凄い。凄く、ぷるぷるしている。これは、プリンだ。これが、プリン。
「縢、の分を減らして、俺の分を多く取れよ」
「なんで?!」
「こないだ刑事課の冷蔵庫に入れといた俺のプリン食ったろ」
「秀星だもん!」
「は!?お前も同罪だろ!」
「共犯かよ…」
「でも!今回の卵は私が仕入れた!」
「俺は作った!」
「それとこれとは別だ。俺はあのプリンに記名をしておいた。それにも関わらず、だ。お前らは俺のものだと知っていた上で食った。この罪の名前が分かるか?ほら言ってみろ。言えたら勘弁してやる。勉学に不真面目なお前らが知ってるとは思えないがな」
「こ、狡噛さん、落ち着いて」
「名前書けば食べられないと思ってる狡噛さんがバカ罪です」
「そんな細かいこと気にしてるコウちゃんは将来俺より早くハゲる罪!」
「もみあげセクハラ大魔王罪!」
「黙れこのアホ」
「なら狡噛さんはバカです」
「二回目だろうが」
「コウちゃんは割と間抜け」
「あ?」
狡噛さんが無言でバケツを抱えた。私のプリンが!
「全員謝ってください。互いに」
三人を見据える。目が据わっている自覚がある。だって私のプリンがなくなる。
「「「ごめんなさい」」」
狡噛さんがプリンの入っているバケツを地上に降ろした。よろしい。
「ところで、このプリン、どうやって食べるんですか?お皿、あるの?縢くん」
縢くんは私から顔を逸らしてさんと話し、いや、近っ。距離感おかしいでしょ。何あれ。額が当たりそうだ。というか当ててぐりぐりしている。「…ねえ、秀星、常守監視官の、圧力、怖い」さん、狡噛さんだけかと思ってたのに…!?「朱ちゃんは、多分、一番怒らせたらいけない人種な気がする…」狡噛さんを見ると、目が合った。目をぱちぱちしている。…全然気にしてなさそう。そうだった。「狡噛さんは、割と怒っても、可愛いよね…」狡噛さんもパーソナルスペースが狭すぎる、狂い気味の人だった。「それは、同意できないけど、ギノさんも、怒っても笑える…」…もしかして、さんは狡噛さんの距離感に慣れてしまったのでは……、縢くんも…?
「そこ、聞こえてるぞ」
ぴゃっと肩を震わせたさんが目線を彷徨わせている。…そっか、私って圧力が出てるんだ。…でも、私は悪くない気がする。私に圧力を出させる皆が悪いのでは!?今回に限ってはそうだと思う。でも、もう少し穏やかであるようにしよう。気を付けよう。あんまりカリカリしてると、宜野座さんみたいになっちゃう。でも、監視官として、少しくらい従ってもらえる貫禄はあってもいい気がする。うーん、悩みどころだ。
「……で、どこにひっくり返すんだって」
「しまった!皿が無い」
「じゃあ私の口!」
「ふざけんな。あ、回転鍋がある」
「いいと思います!」
縢くんが回転鍋を運んでくると、さんが靴下を脱いでいた。ダメです。許可しません。
「入っていい?」
「プリンまみれになりたいならな」
「なりたいかも!」
「さん、やめて下さい」
「ごめんなさい」
狡噛さんがバケツを構えている。私はすかさずデバイスの録画画面を起動した。固唾を呑んで見守る。チャンスは一回きりだ。頼みますよ狡噛さん。カラメルの、カラメルの具合がとても気になってるんですから。とても…!
「っふん!」
「……おお!さすがコウちゃん!」
ぱちぱちぱち、さんと自然と拍手する。狡噛さんが慎重にバケツを抜いていくと、そこにはプルンと、見事なカラメルと共存している素晴らしい完璧なプリンがひっくり返されていた。凄い。凄すぎる。さすが縢くん。ありがとう狡噛さん。
「凄い、縢くん。どうしたらカラメルの具合が分かるの?」
「勘」
「…また?」
「ぐつぐつなるまでやるだろ?ぴって水いれてじゃーってなるだろ?それで終わり。慣れればカンタンだよ」
「わかんなーい!」
激しく同意する。分からない。縢くんがるんるんキッチンへ行ってしまった。私はさんと、ぱしゃぱしゃプリンの撮影会を始める。「凄いプリン様…!」「ほんとに。バケツプリンなんて夢みたいです…!」「夢じゃない、夢じゃないですよ…バケツプリン!!」きゃーきゃーなってしまう。これは、これはきゃーきゃーする。凄い、凄い…!バケツプリン…!人生で一回くらい食べてみたかった夢のプリン…!幸せ…!
「はいはい取り分けっぞ~!」
縢くんがお椀とお玉を取って戻って来てくれていた。お玉。…確かに。
「…お玉でプリンを取り分ける混乱感すごいな」
「でも、すごい、ぷるぷるしてる…何回おかわりできる…?ねこプリン…?」
「ねこプリン」
「ねこまんま。ねこプリン。ねこねこプリン…!!!」
きゃー!とさんが悶えている。可愛い。直ぐに狡噛さんの手がさんの頭に伸びて来た。…撫で回されてる。確かに可愛い、気持ちはわかる。私も撫でたい。撫でれば良かった。さんはテンションが上がっているあまり、その手にぐりぐり頭を擦り付け返している。やっぱり私には塩対応な気がする。…もっと仲良くなってみせる。彼らが順番に縢くんからお椀を受け取って、私も受け取った。ぷるぷるしてる。凄い。す、すごい。
「いざ、尋常に、食する」
ドキドキ反応を見守る。
「うまい!」
やった!「ん~~!!!」さんの嬉しそうな声を聴きながら、私も一口。
「お、おいしい……!縢くん、天才…!」
「天才パティシエ…!シェフ…!」
「クッキングアイドルと呼んでくれ」
「くっきんぐあいどる…!」
「アイドルだよ、縢くん、これは、これはアイドルだよ…!」
「おかわり」
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