数日後、「こないだの女の人、こういう絵を描いていませんでしたか?」天利が落札済みの競売ページを俺に見せてきた。…桁が飛んでいる。凄い値段だ。確かにあの女の絵だったので、描いていたと返事をすれば、「やっぱり~!ちょっと前に公認画家になったさんって言うんですよ、最近はよく抽象画を描いてて凄いんですよー!私、ちょっとファンなんです!お話ししたかったな~。この作品は誰が買ったんでしょう。調べちゃえ。ショッケンランヨー!」執行官デバイスを操作した彼女は「お金持ちですねー」と落札者の名前まで検索した、ところで首を傾げた。彼女が再度デバイスを操作し、更に首を傾げる。「…狡噛さん、ちょっと調べてみた方がいいかもしれません」何をだ、と思いつつ、執行官の勘はバカにしてはいけないことをもう俺は知っているので、話を聞き、俺も必要性を感じたので、真流さんに詳しく検索してもらうと、――ある一定の時期から彼女の絵を購入者全員の色相が悪化していたことが分かった。
 ちょうど彼女が公認画家になった辺りからだ――三ヶ月前か。競売データを閲覧した人間の色相に変わりは無い、特に問題は無いように思われた。それに公認されたんだぞ、そんなこと起こるはずもないだろう、と画像検索結果を数分閲覧したが、やはり俺の色相にも異常は起きなかった。しかし真流さんが上げたデータはありえない現実を示している、奇妙だ。

 購入者は軒並み更生施設に入所していることもあり、購入された彼女の絵の回収は容易だった。解析にかけた結果、一般的な絵具の物質が数割程度認められたが、残りの大部分のデータがすっぽ抜けていた。シビュラに許可されていない未確認物質か何かか? いずれにせよ、色相悪化を引き起こした原因であると推測されるが――いや、しかしそんなわけあるか?彼女の色相はクリアカラーじゃないか、と作品を一つデスクに飾ってみたところ、一時間と経たずに俺の犯罪係数が動いた。危険を感じ、見えないよう元通りにカバーをかけ、分析室へ返却した。数時間ほどで犯罪係数は戻ったが、恐ろしい体験をした。

 あの日俺の顔に付けられた絵具もそうだった可能性が高い。洗い落とすのが変に大変だったのは覚えている。とっつぁんと天利にはあとで謝ろう。しかし彼らを護送車に送ったあと直ぐに落としてよかった、放置していたらと思うとゾッとする。周りの人間の犯罪係数を無差別に上げてしまっていただろう。危うく犯罪に加担するところだった。
 一体どこで絵具を手に入れたのか、それが問題だ。それに、あの女は確かに“早く洗い落とすのをすすめる”という旨の発言をした。彼女自身で作成した可能性も捨てきれないのではないか――いや、彼女の色相に問題は無かった。それもおかしいんだ。作者なら、書いている間中あの絵具をずっと見ているだろう。一体どういうことなんだ?

 周辺人物を洗い出したところ、父母は彼女が幼い頃に事故死、それから彼女の面倒を見ていたと見られる父親方の祖父は数か月前に老衰で亡くなっていた。祖父は彼女と同じく画家だったようで、そちらの作品、購入履歴や周辺人物なども調べたが怪しい点は見つからなかった。何かあるとすれば、シビュラ導入以前か――捜査は困難になってくる。親戚などは居たが、とにかくまずは本人に接触するべきだと考える。

 和久さんに相談すると「この件はしばらく狡噛君に任せましょう」と仰った――事件認定だ。これで捜査許可が下りるが、やはり大事のようだ。しかしあれからも、記録されている彼女の色相に変わりはない。


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