「宜野座さん、とっておきの色相ケアにご案内します」

 騙された。



「湯気で曇る!こちらに送るな!」
「だって冷房ついてるんですもん、無駄ですよそんな抵抗」
「諦めろ、ギノ。メシ食う時くらい外せ」

 冷房をガンガンに効かせ、こたつで、おでんを食べている。最高に地球に優しくない。私たちは完全に害悪だ。大丈夫、私は既にノースリーブのパーカーに着替えているから、きっと大丈夫。涼しい。未だスーツの長袖シャツな宜野座さんの色相が濁らないことを祈ろう。宜野座さんはひたすらにメガネを拭いている。

「そんな目、悪いんですか?」
「いや。ダテだよ」
「狡噛!バラすな!」

 ちくわぶでずずっと汁を啜っていたら、必死にメガネを拭いていた宜野座さんの手が止まり、なんだあれは、という顔で凝視された。何か変なモンスターにでもであったみたいな顔だ。ひどい。ダテっていうのは本当みたいだ。秀星は無言で火加減をチェックしている。多分声を掛けたら殺される。

「宜野座さん、ご出身どこですか?」
「……都内だ」
「あれー?」

 おかしいな。口を開こうとしたら、狡噛さんの手が伸びてきて、頭をぽんぽんされた。…なんで触るの。それから狡噛さんは私の真似をしだした。ちくわぶ。…この人はわりと行儀が良くないところがある。ご飯が長引いて、私や秀星しかいないと、たまに平気で煙草を吸うくらい。宜野座さんとも長い付き合いなんだろう。

「狡噛さん、卵とって」
「他には」

 私の差し出しているお椀の中に、味玉が足された。面倒だし、狡噛さんの方がリーチが長いのでお願いしてしまう。

「んー、もちきんちゃくも」
「お子様だな」
「大人です。あ、牛クシ」
「牛筋だ」

 私のお椀には指定した具が足されていく。満足だ。目の前に座っている宜野座さんは、まだ何か言いたそうな微妙な感じに私を見ていた。

「?なんですか」

 すっと彼が狡噛さんへ目線を逸らした。

「……コウ、俺の言ったことは正しかっただろ」
「ああ」
「湯気をこっちへやるな!」
「むしゃくしゃした」

 何か言い合っている。狡噛さんが適当にお汁をかけてくれたお椀を持って、お箸をつけながら、白米をかきこむ。大変よろしい。
 残念ながら、今日は常守さんは欠席なのだ。ご友人と予定があるらしい。昨日、声をかけたから、今日の朝、大きなタッパを持参した彼女は、秀星に「全部一品以上、お出汁も沢山、でも具沢山で、このタッパいっぱいください…!」と、直角に頭を下げていた。無茶なお願いだけど、そうだ、秀星のご飯は世界一おいしいのだ。

「秀星、ご飯おかわり!」
「自分でつけてこい」
「秀星のご飯は世界一おいしい。世界一おいしいシェフが付けてくれるご飯は世界一おいしい。私は?」
「世界一まずい飯を作る天才。沸騰させたら殺す」
「はい」

 震える声でお茶碗を差し出したら、秀星がお茶碗をかっさらっていってくれた。秀星すき。味玉にお箸を入れて半分に割って、その見事な断面ににっこりなってしまう。口に運ぶが、期待通りにおいしいのだ。秀星は天才だ。もぐもぐしてたら、隣の狡噛さんと目が合った。

「お前はほんと、うまそうに食うな」
「ん。おいしいですもん」
「…微妙な質問をしていいか」
「改めて聞くなんて気味が悪いです。相当な質問なんでしょうね。やめときます」
「何故太らない?」

 何とも言えない気持ちだ。私の身体をじろじろ見るのは止めて欲しい。目を逸らして火加減をチェックする。ああ!沸騰しそうな気がする!こわい!ころされる!捻る。消えた。あ、ああ。

「あんまり見ないでもらえます?狡噛さんのせいです」
「…いや、すまん。どこにカロリーがいってるのかと」

 変態なんだか紳士なんだか分からない彼の視線は、多分、私の二の腕へ集中している。私は点いてない火を注視している。テレパシーで点いてほしい。

「消費カロリーが上回ってるだけじゃないですか」
「そんなに運動してるのか?…運動といっても限界がある。やっぱりお前はおかしい」
「誰が消せつったよ。ほら、メシ」
「秀星すき!」

 じじ、と狡噛さんが火を点けてくれた。ゴリラは電気属性ではない。秀星からお茶碗を受け取る。ほかほか白米だ。

「コウちゃんは?」
「あ、すまん」

 なんか無視された気がする。悲しい。狡噛さんこそちゃっかりしている。太らないのはそっちじゃないか。この大食いマシーン。むかつくので手を伸ばして、薄いTシャツの上からでも分かるムカつくほどに割れているだろうお腹をつねってやる。つねれる肉がなかった。やっぱり。かたい。

「くすぐったい。やめろ。俺は筋肉に消えてるんだ」
「そんなの言われなくたって分かります」

 私は次に宜野座さんへ目を向ける。はふはふと大根を食まれている。「なんだ?」…そうだな、あれは、前髪にカロリーも筋肉も吸われているに違いない。

「メシ」
「さんきゅ」
「お前ら、よくそんなに食えるな…」

 秀星が定位置に戻り、じゃがいもをチェックしている。

「ちょうだい!」

 リクエスト通り、私のお椀にはじゃがいもが届けられた。平和だ。

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