良いお昼。良くないお昼。なんだか悲しいお昼。悲しくないもん。悲しい。私のお腹は鳴っている。おいしいものを求めて鳴っている。泣いている。泣いている!
そろそろ限界だ、私が死んじゃう。最高にギブアップ。
「…常守監視官、ご飯、…外出したいです、今から」
「今から」
今日は用事が無いので大丈夫ですよ、でも今度はもう少し前もって言ってくださいね、と言ってくれた常守さんは、基本的には、とても優しい。圧さえなければ。
「どこか行かれたいお店があるんですか?」
「…このお店で、これ予約して欲しいです」
「予約」
*
ピピ、と端末に送られてきたページを開いた。……天然食材詰め合わセット。…なるほど。
さっきから、珍しくも頼み難そうに視線を逸らして私に話しかけてくれるさんは、何というか、可愛いらしいんだけど、ぶーたれている、という表現がぴったりくるような感じだ。
予約、お取り置き、時間指定、
「ギフトにしますか?」
「…おねがいします」
やっぱり。縢くんへの贈り物だろう。二人とも、こないだから分かりやすく凄い喧嘩してるから。
狡噛さんに事の経緯を聞く限り、…私的には、どっちもどっちのような気もするけど、…さんの本気の悪戯が縢くんを本気で怒らせた例みたいだ。
けど、基本的に言い合っているだけだから、狡噛さんとさんが冷戦になった時より、全く一係は平和で、正直言って私は特に気にしていなかった。多分、誰も気にしていない気がする。
「…そこ、カフェも併設されてますから、お昼食べれます」
「へえ、いいですね。行ったことあるんですか?」
「…宜野座さんのメガネにカレーうどん飛ばして怒られたことあります」
*
「カレーうどんと、」
「……私はこの、すったて」
あとお水で、声がそろった。店員ドローンが下がって行った。それから常守さんがメニューを広げてくれて、二人で一緒に見ていく。
ずりあげうどん、川幅うどん、煮ぼうとう、山口うどん、あと勿論、肉汁うどんも。…うどんの世界が広すぎる!
「色んなうどんがあるんですねえ」
常守さんが興味深そうに頷いている。でも。うどんの世界はこうも広いというのに、…常守さんは、カレーうどんのグルメレースでもしているんだろうか。どうしてなんだろう。私には分からない。
「常守さんの世界はカレーうどんだけじゃないですか」
「好きなんですよ!おいしいじゃないですか」
「…そうですね……」
「さんはまだカレーうどんの魅力に気が付いていないんです。いいですか、カレーうどんっていうのは――」
スン。
聞き流してしばらく。カレーうどんとすったてでございます、機械音声が割り込んでくれた。助かった。「あ、取り皿2枚ください」かしこまりました。
「わあ、すごい。すり鉢ですね」
「どんぶりですね」
「いただきます」
常守さんがカレーうどんをすすった。「…おいしいです!」彼女のシャツは白く保たれている。
取り皿を受け取り、すったてうどんを適当に取り分けた。おいしそう。涼しそう。涼しくなれそう。
常守さんは、はふはふうどんをすすっている。彼女のシャツは白く保たれている。なんで!
*
常守さんは優しい。とても優しい。予約取り置きしか出来ない、天然食材詰め合わセットを常守さんのおかげでゲットできた私は、やけに可愛らしくされてしまったラッピングを見ながら午後勤務ずっと考えていた。何て言って渡そう。
まあ、最高に思いつかないし、悩んでいても仕方ない。秀星相手に私の心が折れることなどありえない! 突撃家主の部屋、家主のキングダム! わくわく認証を待つ。
退勤するとき、お昼おいしかったし楽しかったです、また行きましょうね、と言ってくれた常守さんは優しい。とても優しい。秀星は優しくない。狡噛さんも優しくない。秀星はご飯と私の舌に優しいし、狡噛さんは私の目に優しい。優しくない!
認証を追え扉が開いた。あ、ああ!涼しい!!!す、すずしい!!!!
「秀星のバカ!!!すずしい!!!!!」
「ああ!?勝手に入ってくんじゃねえ!!!」
ヤンキーみたい!秀星が恐ろしいアホみたいな形相で私を振り返った。
「やーい負けてやんの!」
しかし煽ってやる。画面にはでかでかとGAMEOVERと表示されているからだ。ふ。ざまあみろ!
「ああ!?」
隣では狡噛さんが呆れ返った顔でこちらを見ている。多分二人で格ゲーをやっていたらしい。
「語彙力が宇宙」
「NASAってか?NASA?」
「やーい語彙力PK」
「意味わかんねえ。俺の辞書にそんな言葉ねぇよ」
私はそそくさと狡噛さんの側に回り込みしゃがんで、秀星に超可愛いラッピング袋結構重いを差し出した。
「秀星きらい!」
「俺もお前きらい」
せめてびっくりマークをつけてほしい。悲しくなったので秀星に結構重い袋を投げつけてやった。狡噛さんの腕を持ち上げ、脇から彼のあぐらの上に乗り込みお邪魔する。「…おい」横向きに座って、秀星側の狡噛さんの肩に顎を置く。中々よろしい。
「……これは!これは!!幻の詰め合わセット!!!レタス、新タマネギ、お、おお……」
そうだ。私は知っている。秀星はそこのポイントカードがゴールド通り越してブラックレベルなんだということを。要は秀星が食材をひたすらに買い付けているガチ勢なお店。ふ。
「今回の季節商品……これは…、これは……!!!トマトッ!!!!!」
秀星がトマトを天に掲げ仰け反って悶えている。私の頭はなでなでされている。苦しゅうない。秀星がキメ顔でこちらを見た。
「おい。タコライスを作る時が来たようだな」
狡噛さんとキッチンに連れていかれ、秀星が無我夢中で野菜を切っているのを見せられている。多分秀星はもう、料理のことしか考えていない。
「俺の!俺のタコライス!!!」
私はひたすら狡噛さんにくっついている。狡噛さんも口を開かない。私たちは秀星の絶対的なオーラにビビっていた。
「お前らはそこで見てろ。いいか、微塵も手出しするんじゃねえ。俺様の美技に酔いな!」
多分、永遠に輝く。今日は、身を削って、常守さんのタッパにタコライスを増してもらうのだ。
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