「からから、くるくる、何だっけ……」
どこかで聞いたのに、思い出せない。何だっけ、何だっけ。頭をぐるぐるさせながら、白い布の中心に腐らないゴミを丸めて詰めて、その丸を適当な糸でくくった。いやでも、下を向いてた気がする。開けて、重いゴミを追加する。もっかい吊ってみる。頭が下を向いた。っああ!坊主!なんとか坊主!これは、これは!
「――首吊り坊主!宜野座監視官、あの。首吊り坊主、作りたいです」
「……何の話だ。先からしているその作業と何か関連があるのか。色相が濁りそうな発言をするな」
「違うんです、色相が晴れそうな、雨が上がるような…何か。思い出せない! 監視官、ハサミを使用する許可を」
「…安全に使え」
宜野座監視官からハサミを受け取って、その布の裾っていうか、尻尾っていうか、ちょきちょき切っていく。首吊り坊主。でもなんか違う気がする。なんとか坊主。なんか、こんな、こんな…。何だっけ。もやもやする!
マジックで顔を書いて、糸を持った。これは。
「やっぱり首吊り坊主!」
「お前が吊ったんだろう、首吊られ坊主だ。可哀そうに」
「何か、これをいっぱい作って、ぶら下げたら、雨が上がるって聞いたことあります」
「しょうもない迷信だな。明日の降水確率は100%だ」
「じゃあ、もし晴れたらお休みください」
「、それは監視官である俺に喧嘩を売っているのか?」
「わーん!遠回り解釈された!売ってないのに!」
「シビュラの天気予報が外れるわけがないだろう。大体お前の業務態度は――」
ガミガミメガネ! スン。
「――お、、何やってんだ。おお!てるてる坊主じゃねえか」
「っああ!それです!征陸さん!首吊り坊主じゃなかった!」
「、上がんねーの?」
「あれ縢くん、遅刻しないで真面目に来たんだ!」
「朱ちゃん、珍しく5分前行動じゃないね」
「雨なの忘れてて、ちょっと準備に手間取っちゃって…。でも間に合って良かった」
わらわら午後勤務の人たちが出勤してきた。やった上がれる!でもその前に
「見て!」
「何で首吊ってんの」
「こうやって逆さに吊るとな、雨が上がるってーおまじないだ」
「てるてる坊主!覚えた!」
完全にお孫ちゃん扱いされている私は大人しく征陸さんに頭を撫でられる。優しい!イケおじ!ダンディ!
「まー確かに坊主だけど」
そう、これはてるてる坊主。てるてる。照るの? あ、照り焼き食べたいかも。
「秀星、今日照り焼きがいい」
「肉?魚?」
「なんでも!」
「オッケー」
「その照りじゃないさ。てるてる坊主ってのはなぁ――…いや、なんでてるてる坊主っていうんだ?」
「照り焼き坊主!」
もうちょっと遊んでから帰ろ!
*
「うーん…うーん……」
「お前ホント何でそんな不器用なの?」
「秀星が器用なだけだもん!!」
ダァン!とが机を叩いて立ち上がった。さっきから黙って見ていたが、デスクが滅茶苦茶になってきている。
「…貴様ら、業務中に遊ぶな」
「工作は立派な色相ケアの一環です」
「業務中にするんじゃない」
「もう業務終了後だもん!さては宜野座監視官も作りたいんでしょ!作りましょう!色相がクリアになりますよ多分!はいどうぞ!」
「人にハサミの刃先を向けて渡すな」
「はー」「ほー」
一般常識の抜けているこいつらはなるほど、と頷いている。相変わらず、子供に何かを教えているみたいだ。
の手から、切っ先がこちらを向いているハサミと、布を受け取り、見様見真似で切っていく。…まあ、無心になれて悪くないことも無い。
「んー、でもやっぱ納得できない。てるてる坊主って、首吊り坊主の間違いじゃん」
「まあ、見た目はそうだなぁ」
「あ、ちょっとこの横切ってみたいかも…秀星ハサミ貸して」
「ねーギノさん、持ち手から渡せってことっすか?なんで?」
「色相が濁るんじゃない?あ、ほら、狡噛さん!」
「それならギノさんはこういうカットだ」
「あっ似てる!」
「ふざけるな」
言いながらそれらを没収するが、…これの首を引き抜いたら俺の首が引き抜かれると思うと無下に扱えん。どうするべきだろうか。
「秀星坊主は………ヘアピン?」
「マジックで書いとけ」
「常守監視官は簡単」
「ちょっとグロくね?」
「それならさんにはハリガネ立てないと!宜野座さん、ハリガネください」
「何をちゃっかり参加してるんだ常守」
「とっつぁんは?コート?義手?」
「秀星コート作って!」
「無茶言うな」
「弥生は尻尾つくる」
「じゃセンセーは胸の谷間な」
「引く!」
「何でだよ」
「平和だなあ」
ジョキジョキジョキジョキ、奴らは飽きもせずに工作を続け、数十分後。
一係のオフィスには、てるてる坊主、…首を吊られている何かが、数匹飾られることになってしまった。縢のせいで、妙に手が込んだ作りになってしまっている。しかし。
「…ダメだ。首を吊られているようにしか見えん。色相に悪影響を及ぼす。処分だ。処分して来い」
「どうして!」
「ギノさんノリわりー」
「宜野座さん!頑張って作ったんですよ!見てください縢くんが作った宜野座さんの前髪だってそっくりじゃないですか!」
「まあいいじゃないか、伸元」
「うるさい!業務に必要ないだろう!処分だ処分!」
*
「ん?なんだこれ?」
翌日。何でスピネルのカートンに入ってんだよ…、狡噛さんがヘンなものを取り出した。白い。何だろう。いや、ん? あれは。
「お!昨日の、隠してあったのか」
「わあ無事でよかった……!もう燃やされちゃったかと思ってました。昨日の業務中に、みんなで作ったんです。てるてる坊主。狡噛さんはこれです。…私はこれです」
「ああ…」
狡噛さんが何とも言えない顔でてるてる坊主を手に取った。もみあげが凄い。全体的にクオリティは高いけど、まあそうなると思う。私も前髪のカットがえげつないことになっている。…客観的に見るとこうなのかもしれない。…でも、もうこの髪型が安定してるしなあ、自分は気に入ってるし、いっか。
「それにしても、てるてる坊主か、何か聞いたことあるな。雨乞いだったか?」
「それを逆さに吊って、てるてる坊主だ。晴れろってな。昔はハイパーオーツなんか無かったから、植物が育つには干上がったら困ったんだな」
なるほど。征陸さんのお話はいつもタメになる。シュン、とドアが開いた。さんがにっこり万歳しながら入場してきた。可愛い。
「晴れたー!!!」
「おう、。伸元がシフトじゃなくて良かったなあ」
「えー!晴れ!晴れました!あっ!勤勉なてるてるぼうずちゃん!」
そういえば、今日の降水確率は100%だったのに、晴れてるや。やっぱりさんは天気の申し子なのかもしれない。空は電気属性なんだろうか。雷だけでなく天候まで動かせる? さんがご機嫌にくるくる回っている。
「どうですか狡噛さん!これがてるてる坊主の力です!」
「お前、何で知ったんだ、こんなもん」
「ヴぃっぱあ!」
「…書き込みはよしとけよ。それ以上色相濁らせてどうするんだ」
「……やだ、通じちゃった…」
「そのくらい聞いたことある」
「おかず探したりしないんですか?――いたっ」
べしっとさんが狡噛さんに頭をはたかれた。可哀そうに。
「ヴぃっぱあって何だ?聞いたことねーなあ」
「いや、知らなくていいものだ。下らないネットユーザー同士のお遊びみたいなもんらしい」
「ネットは分からん」
「その方がいい」
「何で?便利なのに。おかず探さないんですか?みんなそうやって使うんでしょ?昨日、おいしそうな照り焼きのレシピ秀星にリクエストしたのおいしかったです!――いたっ!なんで!?」
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