいくと和久さんのお宅でもいいはずです」
「勿論僕は構いませんが、本人に聞いた方が早い。今度は狡噛君も来てください。皆さんは解散して構いません、お疲れ様でした」



「……和久和久さんじゃないですか」
「まだ冗談を言う元気が残っているとは、タフなお嬢さんですね」
「お前セラピー受けられるんじゃないか。色相はどうだ、…って何故さっきより濁ってるんだ!?どうした?」
「…セラピーのせいですよ!ほっとけばそのうち治るって言ったのに、和久さんが私を騙してセラピーを受けさせたんです!あんなに嫌だって言ったじゃないですか、向いてないんですよ!それにどうせまた私が囮になるんでしょう、仕方ないですよ分かってますよこのままじゃ私の眼が狙われたままですもんね、いっそのこと義眼にしたら解決しますかね、そんな選択はしたくない、嫌です、騙し討ちはもうやめてください私だって参ってるんですよ和久さん!」
「素直に謝ります、本当に申し訳ない。悪いことをしました」
「寝て起きたら義眼にされてたりしたら一生恨みますよ」
「さすがの僕もそんなことはしませんよ。ただセラピーで色相が悪化するとは本当に思いませんでした。申し訳ありませんでした。だから、可能な限りあなたの希望を聞きたいと思っています」
「…家に帰れるわけないですよね」
「現時点では難しいですね」
「今すぐ囮をさせる気はないんですね?」
「あなたの色相を戻すことをまず優先します」
「なんですか、結局、結論は一緒じゃないですか、方法が変わるだけっていいますよね」
「すみません。ですが、今回の事件の首謀者を捕まえない事にはあなたはずっと狙われ続けます」
「ええそうですね分かってるって言いました。でも私更生施設には行きたくないですよ、そこまで色相も濁ってませんから拒否する権利はあると思います。隔離施設も病院も嫌です、」
「分かってる、分かってるから落ち着け、」
「他にどんな選択肢があるっていうんですか!」
「ひとまず一週間。狡噛君に自宅待機を命じます」
「あーあーそうですか、待機ってお給料出るんですかね、サンドバッグが買えなくて可哀そうですね狡噛さん?」
「問題ありません、出しますよ。または僕の家に来られても構いません、妻と住んでいますがそれでよろしければ」
「絶対嫌です、私、いつもあなたに丸め込まれてるような気がします。家から荷物は運んでもらえるんでしょうね」
「足が付きますから厳しいです。直ぐに必要な物は申請をお願いできますか」
「画材ですよ高いですよ、絵具はそのへんで買える物でいいですけどね」
「問題ありません。あなたの色相のために必要な物でしょう、既に用意しておきました。その空っぽのリュックに入れていったらちょうどいいと思いまして」
「~~狡噛さん、」
「はいはい、入れてやるから」


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