「起きたか」
「はい、良い夢が見れましたよ、あの日あそこで絵を描く前の日々でした。リビングはもっと広々としていて、私は人生を謳歌していました」
「残念だったな」
「本当に。今が夢でも夢じゃなくても最悪な気分です。狡噛さん、私今日は洋食がいい。パスタ。コーヒーも付けて」
「……自分でやれ」
呆れ気味に文句を言いながらも、ヒモさんはオートサーバーのボタンを押した。椅子に座って待ってるだけでいいとはとても簡単だ。出てきたプレートにはカップが二つ乗っていた。気にせずフォークを取り、手を合わせていただく。向かいに腰を下ろしたヒモさんの手はやはりカップを一つ攫っていった。
「このコーヒーどこで買ったんだ」
「高いですよ、ヒモには絶対買えない程度には。ちゃんと経費計算してるんでしょうね」
「面倒くさいから丸ごと一つ買う、それでいいだろ。朝は勝手に食った」
「缶の名前検索したら千件目くらいに出てきますよ。どうぞ勝手にしてください」
*
いつの間にか夜になっていて、リビングに行くと布団が敷かれていた。よくよく見ると結構スペースを取るな、ふざけている。まあいい、お風呂に入ろうと脱衣所を開けたら肌色だった。視界の端に黒色をかすめたのが不幸中の幸いだろうがこれは紛うことなき不幸だ。
「悪い、使うか」
ぴしゃりと戸を閉める。
「経費で増築工事できませんか」
「さすがに無理だろ。今出るから。俺はあとで入る」
がらりと扉があいた。肌色だった。ぴしゃりとまた閉めた。
「服着てくださいよ、問題はそっちです、ふざけてるんですかセクシャルハラスメントですよ」
「男の半裸なんて古代の芸術にはよくあるだろ」
「家に半裸の男をはべらかしていた芸術家は多くないと思いますけどね」
「廃棄区画で衣服がきちんとしてない人間くらい一人二人見なかったのか」
「知りませんよそんなの、男の裸体が見たくて行ったわけじゃありません」
「じゃあ何で行ったんだ」
また扉があいた。今度は服を着ている。白のTシャツに青のズボン。
「気まぐれですよ、警備ドローンの前で絵を描いてたように」
「何故あんたがクリアカラーを保っているのか、俺には全く理解できん」
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05 (2/7)
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