「あつ、あつい、あつ……い…」
「アホ毛が萎びてる。限界だ。ギノさん、もうちょっと涼しくなんない?」
「環境的な配慮をせよとスローガンが掲げられているだろう」
「分析室いってきます…」
「許可しない」
「じゃあ、麦茶作ってきます…秀星と、宜野座監視官の分も…色相ケアには必要ですよ…お湯なら沸かせます…」
「……氷を山ほど入れろ」
「了解です…さよなら…」



「…縢、遅くないか。様子を見てきてくれ」
「冷蔵庫にでも入ってんじゃね?」
「やりかねんな…。――待て。…さすがに冷蔵庫が内側から開かないことくらい、あいつでも知ってるだろうか?」
「…あ」

 縢の顔色が悪くなっていく。「知らないかも」俺も立ち上がり、走って給湯室へと向かう。今事件が起きたら俺はかなり上層部に怒られるだろう。一係はもぬけの殻だ。



「――!」

 息を切らして辿り着いた給湯室には誰も居なくて、靴が脱ぎ散らかされていて、開け放った冷蔵庫はほぼすっからかんだった。…あれ?

「…どこへ行った?」
-?」

 ありとあらゆる棚を開け、鍋の蓋を開けて、「そんなところに居るわけないだろう」笑えるほど不味い料理が作れるIHの上にはヤカンが置かれている。蓋は開いていて、麦茶の匂いがしている。まだ少し熱い。作業台の上には一番デカい空のピッチャーが置かれている。

-?」

 大きな声で彼女の名前を呼んでしばらく探し回っていると、

「もー、なに?」
「っうわ!!!」

 吃驚した。パカッと、足元のデカいクーラーボックスの蓋からが顔を出したんだ。が手に持っているコップの氷がカランと鳴った。ひんやりした空気が出てきた。保冷剤と共に埋まっていたらしい。

「…二人してサボっていいんですか?」
「~~っお前が言うなお前が!お前が冷蔵庫に入り込んで開かなくなって中で窒息死していたらどうしようかと心配になって駆けつけたんだ!クーラーボックスだって危険だこの馬鹿が!」
「いたい!」

 珍しくキレたギノさんがの頭をはたいた。…こいつこんなところにまで入り込めるのか。チビが過ぎるから。俺だって無理なのに。鍋もあながち間違いじゃないわけだ、回転鍋だったら。

「酸素濃度くらい考えてますよ多分。ちょっと隙間開けてましたもん。でも冷蔵庫って中から開かないんですか?知らなかった。ちょっとやってみていいですか?」
「やめろ。開けてやらんぞ」
「秀星」
「今度俺んちでやれば?これ共用だし」

 冷蔵庫をもう一度開け、中を見て行く。常、朱ちゃんのキャンディーボックス。…暑くなってきたから?そのままいれんのかよ。朱ちゃんホントこういうとこ適当だな…。征、……なんだこれ目薬?何で? …チョコ、これもとっつぁんだな。バター、ジャム、…ギノさんか?

「あ、コウちゃんまだ食ってねーんだ、こないだのプリン。もーらい」

 狡、と書かれているそれを手に取ったら、横っ腹に突撃を食らった。手を上げてプリンを死守する。

「やだ!秀星のプリン私が食べる!」
「また作ってやるから、ここは料理人である俺に譲れ。キンキンに冷えたプリンは俺のものだ」
「やだ!神様仏様秀星様!一口あげるから!」
「ふざけんな。お前が一口もらう方だろ」

 スプーンを取り出して一匙のせて口に入れてやると、「ん~~!」頬を包んで嬉しがっている。こいつはメシに関してかなり感情表現が豊かだから、作る方として悪い気はしない。「あー」また口を開けたから、もう一口突っ込んでやる。「ん~~!!」雛鳥かっつーの。

「そろそろ戻るぞ。上に知れたら問題だ」

 ちゃっかりしているギノさんが、俺たちを犬みたいに追いやっていく。コップは一つしか持たれていない。コップには滅茶苦茶に氷が入っている。ギノさんが持っているピッチャーにはアホほど温いだろう麦茶が入れ替えられていた。

「俺のコップは!?」
「両手が塞がっている。休憩は終わりだ」
「俺の氷!俺の麦茶~~!!!」

 ちゃっかり氷の入っている自分のコップを手に持ったままのにひひと笑った。奪い取る。

「今日の飯抜きとどっちがいい?」
「どっちもやだー!!!」

 が泣きわめいている。自業自得だ。普段のお前の挙動がアホなのが悪い。

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