突撃秀星の部屋。私は、秀星の部屋にフリーで入れるのである。秀星は今日、宿直である。私は明日、宿直である。

 在りし日、『ピンポン出るのめんどいから今度から勝手に入ってこい』秀星が出入り自由に設定してくれたのだ。から、『私の部屋も自由出入りにした』って言ったら、『は?やめろ』秀星は私の端末を勝手にいじり秀星の入室をブロックしていた。『間違えた』その後、自由出入りをオフに、他のみんなみたいと同じく戻した秀星に『…これじゃイーブンじゃない!!!!!』『なんかあったら俺が疑われるからマジでやめろ』『なんか?』『窃盗盗み貴重品強盗アクシデント緊急事態いいからやめろ。事故は起きるもんなんだよ。メシつくってやんねえぞ』『アクシデーンツハップンナーーーウアーーーンーダゲーーーーン!!!!!』『メシつくってやんねえぞ』『ごめんなさい』

 さて、秀星の部屋にいつも通り無断で入ったがしかし今日はこそこそしている私は、秀星のありとあらゆるお皿に唐辛子スプレーをかける作業をしている。ふ。ふふふ。ふ。ドラゴン・ブレス。世界一辛い唐辛子。宿直で一緒のシフトだったはずの狡噛さんに博識を自慢しよう。賢い、私賢い!



「狡噛さん、ドラゴンブレス」

 徹夜越し超ねむねむ病で出勤した私は、しかしドヤ顔で狡噛さんに戦闘を挑んだ。ふ。

「…なんかの技名か?」
「ふ。世界一辛い唐辛子の名前です」

 ドヤ顔で褒めて褒めろオーラを出していたのに、ゴリラは電気属性ではないので、私の電波をキャッチしてくれなかった。狡噛さんはあきれ顔で私を見ている。どうして。

「…知ってるが。辛さは248万スコヴィル程度だろ。ギネスには認められなかったようだが、ペッパーXってーのがスコヴィル値318万を叩き出した一番辛いって唐辛子って言われてる。ちなみに、アートグラスにも、ドラゴンブレスって俗称はつけられてんぞ。ほら、こんなん。中々綺麗だろ」

 何言ってるか分かんない。狡噛さんがわざわざご丁寧に検索画面まで見せてくれた。超かっこいい、何このガラス。かっこいい。むかつく!スコヴィル値って何!知らない!なんか親切にガラスの説明してくれてるし、知識を鼻にかけないところが逆にイラつく。このガラスがかっこいいことは認める。でもよく分かんない!

「何で知ってるんですか狡噛さんのバカ!」
「何で知らないと思ってたんだ」
「味覚音痴だから」
「言いがかりは止めろ」
「…折角褒めてもらおうと思ったのに!狡噛さんもきらい!!」
「――テ゛メ゛エ゛ッ!!!!!!!!!」

 コウちゃんが黙って席を立って走り去ってった。いや今はそれどころじゃない。

「イーブンだもん!私のせいじゃない!ドラゴンブレス!」
「よりにもよって世界一辛い唐辛子かよ死ね!!!!
「だって秀星も私の顔に落書きした!」
「人の味覚を壊そうとすんのはやめろお前俺のメシが食えなくなってもいいのか料理人にとって舌は命だお前の顔面とは比べ物にならない!!!」
「それはヤダバカ秀星のバカバカバカバカバーカ!!!」
「殺す!!!!」
「やだーーーーーー!!!!」
「――縢」
「っう、」

 ゴク、ゴクゴク…と流し込まれている牛乳だろうこれはってかコウちゃん角度が急すぎ待って無理死ぬ息できねぇもういらねえ!

「秀星死にそう」
「あ、すまん」
「――縢、くん、っはあ、っはあ、なに、どうした、の?」
「っぜえ、っはあ、っドラゴンブレスだよ!!!」

 俺を追ってきたんだろう朱ちゃんが、しゃがみこみ肩で息をしながら頭を捻っている。そう、今日は朱ちゃんとパスタを食っていた。そして事故は起きた。なんか手がヒリヒリすんな?気のせいか?まあ気のせいかと違和感をスルーしたら事故が起きた。からい。許さない。からい。

「…ゲームの技の名前?」
「ギネス記録で世界一辛い唐辛子だ。アートグラスの名称にも存在する」
「へえ~!」
「狡噛さんきらい!」
、何をそんなに機嫌悪いんだ今日。しょげてんだろ」
「しょげてないもん!秀星きらい!」
「俺もお前きらい」

 が涙目になっている。絶賛鼻がつまってマジで泣いてんのは俺の方なんだけど。ふざけてんのか。ふざけやがって。ふざけんな。マジで殺す。舌の感覚が無い。まさに死。

「ほら、泣くな」

 がコウちゃんの腕の中で頭を撫でられながら洟を啜っているのは正直言って笑える。笑えない。泣きたいのは俺であって俺はまだ泣いている。からい。味覚がバカになった。もうしばらく俺の舌は使い物にならない。

「…はっ!さん、体調大丈夫ですか?」
「体調?」
「…いえ、その」
「…今日、暑いと思ったのに、寒いから、ネクタイしてくればよかった、なくて寒い、あと眠い、秀星にドラゴンブレスするのに夢中で朝になったまま出勤したんだもん眠い!」
「………そうですか。今日は早く寝てください」

 朱ちゃんが遠い目になった。俺はまだ泣いている。もう寝たい。舌が痛くて寝れそうにない。ドラゴンブレスパスタをんちにそのままポスって、俺はタッパ…いや、タッパ…、待てよ…、いや、でもタッパはピリピリしてなかったはず…。

「おい。全部にやったのか?唐辛子って落ちにくいんだぞ、マジでふざけんなよ」
「みずであらえばいい」
「殺す」
「秀星きらい!」
「俺もお前きらい」
「うわーん!!!!」

 がコウちゃんの腕の中で丸まってコウちゃんの分厚すぎる暑苦しい胸板に顔を埋めてしまった。手出しができない。こっちは激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム通り越して発火してんだよマジでぶっ殺すぞ殴りてえ。「コウちゃんそいつ寄越して」「…業務中だ」「意味わかんねえ」

「っぐす、お皿全部だけ、タッパは無事、だってタッパにドラゴンブレスしたら食らうのは私」
「殺す!!!」
「秀星怖いいいい」

 狡噛さん、とコウちゃんに泣きついているは泣きついているというより半泣きだ。ふざけてる。からい。涙の止まらない俺に、朱ちゃんがハンカチを差し出してくれた。さすが朱ちゃん、優しい。からい。

「…お前、2日前寝たか?」
「……秀星に借りたゲームしてた…」
「今日も寝ないで死ね」
「うわーん!!!狡噛さん」

 抱っこちゃんかよ。ひっつきむしか?おしりかじりむしのが似合ってるぞ。マジでの顔面に唐辛子塗り込んでやりたい。からいつらい涙出てる痛い。つーかコウちゃんがずっとを抱きしめてて見ていて鬱陶しい暑苦しい。

「ねえコウちゃん、さっきから顔しまってないんだけど」
「…そうですね、ちょっとだらしがない顔をされてます」
「縢、俺にまで八つ当たりするのは止めろ」
「したくもなるよ!ドラゴンブレスだよ!?まだからいんだって!つーかイテえの!」

 俺の舌の方が熱いんだからもっと冷製になるべきだ。今日の冷製パスタは灼熱パスタであった。コウちゃんを凝視し続ける。

「…明日、皿の処理手伝いに行くよ」

 ハァ、とコウちゃんが息を吐きだしながら言った。よし、ひとまず助っ人一人ゲット。問題は、

「それまで何でメシ食うか…タッパと鍋か? 別にいいけど、お前は許さない。ドラゴンブレス!」

 縢秀星、レベルアップ。口から火を噴くスキルを覚えた。…そういや朱ちゃん、フツーに食ってたけど、…平気なの?

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