、ケーキ作るぞ。デカいの」
「…ケーキ!」
「明日、コウちゃんの誕生日だからな。秘密だぞ」
「…私パイ投げがいい」
「パイ投げのあとのコウちゃんの顔面どうすんだよ」
「秀星が舐めればいい」
「ぶっ殺すぞ」
「男爵」
「お前ケーキなし」
「やだー!!!」



 ぱーん。クラッカーが鳴った。私はかりかりクラッカーを食べている。おいしい。狡噛さんはクラッカーの中身まみれになっている。

「コウちゃん、誕生日おめでと!」
「おめでとうございます、狡噛さん」
「おめでとう、コウ。何歳だ?」
「…ありがとう。年齢は禁則事項だ」

 狡噛さんが次々誕生日プレゼントを押し付けられている。征陸さんは剥き出しのお酒をあげている。箱。私はケーキの苺を狙っている。乗せるときに何個つまみ食いしたかしれない。何回秀星に叩かれたか分からない。
 弥生はクールにオフィスで伝えていたし、きっと志恩ちゃんも祝い終わっている気がする。志恩ちゃんは口が軽いから。口が。口が軽い。セーフだったけど口が軽い。私の口は軽くないからそんな気軽にお祝いの言葉が出てこない。

「あ、とっつぁん!蝋燭持ってきてくれたの!」
「ああ。立ててくれ」
「…この年になって蝋燭吹かせるつもりかよ」

 苦笑している狡噛さんがかっこよくてムカつく。秀星は室内の電気を落として、蝋燭に火を点けている。ケーキ食べたら帰ろう。祝えない人がここにいるのはよくない。あとで秀星にケーキ持ってきてもらったらよかったかも。

さん?ほら、狡噛さんが吹きますよ」

 常守さんにクラッカーを食べている手を止められた。ちょっと赤ちゃん的な扱いで宥められている気がする。かなしい。彼女はばっちりカメラを回している。地味に録画されている。

「はっぴばーすでーこーちゃーん!」

 秀星が歌い始めた。しょうがない。秀星は既に6割くらい出来上がっている。なんか物凄い肺活量で一気に完璧に蝋燭を消した狡噛さんが、秀星のテンションの高い拍手に困ったように笑っている。楽しそうではある。早くケーキ食べたい。
 わーおめでとうございますぱちぱちぱち、みんなの人の良さそうなお祝いを右から左に聞いて、私はさくさくクラッカーを食べる手を再開した。そして己のケーキが配られるのをひたすらに待っている。

「――ほら、お前の」

 やっと順番来たけど、呆れ返った目でみられた。凄くむかつく。「おいしそう」ケーキの断面でむかつきは散った。狡噛さんも半分に切ってみたら、筋肉の断面でむかつきが散るかもしれない。トマトケーキになってしまう。ちょっと発想が物騒すぎる。これ以上濁ったらまずい。やめよう。

「…狡噛さん、おめでとうございます」

 狡噛さんの隣に立って、彼が体をこっちに向けてくれたけど、私は明後日の方を向きながら口元だけ笑って器用に言って踵を返した。

 たったかしゃかしゃか早歩きの歩幅でケーキの乗ったお皿を大切に抱え、歩いて3歩レベルの自分の部屋の扉をくぐった。さあ、ケーキを食べよう。しかし、手の中にあったケーキ皿は宙に浮き、背中には誰かの体が当たってて、私は割とマジで肘うちをした。スカった。扉くぐる時に一緒に入ってくるタイプの人間は気配だけでなく足音まで完全に消せるらしい。あと多分強い。怖すぎる。私のセンサーに引っ掛からなかった。ケーキに全集中力を持っていかれてたかは分からない。誰だろう、他係の執行官とかあんまり知らないし、襲われるの嫌すぎる、何で、どうして、殺してやる、

「――ってえ、こら暴れるな、」

 なんだ。深刻な殺意を込めて繰り出していた攻撃を止めた。しかし今までの攻防によりバランスを崩していたのかダメージを受けたのかした狡噛さんのせいで、二人仲良くこけている。かしゃーん、とフォークがどこかへ着地する音がした。狡噛さんはなんだかんだ私の頭の裏に手を入れて私の頭を守ってくれている。でも分かりやすく言うと押し倒されている。でも事故である。でも狡噛さんは、片手で自身の頭上に私のケーキを守り抜いている。すき。ありがとう!

「ケーキ返して」

 狡噛さんは微妙な顔で口をへの字に黙っている。怒りを感じる。私は昨日からそのケーキを食べるのを我慢していた。だから割と真面目に怒りを感じる。要は我慢の限界である。
 彼の首に腕を回して凄い力で引き寄せて、合意を取らずにキスをした。セクハラされて怒りを感じるならセクハラし返せばいい。彼の頭を抱きながら、行儀の悪い音を立てて、やられたみたいに何回も何回も吸い付いて、唾液で口まわりがべちゃべちゃになった頃、やっと口を離してぜえぜえしながらキッと狡噛さんを睨み付けた。狡噛さんは何とも言えない顔をしていて、なんか目許が少し赤く染まっている。しかも微妙ににやついている。どうして。

「…ケーキ返して」

 返事してくれない。なんか恥ずかしくなってきた。動揺と怒りが数日続くとトチ狂ったことをしてしまうのかもしれない。気を付けよう。でもだってケーキ食べたい。凄いキスまでしたら返してもらえるだろうか。それはちょっと嫌だ、だってショートケーキにありつく前に私の頭がショートしてしまう。

「~~っケーキ返して!」
「…悪い、…ほら」

 狡噛さんが私を起こしてくれて、ケーキのお皿が帰って来た。嬉しい。乗ってたフォークは明後日のところに飛んでっている。悲しい。我慢できないから齧り付いた。おいしい。きめ細やかでまろやかな素晴らしいクリームの、仄かで爽やかな甘さ。スポンジのふわふわしっとり具合、シロップの香りが鼻を抜け、クリームと合わさってグレイトでお上品な甘みのコラボレーションをなした。やっぱりフォークで食べたい。
 フォークを取りに行く。狡噛さんはソファに移動して天を仰いで目元を腕で押さえ死に始めた。可哀そうに。誕生日なのに私に殺されてしまった。なるほど。そう考えると私はとてもやり返せた気がする。ちょっとすっきりしてきた。
 私は隣に座ってケーキを貪り始める。フォークで素晴らしい断面とこんにちはして、クリームの間に挟まっている苺の綺麗な色合いに嬉しくなる。やっぱり秀星は天才だ。おいしいから狡噛さんにも一口あげよう。彼の腕を力の限り剥ぎ取ろうとして、どうにもならなかったムカつく。

「秀星のケーキおいしい。天才パティシエ。天才シェフ。いい加減戻ったらどうですか。主役でしょ」
「…プレゼントはもらったが、まだ祝われてない」
「祝いたくないもん」

 狡噛さんが腕をずらして、ジト目で私を見た。ケーキを一口さしだしてやる。彼が微妙な顔して口あけて食べた。変な感じ。狡噛さんがもぐもぐしている。言うなら今しかない気がする。あのラップが私を煽って来る。

「…お誕生日おめでとうございます」

 またケーキ取り上げられた。怒りを感じる。狡噛さんが雪崩のように圧し掛かって来て、あー、と呻いている。カタリと机にケーキが取り残された音がした。しばらくして、ありがとう、と続けられたけど、いつまでこうしてるんだろう。いつまで私のケーキライフを邪魔したら気が済むんだ。

『狡噛さん、さん、大丈夫ですかー?』

 常守監視官が扉の向こうで待っている。インターホン通信が入って来た。狡噛さんはうんともすんとも言わない。

「…私、秀星のケーキおかわりしたい」
「…ん」

 狡噛さんは照れるとほぼ喋らなくなるらしい。いきなりキスして凄いキスまでしてきたくせに、ただのキスをやり返されて照れる心が全く以って謎である。

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