「お腹が空いた。あと、今日は一言も話したくありません」
「そうか。了解だ」
「単純に人と話しすぎて左脳が疲れました」
「一で和、二で洋、三で中、どれにする」
「気遣いは感じますけど選択肢が足りない。狡噛さん、私が欲しているのは四番の菓子です」
「朝飯に菓子を選択するやつがあるか」

 指で4を示して机に突っ伏して待つ。オートサーバーががががが言っている音が聞こえる。

「ががががが…」
「起きろ」

 顔を上げるとプレートが置かれた。ヒモさんは覚えたらしい、言わなかったのにちゃんとコーヒーが付いてきた。しかし指定したのに菓子は出てこなかった。許しがたい。それにカップはまた2つ。どんだけ気に入ったんだろう。



「ちょっと」
「どうした」
「迅速な片づけのために手伝ってください。水こぼしました。片付けないと続きが描けないです」

 コーヒーが飲みたいと思って腰を上げたらやってしまったのだ。片付けるのが大変だ。進捗にかかわるためやむを得ずヘルプを出せば、結構率直に物を言い放つタイプのヒモさんが目線を逸らして頬をかいた。珍しい。

「あー、悪いが、雑巾とバケツを持って部屋の前を往復くらいならできる」
「濁る部類でしたか」
「濁らないのはあんたと和久さんくらいだ」
「重いものを持ってもらうのは、助からないことはないですよ。重いのと軽いのと雑巾沢山ください」

 前を歩いていったヒモさんは風呂場でバケツに水を溜めている。私は棚を開けて雑巾を全部床にほっぽり出した。

「どうなってんのか知らんがそんなに悲惨なのか」
「うるさいな、足をひっかけたんですよ」
「もうちょっと運動した方がいいんじゃないのか」
「今なら筋トレ器具がありますしね」
「教えてやろうか」
「結構です」

 嫌味に動じない男だ、まあ上司があれなら仕方ないか。数枚雑巾を抱えて自室へ戻る。しばらくしてノックされた扉を開けると、たっぷり水の入ったバケツと一緒に、私の注文通りの、雑巾が乱雑に詰め込まれた空のバケツも置かれていた。ヒモさんは私の言いたいことが分かる部類の人間だが、几帳面ではない。


07 (4/7)